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「日本の新しい姿を感じ取れる解放区」へ。品川で働く人、住む人が考えたい街のあり方 【山下 正太郎 氏】

コロナ禍の影響により、オフィスの機能や役割は大きな転換期を迎えています。国内最大級のオフィス街「品川」も例外ではありません。働くことだけに特化された街という印象もあったこの街がこれからどう変わっていくのか……品川エリアの「まち」に関連する研究員の皆さんに、未来の品川の姿を伺いました。

今回はコクヨ ワークスタイル研究所所長の山下 正太郎 氏に、オフィスのこれからや、世界の街作りのトレンドも踏まえ、品川がこうなったら面白いというビジョンをご紹介します。

山下 正太郎 氏(やましたしょうたろう)
- コクヨ ワークスタイル研究所所長
- WORKSIGHT編集長

京都工芸繊維大学特任准教授。ニュースレター「MeThreee」発行人。成熟企業のワークスタイルに関するコンサルタント/研究者。複数の担当企業が日経ニューオフィス賞受賞。2016~17年、英ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員研究員。著書に「オフィスビル2030」(共著)など

コロナ禍によりオフィスの役割は「NEW NORMAL」へ

新型コロナウイルス感染症の影響が日本でも出てきた頃、オフィスのあり方をリサーチし、情報発信することを生業にする者として、自分たちのビジネスはこれからどうなるのか、一瞬不安がよぎりました。

しかし蓋を開けてみれば、社会的情勢や経済状況が変わることによって、むしろ働き方やオフィスの新たな形を模索する動きが活発化しました。特に今回のパンデミックは、これまで続いてきた職住分離の傾向に歯止めをかけ、リモートワークとオフィスのバランスを見直す大きな契機となりました。

多くのリサーチが示すように現段階での結論から言えば、都心のオフィスニーズは堅調で、たとえ減少してもせいぜい面積の5~10%くらいではないかという予測です。注目すべきは面積ではなく、その利用目的や意味の変化についてです。

これまでの仕事は、習慣として毎日オフィスに出社し、居合わせたメンバー同士の阿吽の呼吸で成り立っていた部分が多かったと思います。特に日本企業では、相談やすり合わせといった、調整的な業務に時間を割いてきました。これは文化人類学者エドワード・T・ホールが提唱した日本の空気や文脈を重視するハイコンテクスト・カルチャーが影響しています。日本的な職務を明確に規定しない労働慣行も、さらにお互いの空気の読みあいを助長してきました。

コロナ禍によって、企業はパンデミック前から続く終身雇用の見直しを加速し、社員に明確な成果と役割を期待するジョブ型への移行を鮮明にしています。これによって今後は空気よりも決め事が優先させるローコンテクスト・カルチャーへと変化していくことが想定されるわけです。

その前提に立ってリモートワークとオフィスをどう組み合わせていけばいいのか。これからのニューノーマルの変化について図で説明したいと思います。これまでの毎日オフィスに通勤するハイコンテクストに偏重したオールドノーマルな企業では、時間を決めて行う会議のようなスケジュールドワークも、突発的に起こる相談や雑談のようなノンスケジュールドワークもオフィスで行うことが中心でした。

一方、ニューノーマルの世界では、ジョブ型が進み仕事のコンテクスト下がります。また、部門間の調整要素も減り、会議などのスケジュールドワークも減少していきます。そうして毎日通勤もしないようになるわけです。現段階での調査では、ワーカーの多くが週1~2日程度のオフィス勤務を望む声が多く上がっています。新しいオフィス像は、オンラインでは代替できないハイコンテクストな業務を行うために、日を決めて「わざわざ」集まる場となります。

山下様1

さらに言えば、オールドノーマルでは多くの人がオフィスにいることで起こっていた偶然のハイコンテクスト×ノンスケジュールドな雑談は、オフィスで期待することは難しくなりオンラインで代替されなくてはなりません。これが 音声SNSのClubhouse はじめ様々なプレイヤーが参入する 4th Place として今後の注目される領域です。

働くことに最適化された「無色透明」な街、品川

オフィスの今後を語った上で、現在の品川駅港南口エリアをどうみるか。

コクヨは品川にオフィスを構えて40年ほどになりますがその間、インターシティの再開発などを通じて日本を代表するオフィス街に成長したという印象があります。もちろんこのエリアはタワーマンションも多く、住まれている方もたくさんいらっしゃいますが、あえて言えば「平日の働くこと」だけに特化した機能的な街だと感じます。新幹線・空港のアクセスが良く、仕事終わりや接待に利用できる飲食店も多く、仕事する上では便利な反面、プライベートな感情を刺激することもない「無色透明」なイメージもありました。

そうは言っても存在していたワーカーによる街の活気も、コロナ禍で通勤者が減り寂しい状況が続いています。コクヨも出社する社員は30%以下になりましたし(以前からリモートワーク、フレックスタイム制を採用しており、いつどこで仕事してもよかった)、周りの企業も特別な理由がない限り在宅勤務を優先する方針ではないかと思います。

職と住が融合したコンパクトな街へ

では、そんな品川のオフィス街が他の街と違う点といえば何でしょうか?

