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ひび

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日々のことについて文章を書きます。
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2019年3月の記事一覧

孤独な浮遊

芸人というのは、とにかく他人に褒められたい、評価されたい、といったことばかり考えているようである。たとえばライヴ終わりの打ち上げの場などで、乾杯お疲れ様でしたぁまたよろしくぅ、なんて挨拶もそこそこに、出演者たちは一斉に携帯を取り出してスッスと調べ物を始める。何見てんの?と聞くと、エゴサーチしてるんです、と言う。つまり自分たちの名前をTwitterなどで検索して、ライヴに来た観客がインターネット上に

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物真似

あまり意識していなかったのだが、自分は人の物真似が結構好きなのかもしれない。芸能人や歌手などでは無く、あくまで周りの友達や、街で見かけたおばはんの物真似を、つい、してしまう。たとえばAさんという人の話を誰かにするとき、自分は時折Aさんの物真似を入れつつ、話す癖がある。また、そこには自分勝手な空想が入り込むこともしばしばあり、たとえばBさん、彼は非常に真面目で寡黙な男である。すると、自分はBさんの物

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大阪の春

段々と春が近付いてきた。電車の窓から見る花々も色付いて美しい。とはいえ、自分の格好は未だに、セーター、コート、マフラー、マスク、ニット帽、である。昼間は確かにぬくい。晴天のときなど、少しばかり汗をかくほどだ。しかし、自分は知っている。春の夜の寒さを知っている。おれは知ってるんだぜ。

ガタゴトと揺れる車内、向かいに座るJKは、頭にピンク色の耳カチューシャを付けていて、頬には色とりどりの派手なラメメ

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東京の春

二日間のライヴだった。また性懲りも無く、東京へ行った。昼間の新幹線で東京駅へ行き、中央線に乗り換えて中野駅へ、駅から15分ほど歩いたところにある地下の牢獄劇場で「ヤング寄席2」というライヴをして、皆で中華料理を食べた後、自分は大久保駅近くにある安宿に泊まった。今回は、何が何でも新宿へは行かぬ。人糞だらけの新宿という街が、自分は心底嫌いだ。だから隣駅の大久保にある宿を取った。宿はなかなか悪くなかった

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ちょうど10年前の今日のブログ

2009年3月19日

おれはコンビニで働いているのだが、今日は一人の客について書く。それは、よく店に来る若いヤンキー風の女で、奴はいつもクールブースト5ミリを買うのだが、こっちが優しい笑顔で接客してもブスッとしていて、ありがとうの一つも言わずに帰って行く。なんと愛想の無い奴だろうか。クールブースト5ミリばかり買うので、おれは奴にクールミと名付けた。

クールミはいつも夜になるとやって来た。そのう

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ドネーション

自分は店をやっているので、場所貸しという形で、誰かにライヴやイベントをやってもらうことがある。

とあるイベントの主催者と打ち合わせの連絡メールを取り合っていたときの話。イベントの内容や構成などのやり取りをしている中で、先方から唐突に「ドネーションはどうですかね?」と来た。ん?と思った自分は、口をヘの字に曲げて硬直した。すると続けて「ドネーションは今まではやったことは無いのですが、そちらに迷惑が無

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しっかりと、着実に、勃起

今週末は大阪で、そして来週は東京で、漫談家の街裏ぴんく氏と我々の二組で『街裏ぴんく・ヤングの競演会プレミアム~我らの言葉に理由(わけ)は無し~』というイベントを開催する。

何ともお硬いタイトルのこのライヴは、年に一度開催していて、今回でおそらく六回目を迎える。今までは、お互いに約40分ほどの長尺漫談・長尺漫才を一本ずつ披露するだけのライヴだった。今回は互いの漫談・漫才で交互に織りなす「連漫」とい

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脳とnote

フランという名のチョコレートを買って食べた。素晴らしい美味さの菓子である。だが、どうにも名前がいけない。フラン、というのは、腐乱、をイメージしてしまって、美味しいのだけれど食べるたびにいちいち腐った死体が頭に浮かんでくる。

「腐乱死体」という言葉は「フランケンシュタイン」と似ている。日本語と英語、異なる言語にも関わらず、偶然にも、意味合いさえどこかマッチしている。これは果たして偶然なのか。言葉の

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スライド映写機

こないだ、例の如く、池田にある五月山動物園へウォンバット(自分の最も愛する生き物、かつ世界で最もかわゆい生き物)を見に行った際のこと。途中、古民家や酒蔵が立ち並ぶ町の路地を歩いていると、一軒のボロ家があり、ガレージには廃棄物やガラクタが山積みになっていて、ご自由にお持ち帰りください、と紙貼りされていたので、立ち止まった自分は品定めを始めた。

ケチンボ根性で、何かおもろい物は無いだろかと見てみたが

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不平等精神

自分はどちらかというと人見知りで、飲み会や打ち上げやパーティーなども極力避けて生きてきた。皆でワイワイしているのを見ていると、誰とも話したくない気持ちが湧き上がり、口を尖らせて無口なひょっとこになる。グループ行動も苦手で、他人のノリに合わせることすらせず、だんまりを決め込む。舞台上でも、エンディングでーす!ワイワイガヤガヤ、となると、もう勝手にしなさいよ、という気持ちになって、太った芸人の後ろに回

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366日

近所のブック・オフへ行くと、今月で閉店とのお知らせが書いてあり、畜生、と思った。心斎橋のスタンダード・ブック・ストアも近々閉店するそうで、本や古本が売れない時代なのだろう、仕方も無いけれど、潰れられたらこっちが困る、こっちは珈琲を飲みながら無料で本を読んだり安く本を買ったりしたいんだよ、畜生。

ブック・オフは閉店セールと銘打って、全古本が20%引き、と書いてある。鼻を膨らませた自分はケチンボ根性

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