九州小売業界のイノベーター3代表が語るテクノロジーで変革する小売の未来(前編)
本連載は、株式会社クアンド代表下岡が、九州・福岡で活躍するトップランナーにインタビューを行い、九州・福岡の「いま」に迫る連載企画です。九州・福岡に移住/転職/仕事の関係を持ちたいと思っている方々に役立つ情報を発信していきます。
今回は地域の生活を支えている「小売り」の未来について業界の先端を走る3名にインタビューしました。
小売りは確率論。デジタル空間
だからできる強みを活かす
平野(ドラッグ):スーパーの中でもトライアルさんのように集客力が非常に強いお店ですと、店内を回遊し、買っていただく商品カテゴリー数を増やしたり、特定の商品エリアに誘導することが可能です。
一方、ドラッグストアは明確な「目的」を持っていただかないと、単品に辿り着きません。つまり、来店する「目的」そのものを作る必要があります。そのために、購買データや店員のヒアリングを通して顧客データを集め、欲しいものをアプリなどで提案し、来店を促すように工夫しています。
例えば新生児用の商品を買う場合、生後何カ月で何が必要かは決まっているので、必要な情報をアプリで提供すると購入いただける確率が上がります。
その時、赤ちゃんのものだけではなく、お母さんのものも一緒に買えるようにクーポンを発行してあげると非常に喜ばれ、来店してもらえる確率が上がります。
リアル店舗では商品カテゴリーごとに陳列しないといけないので、セグメントや生活局面での提案は難しいのですが、デジタルなら可能です。店舗内は目的の商品にいかに早くたどり着けるかを重視して動線設計されています。
スーパーマーケットでは生鮮が周囲に配置されており、中央の棚に入っても出てくる動線になっているが、ドラッグストアでは目的買いなので外にもう一度外に出ることなくレジに向かうんです。単なるリアル店舗のデジタル化ではなく、商品群の特性やデジタルの強みを考えて顧客動線やストーリーを設計しています。
柳瀬(ホームセンター):グッデイも店舗の入り口がどこにあるかによって、人の流れも変わるので、店内の動線はそれを考慮して設計してます。それにより数%しか売上は変わらないが、小売りにとってはその数%がとても重要なんです。
平野(ドラッグ):つまり、小売りはお客様が目的の商品にたどり着ける確率をどれだけ上げられるかということが重要。小売りは確率論なんですよね。
柳瀬(ホームセンター):統計学がすごく効く世界ですよね。
亀田(ディスカウント):全然違いますね。トライアルは衝動買いの商品が多いので、店舗内の回遊が重要で、スマートショッピングカートやAIカメラを使って店内のお客様の購買行動動の分析をしています。データの分析によってお客様の購買行動が見えてきました。おかげさまで、お客様の購買行動に影響を与えるいろんなパラメーターがあることが分かってきました。
平野(ドラッグ):どれが有効なパラメーターか見つけ出すってのが一番大変ですよね。
全員:そうそうそう。
平野(ドラッグ):アメリカのホームセンター「The Home Depot(ホームデポ)」のアプリは面白い。例えば、壊れた家電の写真を撮ると、AIの画像認識で、どのメーカーの、なんていう商品の、なんて型番で、どこの店の、何番目の棚にあるってのが在庫情報と一緒に出てくる。ホームセンターはドラッグストアのようにエリアあたりの店舗密度が高くないので、わざわざ車で遠くのホームセンターまで行く。わざわざ行ったのに、商品がない、見つからないっていうのは許されないんですよね。
柳瀬(ホームセンター):商品の外観と名前を一致させるのは難しいですよね。職人さんに専門用語で売り場を聞かれても、スタッフの頭には絵が浮かばないので探せない。同じ名前のものでも違うものだったりする。職人さんが「ネコある?」っていうと一輪車のことなんです。
亀田(ディスカウント):小売りにとって画像認識って非常に重要ですよね。
平野(ドラッグ):面白いですよね。ホームセンターは「欲しいものを決めて来店」し、それが「あるかないか」が重要で「値段はあまり関係ない」部分もある。ディスカウントショップだと「ある程度欲しいものを分かってて来店」し、それが「高いか安いか」が重要。ドラッグストアは「目的のものを決めて来店」し、そのとき気づかされた新しいニーズで購入する。
BigDataではなく、DeepDataが重要
スケールメリットがスケールデメリットに
亀田(ディスカウント):確かに。トライアルが扱うコモディティ商品はスモールマス(個人まではいかない小規模な顧客セグメント)にどのように対応するかが大切です。ディスカウントストアはスケールメリットによって安く提供できるようにしている分、ひとりひとりでやるとマーケティングコストが高くなりやすい。
ただ嗜好性が高い商品については、パーソナライズ化していく必要も感じています。
平野(ドラッグ):うちは逆に個人にフォーカスしてます。今後はひとりひとりに合わせたパーソナライズが非常に重要だと思います。そのために店舗で店員が話しかけ、お客様のニーズをヒアリングしてます。
ある大手消費財メーカーの社長と話したときに、今後メーカーとしても少子高齢化で人口が減っていく日本においては、顧客ごとに提案する商品やメッセージを変えていきたいと言ってました。
そのためには小売りの「コミュニケーション力」が必要なので、良いパートナーと組んでいきたいが、日本の大手小売り企業はパーソナライズに向かっていないという課題を持っていました。
日本の小売りは規模を拡大し、売上と利益の追求に走った。1960年代からのチェーンストア理論っていうのは、単純化して、標準化して、専門化して、作業員を作っているわけで、考える力のない人間ばかりを育ててしまった。そういう会社ではパーソナライズできる土壌がない。
亀田(ディスカウント): そうですね。画一化・標準化・効率化のための手法は通用しにくくなっており、今後は多様化・個別化・最適化の時代になっていると思います。
柳瀬(ホームセンター):まさに、スケールメリットの時代から、スケールデメリットの時代になったとも言えますね。
平野(ドラッグ):ただ、まだそれに代わる教科書・理論がないので、真面目な人ほど昔のチェーンストア理論を勉強しちゃうんですよね。
亀田(ディスカウント):規模の世界になればP&GやAmazonに勝てるわけがないんですよね。
平野(ドラッグ):ビックデータ(Bid Data)ってお客様がすでに欲しいと分かっているものを安く便利に届けるためのものだと思ってます。
我々はビックデータではなく、ティープデータ(Deep Data)を持つことによってお客様自身も気づいていない、お客様の欲しいものを提案するんだって社内には言ってます。
柳瀬(ホームセンター):最初にそういうディープデータを持とうと思ったきっかけはあったんですか?