ひとりのワーカーとしてみると、1つ1つのビルに企業名がしっかりと表れているというのは特徴で、ユニークなプロダクトを出す企業も多い印象です。しかし、せっかくの企業活動と地域に接点がなく、品川=ユニークな街と連想されないのは残念ですね。

例えば、コクヨで文具ショップを出してみたり、食品メーカーが自社商品をテーマにしたカフェを出してみたり、もう少しダイレクトに地域住民や品川に訪れる人たちに向けた活動を展開すべきではないでしょうか。品川駅は日本で5番目に乗降客数が多い駅ですが、今は単なる通勤と乗り換えのためにしか使われておらず、PRやダイレクトマーケティングなど、企業活動に活かすポテンシャルがあると思います。

また、品川に住む市民の目線で考えてみると、世界的な潮流である職住分離と真逆のコンパクトなエリアに進化すると面白いなぁと思います。例えば、スウェーデンでは自宅から1分間以内で行ける範囲を充実させる「One-Minuite City」や、9ブロックを一つのブロックに見立てるバルセロナの「Super Block」のように、住宅の周辺環境をパブリックスペースや近隣を移動するためのモビリティの起点として整備することで、職住が一体となった日常生活のクオリティを高めようという実験が行われています。

こうした動きは、大都市があまりにも大きくなってしまい、渋滞や郊外、長時間の通勤など非人間的な街になってしまった反省からきています。都市を分解して小さくすることで「自分自身の街」と感じることができ、自己効力感の向上につながったり、そのエリアへの愛着感につながるわけです。

品川はすでに、住居エリアのそばに巨大なオフィス街があります。建築家のルイス・カーンが「都市とは、その通りを歩いているひとりの少年が、彼がいつの日かなりたいと思うものを感じ取れる場所でなくてはならない」という言葉を残していますが、子どもたちが遊びながら、大人が仕事をする姿を感じとれる場になれるポテンシャルがあると思います。

品川は実験的に新しいことへチャレンジできる街

冒頭で品川は無色透明だと話しましたが、それは逆手に取る方法もあると思います。多くの街では、今まで築いてきた文化やしがらみのせいで新しい変化が生まれづらい状況があるわけですが、品川はこれから何色にでも染まることが出来る強みがあります。日本の新しい都市像のプロトタイプとして実験的な動きが出てきてほしいところです。

例えば、スペインのバルセロナは、都市内で自律的な循環を作る「Fab City」というコンセプトを立ち上げています。これまでの「作る、消費する、破棄する」の物の循環をグローバルなサプライチェーンで繋げていたところを、Fab City ではエリアごとにファブラボ(施設)を作り、市民が必要なものを自分で作り、捨てるときは自分で分解するという役割を多義化させ市民のケイパビリティを引き出すわけです。品川の住民が、消費者ではなく自分で物を作りだす生産者に生まれ変わったとしたらワクワクしませんか?

また、オランダのアムステルダムのクリエイティブな港湾地区「NDSM」も参考になります。工場跡地を再開発した巨大なワークスペースと広場があるのですが、広場ではさまざまなイベントが開かれ、そこで得た収益をまた次のイベントに還元されるという非営利で運営されており、時代の先を行くような挑戦的な試みがやりやすいというのが面白いところです。

品川にも駅前に大きな広場はありますが、品川で働く人や企業の実現したい未来がにじみ出るような場所になるといいのではないでしょうか。これからの就労観を考えると、ひとつの企業だけに勤めるという時代ではなく、副業や起業などがさらに増えるはずです。であれば、17時まで企業で働き、17時以降は品川の広場で自分が起業した会社のデモブースを出してユーザーの反応を見てみるというようなことがあってもいいと思います。

品川は新幹線の駅もあり、羽田空港からも近い、東京の玄関口の1つ。大企業で働くワーカーや、住人、ここを訪れる観光客などが交わり、日本の新しい姿を感じ取れる解放区になれるといいですね。


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山下さんをはじめとした登壇者の皆さま、そして本記事をお読みいただいている思いある”品川港南”地域の皆さま、このエリアにご興味を持っていただいた皆さまと一緒に、エリアの未来に思いを馳せるイベントを2月25日(木)夜に開催いたします。

ぜひ、ご参加ください。当日(オンラインではございますが)お会いできることを楽しみにしております。

ー 品川スタイル研究所

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