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タイは旅行者に優しい国になっていた

新型コロナウイルスの感染が収束したわけではない。しかし世界の国々は、ワクチン接種を進め、移動するときはPCR検査を課すなど、さまざまな方法で正常化の道筋をつくろうとしている。そのなかで欧米を中心に観光客の受け入れがはじまっている。感染者の数もしだいに落ち着いてきた。

いまなら世界一周の旅も可能かもしれない。

もちろん、ウイルスを訪ねる国にもち込まず、日本にもち帰らないための細心の注意を払うことを前提にした旅である。

訪ねる国のルールを守りつつ、世界一周の旅に出ることにした。

はたして日本を出発して、静かに日本に戻ることができるのだろうか。各国の入国規制を調べ、ルートをつくっていった。

しかし旅の途中でオミクロン株の発生が伝えられる。緊張が増す旅に染まっていくことになる。

まずタイに向かった。条件付きながら、世界から観光客を受け入れはじめていた。

旅の期間:11月17日~11月19日

※価格等はすべて取材時のものです。



渡航許可がでるまで1週間。悩みはホテルと保険?

(旅のデータ)

タイは11月からタイランドパスという入国システムを導入した。ワクチン接種証明、1泊分の隔離ホテルのバウチャー、感染したときの保険などをメールに添付して申請。渡航許可を受けとり、直前にPCR検査を受けることが条件になる。メールのやりとりでわかりずらいこともある。とくにホテル予約と保険で悩む。そのあたりはこのnoteで詳細に伝えている。

https://note.com/shimokawa_note/n/nf01fa93e2cce


アメ横でPCR検査。ちょっと救われた気分だった

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タイへの渡航許可であるタイランドパスの申請は、出発10日前にはじめた。申請後、「保険書類に不備があったかも」という不安に駆られた。僕が申請した頃、問い合わせ先もなかった。まんじりともしない日々が続く。許可のメールが届いたのは出発5日前。肩の力が抜けた。これは心臓に悪い申請だ。出発1週間前からソフトな自主隔離。そして2日前にここでPCR検査を受けた。2万円。調べたなかでは、タイ入国用の陰性証明書をつくってくれ、料金も安いほうだった。場所はアメ横。庶民の街でPCR。ちょっといい気分。

使ったのは2年前の航空券。コロナ禍だからできることだった

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タイに向かう前にこれだけの書類をそろえた。ワクチン接種証明書、PCR検査の陰性証明、タイランドパスのQRコード、ホテルのバウチャーや保険、次に向かうギリシャの旅行者用書類……。やたら書類が増えていくのがコロナ禍の旅。ネットと紙の書類の両方をそろえなくてはならない。ネットに統一したら? とも聞こえるが、そうなるとかなり不安。僕はそういう世代です。

Sight 3

今年の3月にもタイを訪ねていた。バンコクでの2週間隔離を経験した。そのときは成田国際空港発。今回は全日空の羽田国際空港を発つ便だった。実はこのチケットは2年前のもの。僕はタイで航空券を買っているので片道が残っていたのだ。「通常、航空券の有効期限は1年です。コロナ禍ですので、ご利用できますが、もう変更はできません。よろしいでしょか」といわれて発券してもらった。航空会社の台所はとんでもなく厳しい。そういう時期に⋯⋯。ちょっと申し訳ない気がしたが。

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2年ぶりの羽田国際空港国際線の搭乗フロアー。イミグレーションを出ると、目の前に免税店。この明るさがちょっとうれしかった。買うものもないのに、店内を一周してしまった。しかしその先のブランド店が並ぶ一帯は空港無人都市。自分の足音だけが響くシャッター通りに心が重くなる。

3席を自由に使えるほど乗客は少ない。足をのばして寝てしまった

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飛行機に乗り込み、一瞬、足が止まった。まだこれだけなのか⋯⋯。マイレージを貯める関係で、タイとの行き来に全日空を利用することは多かった。いつもぎっしりと席は埋まっていた。なんとか通路側の席を確保しようとしていた日々はコロナのかなたに沈んでいた。この状態なら、通路側や窓側の問題ではない。うれしくもない満足といったらわかってもらえるだろうか。

Sight 6

寝不足だった。機内食でワインをもらうと、猛烈な睡魔。3席を自由に使うことができるから、足までのばして寝てしまいました。チェックイン時にタイランドパスのQRコード、ワクチン接種証明、PCR検査の陰性証明、保険、ホテルのバウチャーのすべてのチェックを受けていた。「書類は全部ありますね。大丈夫です」。スタッフの口調に安心してしまったのかもしれない。バンコクの空港に着き、並んだ椅子の間を進む。アジアの空港では見慣れた風景だ。

