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品川駅港南口エリアを「みんな」の街へ。変化するために今、必要なこと 【竹内雄一郎 氏(寄稿)】

ソニーコンピュータサイエンス研究所で、未来の都市のあり方について研究している竹内雄一郎氏。ここ数年はWikitopia Project(https://wikitopia.city)という研究プロジェクトに専念しており、正式な所属は2020年に新しく立ち上がった京都研究室ですが、今でも月の半分程度は東京で過ごしています。

今回はそんな竹内雄一郎氏に、今の品川駅港南口エリアや、これからの街づくりのポイントについて伺いました。

竹内雄一郎 (たけうちゆういちろう)
- 計算機科学者
- 株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員
- 一般社団法人ウィキトピア・インスティテュート代表理事

計算機科学者。トロント生まれ。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員、および一般社団法人ウィキトピア・インスティテュート代表理事。東京大学工学部卒業、同大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、ハーバード大学デザイン大学院修士課程修了。ニューヨーク大学クーラント数理科学研究所客員研究員、科学技術振興機構さきがけ研究者等を経て現職。情報工学と建築・都市デザインの境界領域の研究に従事。

コロナパンデミックで問われる、働き方や街のあり方

2020年の春、職場で原則在宅勤務の方針が打ち出された頃は、いずれ今回のパンデミックが終息したら何事もなかったようにみんな元の生活に戻るのだろうと思っていました。「これからはリモートワークの時代だ」なんて話を聞くのは、今回が初めてではなかったからです。

今から20年くらい前、"The Death of Distance"(距離の死)という本が欧米で出版され話題を集めていました。一般家庭におけるインターネット契約が当たり前になり、これからは自宅からテレビ会議が行えるのでオフィスに行く必要がない、だから渋滞や満員電車に苦しまなくてもいいし、家賃の高い都会に住む必要もない。そんな話があちらこちらで聞かれましたが、蓋を開けてみればほとんどの人は狭い都会に住み続け、毎日オフィスに通い続けました。それからさらに10年近く経って、スマートフォンが普及し街のどこにいてもワイヤレス通信が行えるようになると、今度こそは、とまた同じような話が盛り上がりました。しかし、結局我々は相変わらずオフィスに通い続けました。そうした経緯もあって、ポストコロナなんて言ってもどうせ騒がれているほどの変化はないだろうとたかを括っていたのですが、問題が長引くにつれて、今回はどうも違うのではないかと思うようになりました。

ビジネスというのは一見徹底して合理的なようでいて、実は慣習に従っている部分が大きいと思います。たとえば日本は未だに新卒信仰が根強く、内心不合理だと感じている人は多くても、深く根付いた慣習を変えることはなかなか難しい。ついこの間までは、履歴書も手書きが一般的でした。リモートワークにしても、それを可能にするテクノロジーは随分前から整っていて、普及を阻んでいたのは慣習だと思います。その慣習が、今回のパンデミックが大方の予想を超えて長引いたことで、強制的に撤廃されました。働き方や街のあり方について、大きな転換点になるのではないかと思っています。

生活圏とも近いオフィス街、品川駅港南口エリア

私は去年からは東京と京都を行ったり来たりする生活を送っているのですが、それまではずっと品川エリアのオフィスに通勤していました。自宅も徒歩圏ですし、趣味のテニスも品川プリンスでやっていて、日々の生活のほとんどがこの一帯で完結していた形です。行動半径が狭いと馬鹿にされそうですが、最近では15 minute cityや20 minute neighborhoodといったスローガンが掲げられるなど、自宅周りの狭いエリアであらゆるニーズを満たせる生活というのは、国際的にはむしろ目指すべきモデルとして捉えられています。パリやメルボルン、ポートランドなど世界中の都市が、そうした生活を提供できる街づくりに向けて努力しています。品川は、昔からそのような生活が自然と実現できる街だと思います。それは世界に向けてアピールできる、この街の魅力なのではないでしょうか。

