ドネーション

自分は店をやっているので、場所貸しという形で、誰かにライヴやイベントをやってもらうことがある。

とあるイベントの主催者と打ち合わせの連絡メールを取り合っていたときの話。イベントの内容や構成などのやり取りをしている中で、先方から唐突に「ドネーションはどうですかね?」と来た。ん?と思った自分は、口をヘの字に曲げて硬直した。すると続けて「ドネーションは今まではやったことは無いのですが、そちらに迷惑が無ければやってみても良いかな、と考えています」と来て、ん?ん?と硬直していたら、更に、「すみません。やはり、ドネーションについてはまた検討します」と来た。

仏壇がチィーンと鳴る。怒涛の三連続ドネーション・メールに、自分の脳みそはこんがらがって、側頭葉から前頭葉にかけて蟲がぞろぞろと蠢いた。ふざけてんのか阿呆ぼけカス。ドネーションって何やねん。もう一回。ドネーションって何やねん。分からないなら聞けば良いのです。昔の担任ならばそう言うかもしれない。だが、「すみません、無知なもので。ドネーションって一体なんですか?」なんて愚鈍なメールを送ろうもんなら、それは完全なる敗北宣言であり、且つ、こいつ店やってるくせにドネーションも知らんでぇ頭わるぅ、と先方に呆れられて嘲笑されて酒の肴にされる可能性もある。先方の思う壺だ。つぼ八のレバ刺しだ。歯舞のボルシチだ。脳が溶けてきた。ひとまず落ち着こう。

ドネーション。とは。どうやら、店に迷惑がかかる可能性があるものらしい。破壊行為の一種であろうか。もしくは自慰行為。ってそれはマスターベーションじゃん、と脳内ギャルがツッコむ。そもそも、ドネーションのイントネーションは?ステーション的な発音か、奴隷船的な発音か。ドネーションを了承すれば、店のスタッフが奴隷の如くこき使われて店内の備品を破壊されてそのまま航海に出るとでもいうのか。んなこたなぃ、と脳内タモリが言う。後悔ばかりの桃太郎。もも、もも、ももんが。脳みそは溶けていくばかりで、脳蟲は蛾となり羽ばたいた。気付けば夕暮れ。溜息混じりに、どねえしよ、と呟いた。

文面から察するに、ドネーションがそんなに良い事柄でないことは確かである。もしも、幸福になれる、儲かる、といった事柄ならば、先方もきっと、ドネーションやりたいです!と即座に言うはずだろう。しかし先方は、あくまで慎重に検討を重ねている。そこがまた不気味で、つまり、ドネーションとは、恐らく何らかのリスクがある事柄なのだ。羽毛布団を安く仕入れて高値で売る、みたいな。壁壊して増築、みたいな。んざけんじゃねえよ、と脳内ヤンキーがキレている。断ることにした。ドネーション?そんなもの、認めませんよ。わたしはドネーションを認めません。反ドネーション主義者と呼ばれても構いません。というか、打ち合わせの際によく分からない用語を使わないで頂きたい。

「ドネーションについては、基本的には各主催者様の見解にお任せしているのですが、ドネーションを発動させる場合、それに伴うリスクも生じます。店側としては、創業以来、反ドネーション的なスタンスで経営していることも事実です。ドネーション発動時における、損害、損失、紛失、につきましても、場合によっては賠償請求させて頂く可能性がございます。ご理解をお願い致します。ちなみに、ケロトバンドゥバ・ボカリジャンはどうされますか?」とメール送信した。

これにて一件落着だ。脳みそ爽快。ワハハ。以来、先方からの返信は無かった。勝利。

何もいりません。舞台に来てください。