マガジンのカバー画像

詩の場所

92
小山伸二の詩の置き場所です。
運営しているクリエイター

2022年3月の記事一覧

詩集を読む

詩集を読む

『まーめんじ』細田傳造(2022年)栗売社

今年の3月3日発売の細田傳造さんのできたてほやほやの詩集。

1943年生まれの細田さんは、2012年、69歳のときに出した第一詩集『谷間の百合』(書肆山田)で、中原中也賞を最年長で受賞した詩人。

平易な言葉のつらなり、うねり、ささやく世界が、さざなみのように、そよ風のように紙面から立ち上がってくる。
地面に落っこちている記憶のなかの石ころが、細田さ

もっとみる
雲の時代

雲の時代

きみが居てくれたらそれだけでいい
空があるのだから
どのくらいポケットのなかに
重たいものがぎっしり詰まっていても

父さんだって
たくさんの嘘を泳いできたんだ
事業のこととか父親との確執とか
ぜんぶありきたりのこと
母さんだって
恋したこともあったんじゃないかな
あの時代に
グラマンの機影に気づいたのと同じ耳と瞳で
樹を眺め
歌を聴いた
そんなこともあったはずだ

きみがここから見えなくなるのが

もっとみる
鬼を撃たないで 小山伸二

鬼を撃たないで 小山伸二

ベルリンからミュンヒェンに向かう列車の中で

通訳者が隠した書類が

世界の運命を変えたかもしれない

理想と現実

情熱だけでは切り抜けられないんだ政治は

そう一喝される青年外交官

Netflixの配信を見つめるぼくは

採点待ちの学生たちのレポートを

同じパソコンのなかに放置したまま

煙草と酒が嫌いだった鬼のことを思い出す

殺人工場を発明させた鬼

有機農業と菜食主義を世に広めるた

もっとみる