脳科学の視点から見るVRの可能性
Meta社(旧Facebook)が最近ガチでバーチャル事業に力を入れている
そんなことは分かっているよ!という声が聞こえてきそうですが、先日Meta社が2021年度通期の業績発表の中で、初めてVR/AR部門の売上を明らかにし、VR事業への本気ぶりが伺える形となりました。
2021年度のVR/ARの売上は22億ドル(約2600億円)、損失は101億ドル(約1兆1600億円)で、以前より「VR/ARおよびメタバースに年間1兆円の投資を行う」と宣言していた通りの数字となりました。
また先日7月27日にはVRヘッドセットのMeta Quest2 を8月1日より2万円以上値上げするという発表もありました。値上げの理由は生産コストの高騰、VR事業への投資とのことで、今後また更にVR事業を拡大していく姿勢がうかがえます。
この発表後Quest 2は様々なサイトで売り切れ続出となっており、私が見た限りだと楽天やメルカリでまだ少し購入可能なページがちらほらあるくらいになっています。
またMeta社は2019年に、スタートアップ企業のコントロールラボ(CTRL-labs)という企業を買収しています。コントロールラボという会社は脳の信号でARを操作するデバイスを開発している会社であり、脳とVRという文脈で非常に力を入れていることが分かります。
VRは楽しい?買うに値するのか?
結果から言うと、答えは「めっちゃ楽しい」です。
実は私もOculus2を去年購入し、色々なアプリやワールドに参加しながら遊んでいます。友達と一緒にVRChatで喋るのもよいですし、一人でも楽しく遊べるアプリがとても充実しています。
個人的には「Eleven:Teble tennis」という卓球が出来るアプリが予想以上にリアルな感覚で楽しめるのでだいたいこれで遊んでます。笑
バーチャル世界では海外の人とも簡単につながれるのでいつログインしてもプレイヤー探しには困りません。
私の場合、最初は人見知りが炸裂しましたが一度マッチしたら慣れ、色んな人とプレイするのが楽しいです。
バーチャル空間上では「普段の自分」の殻から抜け出し、アバターやスキンでどんな自分にもなりきれるので、仮想空間上で新しい自分自身になりきれる魅力があります。
VRが解決する課題
さてここからは単純に遊ぶだけの目的のVRではなく、実社会で様々な社会課題を解決するVRの活用方法について具体例を挙げながら触れていきたいと思います。
・2000人のPTSD患者を救ったVR活用
ベトナム戦争やアメリカの同時多発テロの事件などで、PTSD(心的外傷後ストレス障害)という精神障害に抱える人が多く存在します。
デリケートな問題であるPTSD治療に対して、VRによるアプローチが注目を集めています。
方法としては、VRで作り上げた仮想現実世界で、当時の状況を再現しトラウマと対峙するというものであり、この治療法は暴露療法という名前が付けられています。トラウマと向き合いながらも痛みや強制性を伴うこともなく、VRのソフトで銃声を激しくしたり消したりもできるし、あちこちで爆発を起こして煙を立たせることもできるるので、患者のペースに合わせて段階的にストレスを与える要素を変えながら治療を施せるというのが特徴です。
この治療法によりうつ病の症状は83%、PTSDの症状に至っては90%も低減させることができたという報告もあります
・長年苦しんでいたカラダの痛みを軽減するVR活用
不慮の事故で手足を失った患者は、失った四肢がまるで存在するような錯覚を覚えたり、失った四肢が存在していた空間に冷えや痺れのような感覚を感じるような現象があります。この症状を「幻肢痛」と言います。幻肢痛は手足を失った患者に限らず脳卒中患者などにも発症します。
幻肢の最大の問題はそこに存在しないはずの四肢の痛みに悩まされ、日常生活に支障をきたすという事にあります。
若ければ若いほど脳が状況に柔軟に対応できるので(=脳の可塑性が高い)幻視の発症率は低くなる傾向にあると言われてますが、約80%以上の人がこの痛みに悩まされています。
幻肢通のメカニズムとして、人間の脳はカラダに「動け」という命令を送った際にカラダの感覚とビジュアル的なフィードバックを得て学習していきますが、そこで脳が期待するフィードバックが得られないそとで期待値とのギャップから痛みや痙攣などのような症状に繋がるようです。