ただ白状すると、実は私のオフィスは港南ではなく高輪方面にあって、昔から港南口にはソニー本社に行くために時々訪れるといった程度です。駅の東側はあくまで仕事をしに行く場所、という印象なのですが、最近はレストランなども以前より増えていて、多様な年齢層の人が集まる街に少しずつ変わってきているように見えますね。

品川が臨機応変に組み替え可能な街に生まれ変わるには

コロナ禍を機にリモートワークが一般的になることで、今後は家事や育児と仕事とのバランスが取りやすくなったり、ラッシュアワーの混雑が軽減されたりするかもしれません。しかし、いいことばかりではないだろうとも思います。未来のことなのでどうしても当て推量になってしまいますが、たとえば円滑なリモートワークを可能にするテクノロジーの数々や、各企業が現在進めているリモートワーク対応を見据えた業務プロセスの転換が、同時に地方や外国への低価格での業務のアウトソースも容易にしてしまったりはしないでしょうか。多くの会社の業務が次から次へとリモート化、やがてアウトソースされ、そうした仕事に就いていた労働者は職を失うか物価の安い地方に移住する。結果として希少な専門技能や高いクリエイティビティ、卓越したリーダーシップなどが求められる仕事をこなす一握りのスーパースターだけが都心で働く。仮にそんな未来になってしまったら、日本有数のビジネス街である品川は今以上に高スキルかつ高所得の、知識集約型産業のプロフェッショナルがひしめく街になるかもしれません。おしゃれなカフェやレストランが並び、緑も多く、託児所などのアメニティも充実している。しかし大多数の人には手が届かない、格差社会を絵に描いたような街です。個人的には、未来の品川にはぜひそうじゃない街、「みんな」の街になって欲しいと思います。

港南口駅前広場に限った話をすると、現状は少し殺風景ですし座って落ち着ける場所も少ないので、そこは改善の余地がある気がしますね。思いつきですが、毎年異なるデザイナーや建築家の方に、実験的なストリート・ファニチャーを仮設的に作ってもらうなどというのはどうでしょうか。ロンドンのサーペンタイン・パビリオンの小型版、ローカル版といった感じです。「街を歩く人に休憩場所を提供する」といった最低限のリクエストだけ提示して、後は自由な発想で作ってもらう。今は何もないあの広場ですが、ある年にはジャングルジムのような構造物が出現するかもしれませんし、別の年には植物で埋め尽くされたりするかもしれません。そうした取り組みがうまく機能し得る広場というのは、ありそうでなかなかないものですので、港南の独自性を打ち出せる面白い試みになるのではないかと思います。

後は、ちょっと宣伝のようになってしまって恐縮ですが、私が実現に向けて研究を進めているWikitopia――オンライン上の百科事典Wikipediaのように、みんなで臨機応変に編集、改良し続けられる未来の街――のモデルケースに品川がいずれなってくれると嬉しいですね。

ソーシャルディスタンス確保の要請を受けて、レストランが席やテーブルを離したり、そこかしこにアクリル板を立てかけたりするのを見ることが一般的になりました。もし、都市空間もレストランの内装と同じように臨機応変に組み替えることが可能であったなら、より効果的に感染の拡大を抑えることができたかもしれませんし、二度目の緊急事態宣言を出さずに済むシナリオもあり得たかもしれません。私は、そうした組み替え可能な街というのはテクノロジーの力で実現できると考えています。パンデミックの発生は今世紀これで最後ではないでしょうし、今後は気候変動による自然災害など、予期せぬ事態に社会が対応を迫られる場面は増えていくでしょう。日本には常に地震の恐怖もあります。都市は、急な災害や社会的変化にも迅速かつ柔軟に対応できるよう、生まれ変わるべきだと思います。


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竹内さんをはじめとした登壇者の皆さま、そして本記事をお読みいただいている思いある”品川港南”地域の皆さま、このエリアにご興味を持っていただいた皆さまと一緒に、エリアの未来に思いを馳せるイベントを2月25日(木)夜に開催いたします。

ぜひ、ご参加ください。当日(オンラインではございますが)お会いできることを楽しみにしております。

ー 品川スタイル研究所

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