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短編小説

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2022年1月の記事一覧

どうしたの?

どうしたの?

 いつもならもうすでに泥酔しソファーでうなだれているか、はたまた布団のうえで裸になってよだれを垂らし眠っているかのどちらかのはずなのに、なぜか、このひの夜にかぎって直人はうちにいなかった。
『いまからいきます』
 急にいくと部屋がきたないからだめといわれていたので事前にメールをしておいた。返信はやっぱりなくて、ああ絶対に泥酔だと決めつけて直人のうちにいくと車がなく、あれでも玄関の電気はついてるしな

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糸

『はい。お待たせいたしました。やまぐち皮膚科です』
 電話をうけた受け付けの女性の声はひどくあせっているように感じたのはやはりあせっていたわけでどうしてそれがわかったかといえば、ちょっと待ってくださいね。と告げてから待つこと8分。眠たくなるようなオルゴール音がやみ
『お、あ、お待たせしてすみません』
 えっと、という声がし、もうなんでこんなに忙しいのくらいの声であやまりの言葉を告げたからだ。
『明

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飢餓

飢餓

「きたよ」
 夕方6時ちょっと過ぎ。車の中で本日最後の取り組みを観たあと(直人のうちに上がる前に制限時間いっぱいになり車内で観ていた)ガチャと玄関のドアをあけ音を立てずにそっと中に入る。まずテーブルをみてから布団をみやる。そして台所。
 キョロキョロと2度だけ目をまわすと直人がテーブルの下で鉄砲で撃たれたクマのように横たわっていた。
 電気は『団らんモード』の設定になっており、暖房はさほど寒くもな

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相撲

相撲

 おふくろが入院したんだ。あうなり修一さんが肩をがくりと落としそう口にした。俺があのとき病院に連れていっていれば。なんでもっと早く気がつかなかったんだろう。ひどく自分を責めていたので、それは違うよ。と切り出し、弟さんいつも側にいたのにね。そうそう。弟さんだって気がつかなかったんだから。という全くもって慰めになっていないことを口走ってしまった。
 修一さんは長男だけれど上にお姉さんがいて下に弟がいる

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箱ヘル

箱ヘル

「あけましておめでとうございます〜」
 フロントのおじさんと目があいいつもは、おはようございますというけれど新年そうそうだったので新年の挨拶をするも
「あ、おめでとうっていうか部屋2番で。お客さん待ってるから」
 焦った声でせわしなくいわれ、あ、はいといいすぐに部屋に入る。
 去年は2日から営業をしていたけれど今年は4日からだった。お正月。暇。パチンコ。風俗。長期休みになると風俗は忙しくなる。それ

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いぬと一緒に

いぬと一緒に

 あけましておめでとう。三ヶ日を過ぎ仕事始めのころ修一さんからメールが毎年届く。仕事始めのころというところが重要で三ヶ日はよき夫。よきお父さんを演じているのだから仕方がない。話しを聞くかぎりは『よき』なのだろう。
「年末にさ、家族で犬と一緒に泊まれる宿にいってきたんだ」
 久しぶりにあったのだった。たしか10日ぶりくらい。あうとあってない間に起きた出来事を話す習慣になっているのだけれどわたしはまる

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