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2021年5月の記事一覧

明け方のわたしたち

明け方のわたしたち

 何時だろう? 直人の気配にはっと意識が現実に戻ってくる。なにか夢をみていた。たくさんの動物たちに囲まれている夢だった。その中の動物に食べられそうになっているときに目がさめた。けれど目ざめた側からその夢の色彩も感覚も徐々にわたしの中から忘れていく。夢っていうのはいったいなぜみるのだろう。直人は、あ、起こした? とメガネを床にことりと置いていい、わたしを抱きしめた。裸のわたしを。直人はわたしを触りわ

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あかいろ

あかいろ

 19歳のとき、生理が止まった。34キロ。あきらかに変なダイエットで痩せて意図的に来なくなった。意図的ではないか。そんなこと望んではいなかったのだから。望んでいたのは、骸骨みたいになった自分の体。痩せ細った脚や腕。それと引き換えに生理が止まった。体を無茶苦茶に扱った罰を受けたのだ。
 特に太っていたわけではない。標準だった。けれど背が低いので標準の体重でもぽっちゃりに見えた。とゆうかわたしにはそう

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従う

従う

 その男はわたしになんでもさせた。あってすぐシャワーもしないまま洋服を脱ぎ体中、頭から足先まですべて綺麗に舐めさせた。舐めたあとはわたしを裸にし、赤色の麻縄で拘束をし床にコロンと転がした。扱いはそれこそぬいぐるみ以下だった。臀部を軽く蹴られ、それから顔を本気で踏みつけた。
「きたない顔を見せるな」
 男はいつもわたしの顔を「きたない」「みぐるしい」と罵った。罵ることは男の一種の快感だった。だからわ

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「わかせんめい?」

『早く帰れそうなら連絡する?』
 ヘルスバイト先につき、待機をしているときに修一さんからなぜか、連絡する? というなんで『?』が最後につくのかわかならいけれどメールがきてびっくりして声をあげた。
『うん。あいたい』
 ヘルスバイトに来たぶんだった。そのタイミングでももちゃんお客さんだよと仕事が入る。返事を待たず仕事をしだす。65分のコースだった。
 指名だったので初見ではないだろうとおもっていた。

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応答なし

応答なし

『なんで連絡くれないの?』
 あまりにも単純な別れだったしあまりにも腑に落ちないしでなんとなく別れてから2週間してメールを打った。
『元気?』と打って消し、まよった挙句、『なんで連絡くれないの?』という絶対直人にはちっとも理解不能なメールになってしまい送ってしまった瞬間に即後悔をした。LINEだったら取り消しは可能だ。けれど直人はLINEをやっていない。ショートメールで連絡を取り合っていた。電話で

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ヤルキスイッチ

ヤルキスイッチ

 また緊急事態宣言が出た。緊急事態なのは俺の体。修一さんは苦笑いを浮かべつつアイコスを吸う。
「なにそれ?」
 いわゆる真っ赤なラブソファーというやつに並んで座っている。修一さんの気配が左からただよう。ああもうなんでこんなにも好きなのだろうかとその横顔を眺めながら、おもっている。
「なにそれだよな。そうだな。なんというか『五月病』って職人にいわれたんだ。やる気が出ないし怠いし仕事したくないよってい

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