多機能すぎるプロダクトはなぜダメなのかをプロダクトマネージャーが考えてみた
プロダクトがPMF(プロダクト・マーケット・フィット)し、成長してくるとつい機能を盛り込みたくなるのが人間の性というもの。しかしプロダクトの品質を任されているプロダクトマネージャーにとってこれは大敵です。
つい先日こんなツイートをしたところ、色々な方からご意見をいただきました。賛否両論いろいろありつつ、そもそも「機能」の認識が違っていそうだなと思ったので、今回より具体的に解説してみます。
多機能すぎるプロダクトはなぜダメなのか
まず、そもそも「機能」とは何でしょうか。プロダクトにおける機能とは「ユーザーの課題を解決する手段」のことを指します。ユーザーはこういうことに困っていて、それを解決するためにプロダクトは機能を提供するのです。
この定義で見た場合、多機能であることは良いことのように思えます。多機能であればあるほど、課題を解決できる確率が上がるように見えるためです。たしかにこういう側面もありますし、機能が少なすぎて課題を解決できない、という状態はそもそもユーザーにとって何の価値も感じてもらえないプロダクトになってしまいます。
では、なぜ多機能すぎるプロダクトが良くない、となるでしょうか?
良いプロダクト・悪いプロダクトの違いとは
今回は言葉だけだと分かりにくいので、Figmaで図解してみました。具体的にイメージを共有できればと思います。
良いプロダクトの例:少ない機能で深い課題を解決する
まず、良いプロダクトから見ていきます。そもそも「良いプロダクト」とは「良い機能を持っているプロダクト」のことであり、つまりは「課題を解決できるプロダクト」のことを指します。そのため、お客様の課題を解決しきったと言える「課題解決ライン」を超える必要があります。ここを超えて初めて、そのプロダクトは「良いプロダクト」になるのです。たとえ少ない機能であっても、お客様の深い課題を解決できているのであれば、それは良いプロダクトと言えます。
悪いプロダクトの例:多機能すぎることの弊害
さて、今度は悪いプロダクトの例を見ていきましょう。皆さんも実際経験したことがあるんじゃないでしょうか。多機能なんだけど「なんかこれじゃないんだよな…」と思ったこと。
そういう時は何が起きているのか?を図解すると、こんなイメージになります。機能は多く色々とあるものの、どれも課題解決ラインに達していません。そのため、ごちゃごちゃと色々と使えそうな反面、深く課題を解決できていないのでお金を払ってでも使いたいと思えるようなプロダクトとは思われなくなってしまいます。ここが悪いプロダクトの最もよくあるパターンです。
人間がプロダクトの機能を記憶・認知できる量はかなり狭い
こういうことを言うと、「じゃあ課題解決ラインを超えつつ多機能にすれば良いのでは?」という意見も出てきそうですね。これもごもっともな意見ですが、大事な視点が1つだけ抜けています。それは、使うのが「人間」であるということです。
ここで大事なのは「プロダクトを使う人間の脳メモリは限りがある」ということです。例えば、プロダクトを使うのがAIであれば正しいアルゴリズムを組んであげれば多機能であっても問題ないでしょう。ただ、人間の場合は「認知機能」という分かりやすい脳メモリがあるのです。どういうことか?
例えば、多機能ながらも課題解決ラインをしっかり超えている場合はこんなイメージになります。
これはしっかり課題を解決できているので、ビジネスとしては成立しますし、お客様にも喜ばれるでしょう。しかし同時に、1つのプロダクトに機能を多くしすぎると「認知ストレス」も増えてしまいます。これはいわゆる「使いにくさ」を感じる部分で、どこから使い始めたら良いか分からなくなります。こういう課題をUIなどwebデザインで解決できることもありますが、全ての機能を使ってもらおうとするとどこかで限界が来ます
例えば、マネーフォワードさんは、経理・確定申告という領域内で複数のプロダクトに分けてサービス展開しています。これらを1つのプロダクトに乗せてしまうと、ユーザーにとっては学習コストが高すぎて使いこなせないプロダクトになってしまうでしょう。
多機能になったらどこかでプロダクトを分けるのが定石
マネーフォワードさんやfreeeさんのような士業の方が使うプロダクトであればある程度は多機能でないとそもそも法律の要求を満たせませんので、こうなることが必然でしょう。良いプロダクトとはシンプルさ、大きい複数の機能がある場合はできるだけプロダクトを分けた方がユーザーにとっては学習コストが小さいのです。イメージしてみてください。上記の会計から確定申告、請求書、経費管理などなど、全部を1つのプロダクトでやろうとすると、ものすごいごちゃごちゃしてしまうと思いませんか?
