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冬の旅人

甲州街道の南側からはじまる水の傾斜
あらたまった年の滴
まるで天から降りてきた伝言のように光る
淋しい頬笑みを湛え
揺れている言祝ぎのとき 

ひとが発ち、そして帰る場所
その門前で酒を呑み蕎麦をすする
晴れ着の行き交う街道
ひとの世の駅になって
居なくなったひとを数える 

境内の梅の庭を巡る
本の形にくり抜かれた石碑に触る
この町の文学に出会う
あかね色の雲が西に消えていく
冬の風はしずかだ 

参道に蹲って
明日の気配に立ち上がる花の小影
その名前を知りたい
空を素読するひとのように
手を打ち手を結ぶ 

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