平野(ドラッグ):入社した時って年商6億円程度で十坪ぐらいのお店が数店舗あるだけ。人口減っていくし競合増えていくし、このまんまその世界に入って行ったら勝てるわけないじゃんっていう思いがあって。じゃあ、なんか違うやり方をしようと、特に北九州は人口減少問題にどう対処するかが鍵なんですよ。これは市場の深掘りしかないなと。たまたまHBC(ヘルス・ビューティーケア)っていうのは深掘りが効くカテゴリで、それをとことんやる仕組みを考えようってことで、ID-POSをやったのが20年ぐらい前。お客様のことを知るっていうところから始めている。そういう意味で、デジタルから入ったというより、データから入ってるんですよね。データを収集、活用するためのデジタル。
亀田(ディスカウント):よくそこまで続けましたよね。ドラッグ関連商材は、一方でスケールメリットが効く世界ですよね。うちも小商圏を制するために、15年くらい前から「生鮮」と「H&B」を強化しています。ディスカウント型ドラッグストアにチャレンジしたこともありますが、大手ドラッグストアとはバイイングパワーが違うため、最近は「生鮮」強化に軸足を大きく動かしました。
なぜトライアルが生鮮に力をいれるのか
亀田(ディスカウント):昔は単品でディスカウント競争できた時代だったんだけど、もうそういう時代は終わっていて、本当にスケールを取りに行かないといけない。そうなるとより深いところ、お客様に近づくところにいく必要があって、だから生鮮とドラッグなんですね。
なぜ生鮮が重要かというと日常買いで訪れるお客様が増え、来店頻度が上がるから。ひとりのお客様の来店頻度が上がると売上も上がっていきます。そして、なぜトライアルの生鮮がうまくいったかというと、タイミングよく生鮮のサプライチェーンが変わり始めていたから。もともと精肉だけが工業化されていた一方で、青果と鮮魚は農協や漁協という地域市場を通して商品が入ってくるのでスケールメリットが働かなかったんです。ところが魚は海洋漁業から養殖など工業化が進んでいき、そこにスシローやくら寿司などが日本の食文化の変化を推し進めてくれた。昔は近海魚の焼き魚や煮魚で地域性・ローカル性がめちゃくちゃ強かったが、いまの若い人がマグロやサーモンが好きなように、食文化が強く変わりました。結果、そのような魚は比較的スケールメリットが効きやすいので、地元スーパーより安くて美味しい魚をお店に置くことができるようになり、集客でき、来店頻度を上げることで収益向上に繋がっています。
柳瀬(ホームセンター):ホームセンターでも食品や日用品などを置くことによって来店頻度を上げています。面白いのが、グッデイで結構売れているのがコストコで売っているリンツのチョコレートのお得パックだったりするんですね。
柳瀬(ホームセンター):本来、別の小売りの商品を売るなんてあり得ないですが、うちの場合うまくいってます。コストコを買いたくても簡単には行けない人が、近くのホームセンターで買えると多少高くても買うんです。面白いですよね。
グッデイも最初は職人さんのためのお店だったけど、そうではなくてDIY含めたものを作る人を増やすための場所として位置付けています。そういう人たちを増やすように、ワークショップをしたりしてたりもします。
でも食品業界からするとホームセンターの商材って回転率が悪すぎて、店舗に置くのは耐えられないですよね笑。
平野(ドラッグ):ドラッグもね、スーパーの社長に会うと「なんでお前らそんな効率の悪い商売をやっているんだ。俺に任せてみろ」と言われるんですけど、だいたい失敗するんですね。商材を絞り込んじゃうんですよ。なので楽しくも、何ともない店ができてしまう。
柳瀬(ホームセンター):もちろん、少ない種類の商材を置いて、高い来店頻度を実現できるのが一番効率はいいんでしょうけど、それだと楽しさみたいなのは生み出せないですよね。来たくなる場づくりみたいなものも大切な気がします。
亀田(ディスカウント):うちはディスカウントストアなので、やはり良い商品を安く売ることに専念しています。新宮店のような大型店では、様々なチャレンジをしていますが、標準店ではコストが嵩むような取組は極力避けています。コストが嵩むと、価格を安くできなくなってしまいます。
平野(ドラッグ):我々はとことん余計なことをやるわけ笑。
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