この理由から、良いプロダクトを提供している企業はこの図のようにプロダクトをどこかで分ける戦略をよく取ります。
お客様の課題を深く解決しつつ、一方で愛され使われ続けるプロダクトにするにはシンプルさの維持は欠かせません。多機能にしていく過程でプロダクトを分けるのは定石中の定石なのです。
個人の感想:SlackやNotionなど多機能に見せつつ少機能で課題を深く解決するプロダクトはかっこいい
私はNotionを仕事で使い倒している超Notionラバーなのですが、周りのNotion好きの人の意見を聞いていると「Notionは多機能でなんでもできてすごい!」とおっしゃっています。
もちろんこういう見方もあると思いますし、これは正しいと思います。ただ一方で、僕がNotionをすごいと思う理由はちょっと違っていて、それは「少機能なのに解決している課題の深さがえげつなく深い」です。
例えば、Notionでメインに使う機能はこんな感じです。
そう、Notion はエディア内やDB(データベース)内では様々なことができますが、機能としては主に「エディタ」や「DB」のみで、それらの組み合わせでWikiやタスク管理、プロダクトバックロードなどなど、様々なドキュメントを管理する課題を解決しきっています。これが私がNotionを神プロダクトだと思う1番の理由です。
シンプルゆえに使いやすく、課題を解決できるから愛される。プロダクト作りのお手本のようです。ただ強いて欠点を上げるなら、API連携やDevelopperツールがまだまだ弱いこと、サードパーティ製アプリが少ないことがあげられますが、それは今後改善されるポイントだと思っております(応援してます!)。
最も重要な機能は何か?を考えるのがプロダクトマネージャーのお仕事
プロダクトマネージャーはプロダクトの品質に責任を持つ人です。これは間違いありません。では、具体的に機能を考えるときどう考えるべきなのか?
個人的な解としては「最も重要な機能は何か?」を考え続けることです。たとえ優れたプロダクトマネージャーであっても、お客様から要望が多かったり、社内で意見が強かったりすると、つい誘惑に負けてしまいそうになります。私自身、そういったことはよくありました。しかし、その中でも、
「お客様の課題は何か?」
「どうやったら課題を解決しきれるか?」
「そのために必要な機能は何か?」
こういう禅問答のような解なき問を考え続けることこそがプロダクトマネージャーの難しさであり、醍醐味でもあります。
機能は競合にマネされる、でも優れたプロダクトマネージャーの仕事はマネできない
プロダクト開発をしていると必ず遭遇するのがコピーキャット、いわゆる「機能をマネしてくる競合」です。Twitterでもパクられた!と起こっている起業家はたまに目にしますが、はっきり言ってこれは時間の無駄です。
機能というものは、そもそもパクられて当然です。特にソフトウェアの世界では、機能のマネは超簡単なので防ぎようがありません。例えば、Uber Eatsのマネをして参入したフードデリバリーサービスはたくさんありますが、あれを卑怯と呼べるでしょうか?
プロダクトマネージャーであれば、マネされた機能を嘆くより「なぜその機能をやるのか?」という仕事軸、判断軸をしっかり持ち、競合に一喜一憂しないことが求められます。競合はマネできても、優れたプロダクトマネージャーと優れた開発組織は一朝一夕ではマネできません。これこそが競争優位性なのです。
機能はマネされる、でも良いプロダクトはマネできない。その気持ちで目の前のお客様の課題と向き合ってみてください。きっと良い結果が出ますし、いつの間にかマネしていた競合は消えていたりします。
終わりに:プロダクトマネージャー用コミュニティPM Clubについて
こうやって客観的にまとめるのは簡単ですが、実際に現場で良いプロダクトを作る意思決定をするのは本当に難しいんですよね…
ただ、一方でプロダクト作りの原理原則はありますので、それを意識するだけでも良い意思決定がしやすくなるのもまた事実です。
私自身、まだまだ悩みながら仕事をすることの方が多いですが、世に1つでも良いプロダクトが増えるよう頑張っています。ぜひ一緒に頑張りましょう!
また、プロダクトマネジメントに興味がある人はプロダクトマネージャー用コミュニティ「PM Club」へのご参加もどうぞ。
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