見出し画像

短編小説 #7 玉座の間 I 夢の回廊

橙色の星はまた情景が少し変わっていた
町の至る所まで水路が出来ていた
中央広場には噴水があり、そこから水がこんこんと湧き出ていた
水の透明度は高く、清らかだった

杖の光は城の玉座の間を指していた
魔女と並んで城を目指す

玉座まで着くと、魔女はひとつため息をついた
「またここに戻って来たか」
魔女はそう言うと木の人形を嵌め込んだ左側の玉座にそっと座り込んだ

魔女は2、3深呼吸を始めた
すると木の人形の欠けた所から少女の魂が抜けて魔女に入り、光に包まれた
魔女は一人の聡明な女性へと姿を変えた。その女性は壁画に描かれた女性そのものだった
金の糸で繊細な装飾がされた白いローブを羽織っていた
森の神殿にいた聖女と似ているが、更に手が込んでいた
僕は彼女をこの国の王女だと確信した

彼女はとても安堵した表情を見せた。それは少女が見せた表情とそっくりだった
そして王女は僕を大きな間差し見ていた
「あなた。さあ、杖をそちらへ」
彼女は右の玉座に手を差し伸べた

右の玉座の窪みには、杖が立てかけられる様になっている
僕はそこに杖を差し込んだ
すると杖は大きく光を放った
玉座の間は優しく、そしてとても強い光で満たされた

強い光で満たされた玉座の間は、壁画の黒いシミを蒸発させた
シミで覆われた人の影も跡形も無く消え、そこは空白となった

杖の先端の青白い光は玉座の間から外へと輝き出し、宇宙の果てまで届きそうな光だ
橙の星は僅かに揺れていた
僕は空を見て指を指した
橙の星は昼間の様に明るいが、空は夜空に近い深い青となり、宇宙に浮かぶ天体の星々が綺麗に瞬いているのが見えた

「世界が動き出す」
僕の中にいたトラが言った
世界が歯車を持ったかの様に回り出した
元々あった4つの星に変化が起きた

僕がこの世界で初めて降り立った金属の星
この星が膨張をはじめた。大きさを増し、明るく色味が変わり、淡く黄色く輝く月になった

僕が少女と出会った緑の星
この星はずっと小さくなり、一粒の種子となった
青く輝く杖は大気を動かし、橙色の星にサァっと雨を降らし始める
そして一粒の種子は雨と共に橙の星に降り出注いだ

種子は二等辺三角形の山の裏に降りた。降りたところから早速芽が出始め成長を始めた
それは大きな木が生えて星々に届きそうだ。その大きな木の周辺から新たな植物が芽生え、木々が成長した。砂だけしか無かった橙の星に生き生きとした森林が広がり始めた

森林が広がり始めると、雨と草木の成長によって砂漠だった砂が痩せていった
今まで砂で埋もれて見えなかった部分が徐々に顔を出してきた

僕はこの町は広いと思っていたが、それは一部分に過ぎず広大な都市である事が分かった!
砂が痩せていったお陰で海も出来始めていた

「これで全てが完了した」
僕が言った。僕の中にいるトラが言ったのだ
「あなた。まだよ」
王女は僕に玉座に座るように促した
僕は頷き、大きく深呼吸する
するとトラが僕と分離した

分離したトラは青年に変わっていた。とても力強さを感じるトラだった
僕の身体も変わっていた
筋肉質は維持されて健康的な青年となっていた

トラはこの星の王だった
トラは振り返り、
「ありがとう。君のおかげでまた世界が動き出した」
虎は玉座にそっと座った
すると、青く光る杖は壁画の空白部分に淡い光を当て、別の人物を刻み込み始めた
それはトラの王の姿だった
王女は王が座るのを見つめていた
やがて眼差しは僕に移り、僕の頬へキスをした
「ありがとう。分裂していた世界が統一されました」

この記事が参加している募集

宇宙SF

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?