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短編小説 #1 扉と闇 I 夢の回廊

僕は小さな空間にいた
目の前には3つの扉が並んでいた
その扉は古びてはいるが綺麗な扉だった
どれも同じ形をしていて、前方に僕を囲うように並んでいた
僕はそこにしばらく立っていた
この場所で何をすれば良いか分からなかったからだ

しばらくすると、右の扉が音もなく開き始めた
すると僕の身体は右の扉に吸い込まれるように入っていく
扉の中はしばらく追い風のような気流が流れていた
その気流に乗って飛ばされるが、とても緩やかで扉のわりと近いところに放り出された

そこは全くの闇だった
闇以外なかった
とても静かだった。物音はしなかった
そこは寒くもなく暑くも無かった
少し温もりのようなものを感じていた
呼吸はしているのか分からないが、快適だった
ただ闇しかなかった

僕の後ろの少し離れた場所に、先程入ってきた扉の枠だけが、多少斜めに傾きながら浮いていた
しばらくしていると、正面の左奥の方に星のように小さくまたたいているのを確認できた
僕はただただ闇に浮かび、闇に身を任せていた

星を注視すると、それは4つに分かれているように見えた
4つの星が気になり、そちらへ行ってみようと僕はようやく動き出した
意識を向けると、そちらの方へ移動できるようだった
最初はゆっくり移動したが、慣れるとかなりの速度で移動できる事に気づいた
空気抵抗などはなく、速度を上げても何も感じなかった
辺りは闇一色なので、景色が変わる訳でもなく、実のところ速度が上がっているのか体感では分からなかった
ただ何となく早く動いている
速度は何処までも上げることが出来た

どれくらい動いただろうか。はかなり早く進んでいる。光の速さ程で4つの星に向かっているが、一向に距離は縮まらない
すると背後から一つの気配を感じた
それは小さな羽根の生えた天使の様だ
クピドだ。僕の背後から前方に横切り、僕を伺った
クピドは笑顔で僕の手を取り、4つの星まで運んでくれた。それは僕が移動していた速度とあまり変わらないように思えたが、星との距離は随分と迫っていた
クピドのお陰で果てしない距離を瞬く間に縮めてくれた
星に近づくとクピドは手を止め、笑顔で僕の元を去っていった

その4つの星たちは近づいても小さかった
コンペイトウ程の大きさしか無かったのだ
4つの星は底辺が長い台形のような位置関係にあった
これらの星には特徴があった
右上と左下の星は銀色に輝き
左上の星は橙に輝いていて多少明るい色の綺麗なガスが掛かっていた
右下の星は青く輝き、しかし他の3つに比べると輝きは小さかった
僕はこの星たちに意識を送っていると、自分の身体が小さくなる事に気づいた
そうする事で星々と相応しいサイズまで小型化できた

僕はおもむろに左下の星に意識を向けてみた
この星は銀色に輝いている
この星に降りたてるか試してみた
近づくとそれはボウル位の大きさしか無く、星に到達するにはむづかしそうだ
僕は先程身体を小さくする事を再び試した。これなら到達可能だ。
僕はこの星に向かって降下を始めた

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