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【セルフライナーノーツ】初音ミク「π」 円周率の歌詞を解説してみた

お盆休みということで、今回もセルフライナーノーツを書きたいと思います。

実は10年くらい前に一度だけ、ボカロPをやったことがあります。

といっても、私は楽器も打ち込みも出来ないので、正確には「ボカロPから依頼されて曲をつくったことがある」というのが正しいです。

つまり作詞・作曲だけを担当する「下請けP」。
今回は、そのときのセルフライナーノーツです。

まずは、お聴きください。初音ミクで「π」

「π」の曲と歌詞

「π」
 作詞・作曲:字一色
 アレンジ・演奏:kenZ
 歌:初音ミク

丸い地球の 広い世界で
たったひとりの キミと出会えた
ボクの中心(こころ)の 球体の中
キミのビジョンだけを 拾い集めてく

Ah 聞かせてよ 真実(ほんとう)の声を
理論と記号じゃ 割り切れない
キモチの解答(こたえ)を

まわる まわるよ まわってく
この地球(ほし)の上 狂おしいほどに
希望への道のりは 永遠のように
ボクを惑わせる 3.14(スリー・ポイント・ワン・フォー)

まわり続ける 眩暈の宇宙(そら)で
気づけば独り 始まりの場所
ボクの意識は 混乱の中
キミを想うと ロジックが薄れてく

Ah 教えてよ アルキメデス
無理数のように 割り切れない
キモチの行方を

めぐる めぐるよ めぐってく
あの惑星(ほし)さえも いつかは消えるの
憧れの数値(カウント)は 無限の果てへ
ボクを連れて行く 3.141592653589793238462643383279・・・

眩暈も 迷いも 憂いも 超えて
真実(ほんとう)の 解答(こたえ)に 辿り着けるまで

めぐる めぐるよ めぐってく
夢もうつつも メビウスの輪のなか
繰り返すアルゴリズムを 断ち切って
ひとり走り出す 3・2・1・0

まわる まわるよ まわってく
この地球(ほし)の上 狂おしいほどに
希望への道のりを 永遠(とわ)の彼方へ
ずっと追いかけて 行くよ

めぐる めぐるよ めぐってく
あの惑星(ほし)までも 届くようにと
憧れの速度(スピード)は 光を超えて
ボクを連れて行って 永遠に
Ah

ボカロPの友人から作詞の依頼

私に依頼してくれたのは、デザイナーをしている友人のkenZさんです。
彼はもともとギターをやっていて、以前から曲づくりをしていたのですが、時流に乗ってボカロPも手掛けていました。

一方私は、ユーザーとして初音ミクを聴く程度。
機械も楽器もまったくダメなのでボカロPなど出来るはずもなく、遠くから憧れるのみです(笑)

そんな折、彼のボカロP活動を知った私は「コピーライターは作詞もします」と彼に接近。作詞をさせてもらうことになったわけです。

私の場合、先に曲があって、その曲に歌詞を付けるという「曲先」というパターンが多いのですが、今回のご依頼は「詞先」とのこと。
つまり、曲無しで歌詞を書く作業です。

ポップスなどではリズムとコード進行が大切なので、自由な文字数で書くと曲を載せにくくなってしまいます。かといって七五調と決めてかかると単調な曲になってしまう。

先に曲が無いと作詞しにくかったので、彼には内緒で、仮の曲をつくっちゃいました。歌詞だけ納品すれば問題ないですしね。

まぁ結果的には、曲も気に入ってもらえたので納品しちゃいましたが(笑)

テーマは「人の気持ちの不可解さ」

歌詞のテーマをどうしようか。

初音ミクなどのボーカロイドは細かい設定が無いので、アーティストの世界観から自由につくれるというのが魅力です。
逆に言うと、「世界観も含めて、すべて自分でつくらなくてはならない」ということです。

初音ミクに、どんなメッセージを歌ってもらうべきか。

ボーカロイドは擬人化されたプログラムなので、コンピュータの演算がテーマのヒントになりそう。
当時の記録媒体は、CD-ROMも内蔵ハードディスクも円盤の形をしていたので、「円環」とか「廻る」というものアリかも。

ボーカロイドというプログラムは、どのくらい人間の気持ちを理解できるのだろうか。
人の気持ちには正解も終わりも無くて、永遠に考え続けないといけない。
ぐるぐる、ぐるぐる。永遠に答えの出ない問題を考え続ける。

そう、円周率の演算のように。

ということで、プログラムには不可解な人の気持ちを、円周率のように割り切れない、答えの出ない演算として描いてみよう、となったわけです。

円周率だから、タイトルは「π」に決めました。

歌詞とギミックの解説

私の書く歌詞には必ず何かしらのギミックが入っているのですが、今回はそんなに多くないです。

①英語の歌詞に挑戦
当時の初音ミクの音声は、日本語の50音で録音していたので、「英語が苦手」と言われていました。

ならば英語に挑戦してみよう。

ということで、円周率の「3.14」は、あえて「スリー・ポイント・ワン・フォー」にしています。
ラスサビの前で「スリー・トゥー・ワン・ゼロ」に変わりますが。

間奏部分に入るときには、円周率を延々と唱え始めます。

②数学関連の用語
全体的に円周率と数学をモチーフにしているので、円周率を求めたギリシャ時代の数学者アルキメデスや、「メビウスの輪」で知られるフェルディナント・メビウスなど、数学者が登場します。

また、理論、記号、無理数、アルゴリズムといった数学用語も多く取り入れました。

③曲の長さも3.14
気付いた人はほとんどいなかったのですが、曲の長さが3分14秒です。

おわりに

ボカロの曲は初めてだったので、あまりギミックは凝らしてないですが、ボーカロイド初体験できた思い出深い曲です。

私は作詞をするとき、「YOUR MOON」の古語のように、普段聞き慣れない言葉を使うのが好きなのですが、この曲は数学用語を使ったり、円周率を延々と唱えたり、結構楽しい演出ができたかなと思っています。

また機会があればボカロPをやってみたいですね。



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