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コロナ禍の「濃・薄」「雑・整」を踏まえたまちのあり方 【木村 篤信 氏(寄稿)】

地域の人たちといっしょに次の時代の新しいまちづくりや社会課題解決につながるテクノロジー開発に取り組んでいる木村 篤信氏。意識にしているのは、人間を大事にする社会やテクノロジーのデザインだと言います。

そして、昨年から続くコロナ禍は暮らしにさまざまな影響を与えていますが、これまでの暮らしのあり方を見直す契機にもなっています。

「濃・薄」「雑・整」をキーワードに、これからの品川エリアをより良い地域にしていくためのヒントについて寄稿していただきました。

木村 篤信(きむらあつのぶ)
- NTTサービスエボリューション研究所 主任研究員
- デザインイノベーションコンソーシアム フェロー
- 一般社団法人 大牟田未来共創センター(ポニポニ)パーソンセンタードリサーチャー

大阪大学,奈良先端科学技術大学院大学を修了後,NTT研究所に入社,博士(工学).主としてHCI、CSCW、デザイン、リビングラボの研究開発に従事.現在は、大牟田市のポニポニや奈良市のTOMOSUとともに、次の時代の新しいまちづくり、地域経営、サービス開発のあり方を実践&探索中。著書に「ユーザビリティハンドブック」「新情報通信概論」「2030年の情報通信技術 生活者の未来像」「リビングラボの手引き - 実践家の経験から紡ぎ出したリビングラボを成功に導くコツ」。

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「密・疎」だけでない、まちの「濃・薄」「雑・整」

3密が喧伝されたことによって、Beforeコロナの社会が、人と人との対面が前提であったことや、都市化のトレンドに限界があることなどが指摘されている。ヤフーCSOの安宅氏は自身のブログ[1]等で、これまでの密密化のトレンドが開疎化(開放×疎)の方向に転換することを述べているが、その通りだと思う。

これからのまちづくりのための論点は、物理的な「密→疎」という転換以外にもいくつか挙げられるが、本稿ではまずはソーシャル・キャピタル(社会関係資本)[2]について考えてみたい。

「密→疎」の転換は、物理的な距離、具体的には人口密度、によって切り取った議論であり、人類の文明が進むにつれて人口密度は増してきたが、コロナによって転換を余儀なくされたことを指摘している。

一方、ソーシャル・キャピタルについてはどうだろうか?自殺[3]、孤立死[4]、児童虐待[5]、ひきこもり[6]がコロナの影響で急増しているという事実が、ニュースや調査報告等で伝えられており、ソーシャル・キャピタルが希薄化するトレンドがあると言えるかもしれない。

しかし、少し振返ってみるとそのトレンドはBeforeコロナでも存在していた。例えば、ひきこもりについていえば、2019年には中高年ひきこもりが61.3万人と推定されたことが報告された[7]。広く社会的な関係性を捉えると、核家族化、地域でのつながりの希薄化、単身世帯・ひとり親世帯の増加などは近年指摘され続けている。

では、ソーシャル・キャピタルが「濃→薄」に転換したポイントはどこと考えられるだろうか?

ここからは試論になるが、一つの可能性として、近代科学[8]による影響を考えてみたい。近代科学の、複雑な社会や人間を理解するのに、客観的で法則性がある数式的な考え方を活用しようとするスタンスの影響である。

その例として、ここではジェイン・ジェイコブズの議論[9]を挙げる。彼女は都市化が歩道や公園などの公共空間の多様性や猥雑さを奪う方向で開発が進められていたことに警鐘をならした人である。つまり、歩道や公園などを場所ごとに用途を設定して整然とした形で都市化していくことで、ある場所に目的の異なる人が来ることや異なる時間にまんべんなく人がいる状況などが失われていき、関係性の希薄化、治安の低下につながる可能性が高まる。ソーシャル・キャピタルの「濃→薄」のトレンドは、まちの空間における雑然さから整然さへのトレンド「雑→整」とも言い換えられる。