PCR検査はドライブスルー方式になっていた

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3月にタイに入国したとき、新型コロナウイルス関連の書類チェックに2時間ぐらいかかった記憶がある。ところが今回は⋯⋯。タイランドパス申請で送られてきたQRコードを読みとるだけですべてOK。「これだけ?」。気が抜けるほど簡単にコロナチェックは終わってしまった。30分ほどで入国。ここで隔離ホテルに向かう専用車を待った。

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僕はまっすぐホテルに向かうと思っていた。ところが車はこの駐車場に。運転手さんに訊くと、ピヤバット病院だという。なぜ病院? すると看護師さんがやってきて、ここでPCR検査の検体をとるという。車から降りずに、鼻のなかをくちゅくちゅ。ドライブスルー形式の検査場だった。

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以前は看護師が隔離ホテルに常駐し、PCR検査を2回行っていた。しかし11月からは1回。ここで検査をして結果をメールでホテルに伝えるという。タイとは思えない合理化。そして、「7日後にこれで再検査してください」と抗原検査キットを渡された。7日後⋯⋯。予定通りにいけば、そのときはギリシャ。さて、どうしよう。

日清焼きそばU.F.Oかタイのママーか

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今回も3月と同じローヤルラタナコーシンホテルにした。理由? 安かったから。といっても1万3000円ほど。宿泊代にPCR検査代、空港からの車、食事1回分が含まれているのだが。どこかコロナ禍で経営が苦しいホテルの救済策にも映る。以前は別室でのチェックインだったが、今回は通常のフロントで手続き。いろいろが戻ってきた。

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ホテルの食事は1回。朝食を選んでいた。ということは夕飯がない。隔離だから、ホテルから出ることができない。で、日本から日清焼きそばU.F.Oを持参していた。お腹がすくかも⋯⋯と大盛。ところが部屋に入ると、冷蔵庫の上にカップ麺が置かれていた。タイのママー。用意されていたじゃないですか。この味も好き。どちらを食べる? 心は千々に乱れた。

風情をとる? 環境をとる? これからのローイクラトン問題です


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隔離ホテルに1泊した翌日の昼、フロントから電話が入った。「病院から陰性の連絡がきました。チェックアウトしていいですよー」。晴れて娑婆⋯⋯8ヵ月前の14日隔離に比べればないような短さだが、やはりホテルを出ると空気から自由のにおいがする? その夜はローイクラトン。一見、日本に精霊流し似た祭りだった。ルンピニ公園にいくとこの光景。タイ式の灯籠、女性がつくってくれたほうが思いが伝わる気になるのは、僕が男だから?

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ローイクラトンの翌日、川や池は役目を終えた灯籠だらけ。朝の日射しに晒された灯籠って、はっきりいってゴミ。見たくはない光景だった。だから? 今年のヒット灯籠は、魚のエサになる灯籠。たぶん麩でできているような気がする。バンコクの人たちも、翌朝のゴミをみたくないのだろう。しかし水に浮かべると、静かに揺れるのではなく、あっという間に魚に食いちぎられて⋯⋯風情はありません。風情をとる? 環境をとる? これからのローイクラトン問題です。

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会社帰りのOL、家族連れなどが次々にやってきて灯籠を流す。日本ではタイの精霊流しとして知られるが、豊年祭に相当する。先祖の霊とは無縁だ。去年は新型コロナウイルスの影響で中止。やっと今年は⋯⋯。いつもより灯籠を流しにやってくる人も多い気がした。ローイは流す、クラトンは灯籠。母親が息子に向かって、「ローイトーラサップ?」という子供には怖い冗談を口にしていた。トーラサップはここではスマホの意味。どの国もスマホをめぐる問題は同じ。

Sight 15

ローイクラトンの帰りの、歩道にテーブルを出した屋台風の店に入った。タイ風の焼き肉の店だった。肉にエビ、野菜などが入った焼き肉セットに野菜追加で600円ほど。やはりタイは安い。もちろんビールも飲める。この時期、タイは新型コロナウイルスの非常事態宣言中。アルコール類は9時までに注文で10時以降はアルコール禁止、と政府は規制をかけていた。僕らが店に入ったのは8時半頃。急いでビールを注文すると、店員が、「1時まで飲めるから大丈夫」と耳許で囁く。いつものタイが戻ってきた。


【次号予告】次回からコロナ禍のバンコクを。(12月17日公開予定)

新しい構造をめざしています。