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【怖い話】こっくりさんですらない

三十路も近付くと結婚するやつが増えてくるから、大体地元の同級生って疎遠になっていきますよね。

そういう時に催される同窓会ってのが、やっぱり昔話に花が咲いて、歳を取ったなあという寂寞とそんなこともあったなあっていう郷愁が入り混じった、すみれ色のような少し切ない気持ちが、なんかいいなあって。

高校の同窓会でさえそう思ったから、次にやる予定の中学の同窓会はもっと楽しいだろうって、だって、小学校のやつらもほとんど同じ中学行ったから、小中合同の同窓会って感じなんですよ。

当日ホテルの宴会場に早めに着いたら、もうテンション上がっちゃって。
次々に懐かしい顔が集まってくるから、それはそれはもう。
あいつ太ったなあとか、変わってねえなあとか、あんまりいじれないタイプのやつがハゲてたりして、お、おうみたいなとか。女子も当時から派手だったギャルっぽい集団は「うわ、バーキン持ってきてんじゃん!」「旦那におねだりしたった〜」とかはしゃいでたりとか、やっぱ当時可愛い子はずっと可愛いなあって、下らない話してたらほんとにタイムスリップしたみたいに童心が甦って、良かったんですよね。

途中までは。


小学校から一緒の、影山くんっていう友達いたんですよ。
結構仲良くしてたから会えるの楽しみにしてたんだけど、全然来なくて。

「なあ、影山くんって今日来るの?」

って同じテーブルの皆に投げかけたら、

「来る予定だったと思うけど」
「影山って誰?」

っていう声が重なって聞こえたんですよね。

え?いやいや影山くんだよっていう僕のつぶやきが霧散するように、テーブル内の10人で「そういうおふざけいらねえよ」「え?まじで誰?転校生とか?」「いや、〇〇小の影山だよ」「まじでわからん、離婚して苗字変わったとか?」「ずっと影山だから」
って、言い合いが始まって。

見事に影山くんを覚えてる派と覚えていない派の、半分にテーブル内で別れたんですよ。

それは徐々に他のテーブルにも感染していきました。

結果、不思議なことに、学年の凡そ半分が影山くんを覚えていなかったのです。

するとまた奇妙な論点が生まれたんですよ。

「だからさ、影山だよ!あの駅前の〇〇レジデンスってマンションに住んでたさ」
「いや、影山は一軒家住んでただろ。俺遊びに行ったことあるもん」
「嘘つくなよ、△△も同じマンションだったから覚えてんだよ」

影山くんを覚えてる中でも、住んでる場所の記憶がマンションと一軒家で食い違っていくのです。

更に、

「まじで覚えてないの?陸上部だったあの影山だぜ」
「ちょい待て、あいつは美術部な」
「ざけんな、運動会でリレー速かっただろ、陸部だよ」

皆の記憶にある、影山くんの部活も食い違ってきました。


どうにもこうにも収集がつかなくなってきたあたりで、一人がこう叫んだんです。

「よし分かった!じゃあ俺ら恒例のアレで答え出そう!」

「そうすっか!誰かー、和紙と硯と墨!」

「はいはーい!」

と先程はしゃいでいたギャルのバーキンから、和紙と硯と墨が出てきました。

僕、影山くんいる派いない派に別れたあたりから思考停止してましたけど、「あ、バーキンに習字セット入れる人いるんだ」って、どこか他人事のように思ったの、覚えてます。

「今日はー、えーと、ケの日だから女子!誰か髪の毛ちょーだい!」

「あ、あたしのあげるわー。丁度少し短くしたかったし」

女の子が髪の毛を一房掴んで、ハサミでちょきん、と切りました。

それを受け取った男子は、割り箸と輪ゴムとその子の髪の毛で器用に筆を作ったんです。

その人毛の筆で、和紙にさらさらっと五十音表を書き上げていました。

僕は、一つも理解が及びませんでしたよ。

恒例?ケの日?そんなに簡単に髪の毛差し出すか?こっくりさんでもやんの。流行ってたっけ。世代じゃなくね。

って感じで。

そしたらね、文字を書いた男子が硯に自分の血を垂らして、墨と混ぜたんです。衛生観念死んでんのか?って感じですよね。

そしてこっくりさんなら鳥居が書かれるであろう、和紙の中央の上部分に、

『辰狐』

って書いたんです。

「よしっ、準備できた!じゃあいくぞ!せーのっ」



「「「だきにてんさまだきにてんさまつかいのはくびをおよこしくださいわれらがからだをみしるしにてあかくきよめそのおちからをおさずけください」」」


ああ、もうこっくりさんですらねえわ、って思って、その会場からこっそり逃げました。

帰り際、看板に団体名書かれてあるやつあるじゃないですか、あれ見たら、□□中学校同窓会様って。

それ、全く聞き覚えのない中学校の名前だったんですよ。

そんでよく考えたら、さっきまで喋ってたやつらのこと懐かしいとは思ったけど、名前を一人も思い出せなかったんです。

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