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#美の来歴

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古今の美術作品と歴史のかかわりをたどるエッセイ。図版と資料をたくさん使って過去から未来へ向かう、美の旅へようこそ。
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#セバスチァン

三島由紀夫という迷宮③   「太宰さんの文学は嫌いです」                 柴崎信三

三島由紀夫という迷宮③ 「太宰さんの文学は嫌いです」 柴崎信三

〈英雄〉になりたかった人❸

 終戦の年に20歳の三島由紀夫が書いた短編小説『岬にての物語』では、11歳の彼が家族とともに避暑に出かけた外房の鵜原の海岸を舞台に選んで、白日夢のような奇譚が語られる。
 母と妹と書生とともに避暑で訪れた房総の海辺で、11歳の主人公の少年は散策の途中、別荘の廃屋から美しいオルガンの旋律が流れてくるのを聞く。誘われるように中へ入ると、ひとりの青年と美しい少女に出会い、か

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三島由紀夫という迷宮②     ダンヌンツィオに恋をして           柴崎信三

三島由紀夫という迷宮② ダンヌンツィオに恋をして      柴崎信三

〈英雄〉になりたかった人❷

 毎年師走が近づくと、半世紀前の〈あの日〉の市ヶ谷台を包んでいた異様な熱気と興奮を思い起こす。                        

 現場に到着した時、上空ではまだ取材ヘリの爆音が響いていたが、すでにことは終わっていた。バルコニーに立った三島由紀夫の最期の演説を聞いた自衛官たちは三々五々前庭から立ち去り、東部方面総監室の前の壁面に〈楯の会〉の檄文の幟が垂

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