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湊かなえ『高校入試』~受験とは?~

世間はクリスマスで浮き足だっているが、約2か月後に迫った入試シーズンに向けて必死に勉強している受験生も多いことだろう。
そんな高校入試を舞台に描かれたのがこの作品である。
ドラマ化もされた有名な作品なので読んだことのある方も多いとは思うが、受験という制度にフォーカスしながら自分なりの考察を書き連ねていく。

1.あらすじ

県下有数の公立進学校・橘第一高校の入試前日。新任教師・春山杏子は教室の黒板に「入試をぶっ潰す!」と書かれた張り紙を見つける。迎えた入試当日。試験内容がネット掲示板に次々と実況中継されていく。遅れる学校側の対応、保護者からの糾弾、受験生たちの疑心。杏子たち教員が事件解明のため奔走するが・・・。誰が嘘をついているのか?入試にかかわる全員が容疑者?人間の本性をえぐり出した、湊ミステリの真骨頂!(原文ママ)

以下、ネタバレを含みます

各登場人物の思惑・台詞と謎の二重カッコで囲まれた一文でテンポよく物語は進んでいくが、次第に謎の二重カッコで囲まれた一文がネット掲示板に投稿された一文であることに多くの人が気付く。
予想外のアクシデントによっててんやわんやしている学校側とその状況をネット掲示板で楽しんでいる犯人グループが何とも言えないコントラストを生み出している。
そして、犯行の共犯者が実は主人公である春山杏子と煮え切らない校長と教頭を献身的にサポートしていた入試部長だという大どんでん返しが最後には待ち受けている。

2.毎年恒例の行事

ほとんどの人が人生で一度は経験するという入試。受験生にとっては人生を分岐する大きな行事であるものの、学校側にとっては文化祭や体育祭と同じように存在する毎年恒例の行事にしかすぎない。

今回の事件では高校受験に失敗した子が自殺をしてしまい、その両親が入試結果の開示請求をすると採点ミスが発覚してたことが発端となった。しかし、当の教師たちは過去の採点ミスを軽視・責任転嫁するような言動をとっていたり、バカ騒ぎをしていたりと無責任な態度をとっている。

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人間である以上ミスというものは付き物である。それを解消するために入試形態をマークシート方式にすればよい、ミスは忙しさに起因するから労働環境を改善すればよい、などという根本的な制度改革については今回は脇に置いておく。

この話はあくまでフィクションであるが、入試というものに対する受験生と学校側が感じている価値の格差、これをどう解消するかというのは既存の入試制度においても大きな論点ではなかろうか。

3.サクラチル

共犯であることがバレた入試部長がネット掲示板を強制終了するために書き込んだ一文。
これ以外にも、中心人物が「今年の桜はいつ咲くと思いますか?」と訊ねたら協力者は「入学式の二日前です」と答えることが犯人グループの暗号になっていたり、最後の章でも情景描写として描かれたりしているように物語を通して『桜』が一つのキーワードになっていた。

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たった一回の勝負で全てが決まってしまう入試。その入試で幸運にも合格をつかみ取る者もいる一方、不運にも合格から見放されてしまう者がいる。
しかし、成功したとしても順風満帆な人生が確約されるわけではなく、たとえ失敗しても人生はこれから先も続くのであり花開く機会は幾度となく巡ってくる。
入試は人生の通過点に過ぎない、そんな考え方を一度花が散ってしまっても何度も何度もまた満開の花を咲かせる桜の木に例えているのではないのだろうか。

4.学歴コンプ

この物語の舞台は県下有数の公立進学校・橘第一高校であるが、この高校に対するプライド・羨望が登場自分たちの心の中で終始うごめいている。
鼻にかけて自慢したり、声高らかに校歌を歌っている人もいれば、落ちたことを長年引きずっている登場人物もいる。中には、この高校に落ちた人が娘の結婚相手だと幸せになれないからと決めつけて結婚を反対する登場人物もいる始末だ。

学歴とはそれほど大事なものだろうか?

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最も知られている学歴の話をすると、大学受験にも早慶MARCHというランク分けが存在する。
早慶戦のようにライバル意識を持ってお互いを高めあうのは大いに結構である。しかし、相手が早慶出身でないからと蔑んだりとか、自分はMARCHに入れなかったからと卑下したりするのは如何なものか?

自分は学歴とはルックスに近いものがあると思う。
人を手軽に評価する際には有効な指標ではあるかもしれないものの、あまりにもその指標を過信しすぎると相手の内面だとか大事なものを見失ってしまう。
たしかに磨けば磨くほど光るものではあるが、それは個人個人の環境等に大きく依存している。それらのことを心に留めて学歴と向き合っていく必要があるように個人的には思う。

5.総括

年末年始で周囲が浮かれている中で黙々と頑張らなければいけないという重圧に加え、今年はコロナ禍で対面でのコミュニケーションもままならないという受験生にとっては非常にしんどい時期である。

それでも受験生は自分の目標に向かってひたむきに突き進み、サクラチルことなく満開の桜を咲かせてほしいと切に願う。

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