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「出版社での仕事(その1)秘書室編」

前回は、「本にまつわる思い出」について書きました。
今回は、「出版社で最初に就いた仕事」について書きたいと思います。

私が初めてお会いする方に「出版社に勤務していた」と言うと
「編集ですか?」と聞かれることが多くあります。
「出版社の仕事=編集の仕事」とイメージされることが多いようですが、
出版社も他の会社と同じように、様々な部署や仕事があります。
私が出版社で就いた初めての仕事は、秘書室の「秘書」でした。

今から20年以上前、派遣で秘書として働いていた時に、前職の会社が「秘書(正社員)」を新聞の求人欄で募集しているのを目にしました。
秘書経験が3か月しかなく躊躇しましたが、応募したところ、ご縁があり入社しました。

私は、経験が浅かったため、入社してから、秘書としての心構えなど一から学ぶことになりました。私が指導を受けた「秘書の鏡」の社長秘書Aさん(60代男性)からは、本当に多くのことを学びました。
最終的に、入社から6年半くらい秘書をした後、異動になりましたが、忘れられないエピソードが3つあります。

【愛のある注意の仕方】

秘書として、勤務し始めたころ、慣れないことが多く、立て続けにミスをしました。
ある日の昼休み、秘書室ではAさんと私の二人きりになりました。その時、初めてAさんから直接「あの時は、ああすれば良かった。この時は、こうすれば良かった」と注意されました。
そして、最後に一言「君が良い秘書になれると思っているから、注意するんだからね」と言われました。
みんなが見ていない所で注意する配慮や愛のある注意の仕方に、私は思わず涙をこぼしました。

【相手を立てる伝え方】

ある日、私の担当する役員が車の中に傘を忘れ、運転手が届けに来ました。私が預かり、役員に届けようとしたところ、Aさんから呼び止められました。
Aさん:「役員に何と言ってお渡しするつもりだ?」
     私 :「(そのまま) お忘れになった傘を運転手が届けに来ました」
Aさん:「それじゃだめだ!忘れたなんて言われると、役員が恥ずかしいだろ!」
     私 :「それでは、何と言ってお渡しすれば良いですか?」
Aさん:「運転手が、気が付かなくて申し訳ありませんでした。と言ってお渡ししなさい!」
    私 :「(目から鱗) 承知しました!」
私は、Aさんから「役員に恥をかかせてはいけないということ。相手を立てる伝え方」を学びました。

「スケジュールの組み立て方」

当時、社員が社長への面談を希望する際は、緊急ではない限り、前日までにAさんに電話でアポイントを取るのが習わしでした。
電話が入るとAさんはまず、最初に内容を確認(良い報告か、そうでない報告か)した上で、最初に良くない報告を、そして最後に良い報告になるように、前日にスケジュールを組んでいました。
それは、良くない報告を先にし、良い報告を後にすることで、社長にその日、気分良く帰って頂けるからです。そして、社長はご高齢だったため、気分にムラが出ないように体調にも配慮していたようでした。

最後に、Aさんが言っていたことで忘れられない言葉があります。
それは「社長は孤独である」ということです。
「社長は勤務している社員だけではなく、その家族に対しても責任を感じており、それを一人で抱えている。」とAさんは私に話されました。
当時の私は、社長の気持ち(孤独であるということ)をあまり理解できていませんでした。しかし、中小企業診断士になってから、秘書の時には理解できなかった社長の気持ちが、少しずつ理解できるようになりました。
秘書の仕事は、中小企業診断士として働く上で、とても貴重な経験となりました。秘書の経験を活かし、今後は中小企業診断士として「経営者の気持ちに寄り添い一緒に考えるような伴走型の支援をしたい」と思っています。

今回「本」とは直接関係のない話になりましたが、「出版社には、こんな仕事もあるんだ」ということを知ってもらえたら嬉しいです。実は、様々な部署や仕事が間接的に関わることで本が生まれているのです。
次回は「出版の現場」である「出版社での仕事(その2)販売部編」を書きたいと思います。

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