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詩の場所

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小山伸二の詩の置き場所です。
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2015年1月の記事一覧

冬の匂い

冬の匂い

あれはいつ見た夕焼けなのかを忘れた
切れ切れの雲のように
語りつくせない感情を
言葉に結ぶことができないままに
心と呼ばれる場所で
大切にしまったはずなのに

禁断の箱を開けてしまった時から
始まるぼくたちの時間を
神話のカタチにして今日に
伝承してきた、と
教えてくれたひとも
とうの昔に消えてしまった

世界という言葉
それはまるで失われた足跡
見えない影を嗅ぎまわるぼくたちは
帰り道を忘れた老

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冬の旅人

冬の旅人

甲州街道の南側からはじまる水の傾斜
あらたまった年の滴
まるで天から降りてきた伝言のように光る
淋しい頬笑みを湛え
揺れている言祝ぎのとき

ひとが発ち、そして帰る場所
その門前で酒を呑み蕎麦をすする
晴れ着の行き交う街道
ひとの世の駅になって
居なくなったひとを数える

境内の梅の庭を巡る
本の形にくり抜かれた石碑に触る
この町の文学に出会う
あかね色の雲が西に消えていく
冬の風はしずかだ

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