見出し画像

短編小説 #2 銀色の星 | 夢の回廊

この星は金属の塊で出来ている
美しい球体で光の反射は少なく、表面が霞みがかっていた
僕はこの地に足を付けた
金属の大地が地平線まで伸びている

ふと、僕自身の身体に目を向けた
今まで闇の中にいたので気付かなかったが、僕は骨と皮だけの細っそりとした小柄の身体だった
僕は歩けなかった
代わりに宙を浮き空を自由に動き回ることができた
僕はしばらく金属の地表を飛び始めた

何処までも続くメタルの地平線
何も無いかと思った途端、地平線の向こうから地面に亀裂が走っている所を見つけた
近くまで行くとその亀裂は大きく、そして深かった
亀裂の部分だけ土地が隆起していて、それはずっと深く、底は光が届かない。星の中心まであるのではと思わせた

亀裂のまだ光が届く場所に小さな洞窟があるのに気づいた
僕はその洞窟の入り口に降り立ち、入ってみることにした
中は真っ暗で何も見えなかった。けれど、奥行きは無さそうに感じた
温もりがあり、誰かの家の様だ

目の前に小さな子供が立っていた
彼は僕に気づくと微笑んでくれた
昔から僕の事を知っている様だった
僕は彼を注意深く見た
虎柄の服を羽織り、手には肉球を、足にも肉球を、顔はトラの様で。。
と言うか彼はトラそのものだった。トラの子供だ
けれど身体は発達していて、人の様に二本足で歩ける様だった

彼は何か気さくに声を掛けてくれているが、彼の言葉は分からなかった。それでも「よく来たね」という言葉は聞き取れた
僕は兼ねてから疑問に思っていたとをふと頭によぎった。すると彼はその答えの様な事を返事してくれた
「ここは終わりと始まりの間だよ」
僕は彼の好意な態度に安心していた。何故かこの世界は僕たち二人しか居ないように思えたからだ

僕は彼のそばまで行き、彼の横に腰を下ろした
彼は嬉しそうに語り出した
けれど、何を話しているのかは分からなかった
正面に映像が投影される
それはセピア色のハリウッド映画だった
「これを誰かと見たかったんだ」
彼がそう言ったような気がした
僕はこの虎の子供が愛おしくなり、彼を膝に抱き抱えた
彼は笑顔で振り返り、また正面を向いて一緒に映画を見ていた

すると彼は眠くなったのかうずくまり、彼の身体がみるみる小さくなった
彼は猫となって僕の膝の上で寝息を立てている
しばらくすると彼の身体は光を帯び透明な粒子になった
それは僕の膝から体内へと流れ込んだ
僕の爪先から頭の先までが熱くなり、体に変化が起きた
体の輪郭が膨張し手足に肉球が付いた
身体は筋肉質になり体毛が発達した
僕の容姿はトラになったようだ
トラの彼と僕が融合したようだ
身体には力が満ち溢れ
「すごい。これならなんでも出来そうだ!」
そう言ったのはトラの彼の言葉か、僕の言葉か分からなかった。もしかしたら、両方かも知れない。それくらい自然だった

洞窟の中を自由に飛び回り、やがて洞窟を抜け出し、金属の地表面にやって来た
トラは久しぶりに地表に出たのだろうか、深呼吸をして僕はこの星を後にし、再び宇宙空間へと飛び立った


この世界は4つの星で出来ている
それ以外は闇に覆われていた
けれど、寂しい思いはしなかった
それは融合したトラが一緒にいるからなのか
力に満ち溢れているからなのか
何故かは分からないが、好奇心が強くなった
僕は他の星にも行ってみたくなった
金属の星から一番離れた、金属の星と同じ輝きを放つ星を目指した
その星は近づくにつれて、実は銀色ではなく緑帯びた輝きの星だ
輝きが強すぎて、遠くから見ると銀色に見えるようだ
近づけば近づくほどに綺麗な緑を放つ星だった

この記事が参加している募集

宇宙SF

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?