そこでVRの出番ですが、まずは仮想空間上で患者の健常な手足を作り出し、失った手足が実在するかのように錯覚させます。
こうすることで実際に手足を動かすことができなくても、脳に感覚情報をフィードバックさせることができるようになるため脳の中でのギャップが軽減され、痛みが軽減するという仕組みになっています。
現状はまだ手のみの対応しているようですが、今後足の幻肢痛に悩まされる人を助けるような機能の追加が期待されています。
・VRによる工場監査業務
最近特にVRで企業からのニーズを多く集めているのがVRによる工場の立ち合いです。特にコロナの影響で海外出張や工場の外部受け入れ基準が厳しくなってしまった今、工場の監査をリモートでかつタイムリーにできるのはコスト的なメリットに加え、誰でもいつでもチェックできるコーポレートガバナンス的なメリットの両方を兼ね備えています。
かつて子供が楽しみにしていた工場見学も最近は実施しずらい状況でしたが、このような形でいつでもどこでも見れるようになると身近に感じられて良いマーケティングにもなりますね。
VRが持つ更なる期待
心理学用語の「ミダス・タッチ効果」というのを聞いたことあるでしょうか?もともとはギリシャ神話上の「触れたものがすべて黄金に変わる力」のことを指すのですが、そこから意味が転じて最近では「身体接触があると親密度が上がりレストランでチップの金額が上がったり、政治家に握手されると投票に繋がる」ような効果として心理学で使われています。
最近では触覚センサーのようなものも随分と開発が進んでおり今後こういった技術とVRが組み合わされることで、例えば政治家が何千人の有権者と同時に握手が出来たり、推しのアイドルやバーチャルYouTuberと触れられることが出来ることでより政治・経済活動が活発になっていく事が期待されています。
一方でVRには危険性も・・・
・余りにも生々しすぎるVR体験は現実の倫理観に影響も
ゲーム開発者のなかではVRでは1人称視点の暴力ゲームを作るべきではないという意見も非常に多いです。従来のテレビゲームで人気のある戦争やバトルゲームとは次元の違う影響を脳に与えてしまうからです。
また実際に暴力事件を起こした犯人のうち、多くが暴力ゲームのプレイ時間が長い傾向にあることも知られています。例えばワシントン海軍工廠銃撃事件のアーロン・アレクシス(Aaron Alexis)、サンディフック小学校銃乱射事件のアダム・ランザ(Adam Lanza)、ノルウェー連続テロ事件のアンデルス・ブレイヴィーク(Anders Breivik)といった銃乱射事件の犯人はみな、異常なほどのゲーマーだったといいます。
ゲームそのものを否定するつもりは全くないのですが犯罪の動機や、実際の犯行を制御するための理性が働かなかった原因がもし暴力ゲームにあるのだとしたら早々にルールを作る必要がありそうですね。
VRだと相手が仮想人間だとわかっていても殺人の経験をすると、生々しい罪悪感を覚えてしまうからです。
・12歳未満の子供はVRで斜視になる可能性が大きい
子供にとって6歳までの期間は目の使い方を体が覚え、視覚が発達し確立していくために必要な時期と言われています。また前回の記事でも書いたように8歳までの間は、小脳の発達と共に空間認識能力を養う重要な時期であると言われています。
この時期に通常とは違う立体視を行うVRを利用すると、目から得た情報を脳へ伝達する回路に異常が発生しやすく、斜視になったり空間認識能力に悪影響を及ぼす可能性が高いといわれています。
VRヘッドセットの大手、Oculus社もデバイスの対象年齢を13歳以上と設定し幼い子供のVR利用には警鐘を鳴らしているので、子供にはできるだけVR世界に没頭する前にまずは現実世界でのびのびと遊ばせることが重要です。
まとめ
さて、いかがでしたでしょうか?
VRによって既に様々な社会課題を解決されている一方で、VRは人間の脳を変えてしまう効果も非常に強いためその使い方には十分に注意する必要がありそうです。
将来的には食事やトイレを除いて完全にVRの住人になる人も出てくる可能性も十分にあるといわれてますが、当面は現実の延長世界として部分的に活用するくらいがちょうど良さそうです。