科学技術が社会を「雑→整」へ転じていく営みは、一方では社会生活を豊かにする光の面をもつが、もう一方では公害・環境汚染・自然破壊・生態系破壊・科学兵器・原発事故・生命操作・人間疎外といった人類を脅威にさらす影の面があることが指摘されている[10]。まちづくりの文脈では、それがソーシャル・キャピタルの希薄化「濃→薄」への変化になるだろう。

「濃・薄」「雑・整」を踏まえたまちのあり方

これらのトレンドを踏まえると、コロナ感染拡大を避けるための物理的な「密→疎」という転換に加えて、それを実現する手段として推進されるデジタル化は、まちの空間における「雑→整」を加速させ、ソーシャル・キャピタルの「濃→薄」に影響を与える可能性がある。

敢えて極端に書いたのは、現時点での「密→疎」のトレンドの強さを考えると「雑→整」「濃→薄」の危険性を強調してバランスを取ることが必要な時期とも思えるからである。現実の暮らしの中で「密→疎」が要請される中で、空間の雑然さを保ち、ソーシャル・キャピタルの希薄化を防ぐ方向に変えていくということは相当にパワーが必要なことである。特にトップダウンでの意思決定は、外形的な問題に意識が向かいやすく、内実的な問題を等閑視しやすい。

また、コロナの影響がなくなったとしても、これからの社会は、超高齢社会、格差社会などと言われ不確実な状況が差し迫っている。そんな中、トップダウンだけでまちのあり方を考えて変えていくことには大きなリスクが伴う。実際、生活者と共創しながらスマートシティなどに取り組むリビングラボという実践[11]や気候変動に取り組むトランジション・マネジメントと呼ばれる実践[12]では、トップダウンで専門家だけが集まり構想を議論しただけでは社会実装にまで至らない可能性が懸念されている。

つまり、これからのまちのあり方に求められるのは、 トップダウンだけではない、ボトムアップの活動と連携しながらみんなで「変えていけるまち」の土壌をつくっていくことだと考える。

品川エリアを「変えていけるまち」にするリビングラボ

木村様2

図1:スウェーデン マルメの公共の場で行われたリビングラボの1シーン

これらの試論を踏まえて品川エリアを見てみるとどうだろうか。

江戸時代から東海道の宿場町として栄え、現在でも交通の要衝であり、港区港南エリアに限っても、昼間人口は8万人を超えている[13]。筆者の知っているところでは、Beforeコロナには桜祭りや夏祭り、ハロウィンイベントなどの季節のイベントに加え、地域住民やエリアマネジメント会社が主催するイベントもあり、地域の生活者や企業社員、行政職員が積極的に参加されている印象があった。さらにコロナ禍においても、コロナ対策をしたイベントや工夫を凝らしたオンラインイベントが続けられており、密を踏まえたうえでの、濃・雑な要素が大切にされていると感じる。そして、トップダウンだけではない、ボトムアップの活動が既にあることは、みんなで「変えていけるまち」の土壌が耕されていると言えるかもしれない。

今後、「変えていけるまち」の土壌をより豊かにしていくためには、属人的なリーダーシップだけではなく仕組みとして共創を立ち上げていくリビングラボの知見が役に立つだろう。例えば、スウェーデン第三の都市マルメのリビングラボでは、移民の問題、食や住などの持続可能なライフスタイルのあり方、公共空間のデザイン、開発への市民参加など、暮らしに関わるテーマが取り組まれている[14]が、ここでは多様な市民の主体的な参画を促すために、さまざまな工夫を行っている。地域にあるNGOや行政と連携しながら当事者を巻き込んでいくとともに、未来を作り出す活動を生み出すために若者やフットワークの軽いIT企業やIT系の学生も巻き込むことに注力している。また、開かれた対話の場にするために、公共の場で課題意識をヒアリングしたり、アイデアについて議論したりする活動も行っている(図1)。

