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【怖い話】靴

こういう風に長い文章を書くことがあまりないので、説明が下手だったり文才がないかもしれないです。分かりづらかったらすみません。

新卒で入社したのはN市のビジネス街から少し外れたところにある、小さな会社でした。

事務のおばちゃんが一人と中国人の社長、あとは色んな企業で経験を積んできた定年後のおじいちゃんが技術者として六人。

職種については少し特殊なので伏せますが、中国人社長による一種のベンチャー企業だと思ってもらえたらと思います。

慣れない社会人生活を過ごしていくなか、ふとしたことから同じ市に中学の同級生が住んでいることを知りました。

彼の名前は仮にAくんとします。

Aくんとは中学のとき同じクラスになったことがあるくらいで、卒業後に遊んだことはなかったのですが、住むところが近いと分かったことがきっかけで一緒に飲みに行くようになりました。

当時は知らなかったのですが意外にも共通点が多く、また新社会人の洗礼をお互い受けるという同じ立場であったことから、どんどんと親睦を深めていくようになりました。




ただし、Aくんについて気になることがありました。

それは、時折とてつもなく服が臭いときがあるということです。

ワイシャツであれなんであれ、とても洗濯をしていないようには思えない見た目なのですが、なぜか雨に濡れて乾いた雑巾のような匂いが立ち込めるときがあり、とても不思議に思っていました。

言ってあげるのが本人のためかとも思いましたが、匂いについて言及するのはセンシティブなことかなと思い、言わずじまいのままでした。

そんな中、Aくんから「悩みがあるから今晩聞いてくれないか」とお誘いを受けたので、いつものように居酒屋で合流しました。

会社の愚痴を言い合い、程よく酔いも回ったところで、Aくんは本題を持ち出しました。

「実はこのところ毎晩、玄関に靴が片方落ちている」

思ってもみなかった内容の悩みに、なんとか「どういうことだ」と返すと、Aくん曰く前日の晩にどれだけ確認して就寝しても、朝起きると必ず心当たりのない靴が片方落ちている、とのことでした。

靴の種類はまちまちで、例えばスニーカー、革靴、子供用の小さな靴、ハイヒール、ローファー、毎晩違う靴が落ちているんだそうです。

鍵もチェーンもかけているので不審者が侵入しているなどの誰かの悪戯とは考えにくいそうで、Aくんは心霊現象なんじゃないかと怯えているのだそうです。

 確かに不思議だなと思いました。

そして僕はAくんに一晩中玄関を見張ってみたらいいんじゃないか、と助言をしたところ、それは彼もとっくに考えていたそうで、「今日この後一晩一緒に付き合って欲しい」と言われたのです。

幸いその日は金曜で、特に明日の予定もなかった僕は、あまり気乗りしませんでしたが渋々了承しました。

そして会計を済ませ、コンビニで酒とつまみを買って、彼の部屋に向かいました。



Aくんの部屋は1LDKで、さも男の一人暮らしといった次第でした。

玄関マットを退けて小さな卓袱台を置き、玄関を見張りながら酒盛りをする事にしました。僕が玄関に背を向け、Aくんが玄関に面する形で座りました。

滔々と語り続けるAくんがとても印象に残っています。それにはどこか恐怖を紛らわせる気持ちが感じられて、僕も少し大げさなリアクションで場の空気を盛り上げようとしました。

そして深夜2時を越えたあたりのことでした。

澱みなく際限なく喋っていたAくんは突然口を紡ぎ、まるで電源を切られたアンドロイドのように顔から表情が失われたのです。

僕は、不気味の谷現象を思い出していました。

それほどまでに、生気が失われどこか色白く模造品のような人間がそこにありました。

Aくんは無表情のまますっと立ち上がり、部屋の奥へと消えて行きました。

そして、手に片方だけの靴を持って戻ってきて、玄関にぽとっと落としたのです。

その靴からは、尋常じゃない程の異臭がしました。
その臭いはAくんの部屋に入ってからうっすらと、しかし確実に漂ってきていたものと同じでした。

そしてそれこそは、Aくんの服から時折感じていた、雨に濡れた雑巾のような悪臭でした。

いつの間にか表情を取り戻したAくんは素っ頓狂な声で、「く、靴が落ちてる!」と叫びました。

僕は一瞬、ふざけているのか?と思いましたが、Aくんの表情や仕草からは困惑と恐怖が多分に感じられて、どうもそんな様子ではなさそうだったのです。

靴はどこから持ってきたのか、Aくんに聞いてみましたが「持ってきた?」「俺が?」「どこから?」と、網で風を捕らえるような返答ばかりでした。

僕は彼を差し置いて、立ち込める悪臭の方に方にと部屋を進んでいくと、寝室のクローゼットが最も強くなっているのが分かりました。



そしてクローゼットを開けると、そこには何十足もの靴が片方だけ、床に積まれていました。



必死で臭いに耐えながらそれらを観察していると、革靴、スニーカー、パンプス、全ての靴に、

「い   そ   ざ   き   し   ゅ   う   じ」

とミミズのような線で書いてあることに気付きました。



Aくんを呼んで確認したところ、「なんでこんなに靴があるのか知らないし、今までクローゼットを開けても気付かなかった」と言うのです。

そのまま2人でゴミ袋に靴を詰め込んで、収集日など気にも留めずゴミ捨て場に放り投げました。

その後すぐAくんは引っ越したそうですが、新居では何も起こらなかったそうです。



なぜ靴があんなにクローゼットにあったのか。
なぜAくんは気が付かなかったのか。
夜中に玄関へ靴を落としていたのがAくん自身だったのは何故なのか。
あの名前は誰のものなのか。

未だに分からない事が多すぎて、二人の間でその話はタブーとなってしまいました。


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