地域で既に取り組まれている活動をベースにし、港南口駅前広場などを活用する開かれたかたちでの対話や活動が積み重なっていくことによって、新しいまちのあり方を市民や関係者が主体的に生みだしていくことを期待したい。

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*本稿におけるインターネット情報の最終アクセス日は、令和3(2021)年1月15日である。

[1]開疎化がもたらす未来 2020-04-19 https://kaz-ataka.hatenablog.com/entry/2020/04/19/131331#fn-6978b7c0

[2]その人がその人らしく生き、生産的な活動をしていく上で必要な社会的知識や社会的つながりのことを意味する用語。この用語を有名にした米国の政治学者パットナムの書籍では、「ソーシャル・キャピタルとは、人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会的仕組みの特徴」とされる。Putnum R. Making democracy Work. Princeton University Press, Princeton, 1993

[3] 清水康之、コロナ禍における自殺の動向、2020 https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000707293.pdf

[4] 河合薫, コロナで孤立死急増、4人に1人が75歳超社会突入という地獄, 2021年1月6日, https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00110/

[5] NHK、児童虐待対応件数 過去最多のペース コロナで潜在化の可能性も、2020年9月30日 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200930/k10012641041000.html

[6] Rooksby, M., Furuhashi, T. and McLeod, H.J. (2020), Hikikomori: a hidden mental health need following the COVID‐19 pandemic. World Psychiatry, 19: 399-400. https://doi.org/10.1002/wps.20804

[7] 内閣府、生活状況に関する調査 (平成30年度)、2019、 https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/life/h30/pdf-index.html

[8] 古川は、近代科学が「物理的世界の複雑な現象を数学の言葉に置きかえて理解する数学的自然観の興隆」から始まったと述べている。古川安,科学の社会史,2018.

[9]ジェイン・ジェイコブズ, アメリカ大都市の死と生, 2010.

[10]古川安,前掲注8

[11] リビングラボとは、生活者(市民)・企業・行政が「共創」して新しい価値(技術や製品・サービス、政策、社会課題解決活動など)を生み出す方法論であり、欧州を中心に世界中で取り組まれている。日本でも経産省・厚労省がリビングラボの事業を開始するなど注目を集めている。リビングラボの書籍は日本にはまだ存在しないが、リビングラボの概要や歴史、効果、課題については、以下の論文を参照されたい。木村ら「社会課題解決に向けたリビングラボの効果と課題」『サービソロジー』5 巻 3 号, 2018.10, pp.4-11.  https://www.jstage.jst.go.jp/article/serviceology/5/3/5_4/_html/-char/ja

[12] トランジション・マネジメントは、環境の持続可能性に関する社会システムの批判のために始まった方法論であるが、それに対する批判の一つとして、“何百万もの人が影響を受ける社会科学レジームの構造変換が、将来を見越した先駆者である一部のエリートに導かれている。”[Smith, A. and Sterling, A. (2008) Social-Ecological Resilience and Socio- technical Transitions: critical issues for sustainability governance, STEPS Working Paper 8, Brighton: STEPS Centre]という指摘があり,これは,専門家によるトップダウンのプロセスだけでは、社会実装(実行フェーズ)において国民・住民の同意や協力を得られないことが課題として示唆している。

[13] 国税調査によると港区港南エリア(港南区1丁目から5丁目)の人口は、夜間人口2万人に対して昼間人口8万人を超えている。総務省、平成27年国勢調査、2015.

[14]マルメリビングラボのLiving Lab the Neighbourhoodプロジェクト http://medea.mah.se/living-lab-the-neighbourhood/


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木村さんをはじめとした登壇者の皆さま、そして本記事をお読みいただいている思いある”品川港南”地域の皆さま、このエリアにご興味を持っていただいた皆さまと一緒に、エリアの未来に思いを馳せるイベントを2月25日(木)夜に開催いたします。

ぜひ、ご参加ください。当日(オンラインではございますが)お会いできることを楽しみにしております。

ー 品川スタイル研究所

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