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嫌ってほど好きで、憎たらしいほど愛してる。楽曲『恋人ごっこ』。

あなたが好きな人が、どうか最高に素晴らしい人でありますように。
友達以上で恋人未満。非常に脆く、曖昧な関係を綺麗に終わらせるためには、言い訳を挟む余地もない完璧な敗北が必要なのだ。

進むことも戻ることもできずに停滞しきっていた関係に、僕は相応しい名前を付けることができずにいたけれど。

僕と彼女が終わらせようとしたものの名前は多分、“恋人ごっこ”ってやつだった。

今はなんとなく、そう思う。

※ ※ ※

2020年4月1日(水)にマカロニえんぴつがリリースしたアルバム『hope』に収録されている『恋人ごっこ』という楽曲がある。
知り合いがSNSで絶賛していたので存在は知っていたのだが、僕がちゃんと曲を聴いたのはわりと最近のことだった。

女々しさを拗らせてイマイチ眠れない日。
そういう日は音楽やら物語やらにどっぷり感情移入して、思う存分気分を沈めるに限ることを、僕は経験から知っていた。

そんなある日のこと。僕はYoutubeでマカロニえんぴつを検索していた。
「マカロニえんぴつは曲だけでも最高なのに、MVの出来栄えは本当に素晴らしい。それをYoutubeで無料で公開しているのだからどうかしている。金取れよ。金を受け取ってくれよ」と飲みの席で知り合いが熱論していたのを思い出したからである。

検索して目についた『恋人ごっこ』のMVを再生しながら、概要欄に目をやると、ギターとボーカルを担当するはっとりさんが楽曲に対してこうコメントをしていた。

「ただいま」またここに帰って来て、少し違ってやっぱり変わらないさよならを何度も。

「あたしね、もし猫を飼ったら、もう会わないかも」

離れられないのに離れないといけないといけない恋人たちがいる。思い出にしないために忘れないといけない恋がある。

この曲は僕のためにある曲だ。
コメントを読んだ瞬間、僕は直感した。
感情移入するまでのプロセスがあまりにもお粗末すぎて、マカロニえんぴつファンの罵声が聞こえてきそうだが、そう思ってしまったのだから仕方がない。

“恋人ごっこ”をいつまでも続けていた僕に、この曲が与えた衝撃の大きさはとんでもないものだった。

※ ※ ※

僕には会社の同期に推しがいる。
シャイなあんちくしょうなもので、思わず“推し”なんて取り繕った言葉を使ってしまったが、正直に言ってしまえば好きな子である。もっと正直に言ってしまえば大好きな子である。

彼女の恋人になりたいと思ったことは何回もあったが、付き合っても絶対に上手くいかないという直感と、友達以上恋人未満の関係性を壊してしまうリスクを負いたくないという甘ったれた気持ちから、曖昧な関係を何年も続けてしまった。

平日に有休を取ってディズニーに行ったり、お互いに誕生日プレゼントを贈りあったり、飲みに行って終電をなくしてカラオケで何も歌わずにだらだらとお喋りをしたり、数えきれないほどの思い出が彼女との間にはあった。

“思いを伝えていない”という致命的な欠落に目を瞑れば、僕と彼女は多分恋人だったと思う。

けれども、そんな不安定な関係性はあっけなく終わりを迎える。
いや、終わりを迎えるべきタイミングが来たというのが正しいか。

そう、彼女に恋人ができたのだ。
ごっこではない、本物の恋人が。

元々、行き詰っていた関係である。
終わらせる理由としては上々である。

そう思った。
そう思うことにした。

たった一つだけ願いを言っても良いのなら。
ちゃんと思いを伝えていれば、なんて思うことがアホらしくなるくらい、

あなたの好きな人が最高に素晴らしい人でありますように。

※ ※ ※

さて、気持ち良くなってついつい悲劇の主人公ぶった自分語りをしてしまったが、曲の話に戻そう。

この曲は、“もう一度だけ”で続けてきた恋人ごっこの関係を、“もう一度だけ”で終わらせるまでの物語である。

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缶コーヒーで乾杯したり、手を繋いで散歩したり、洗濯物を干しながらイチャイチャしたり、幸せな日々を過ごしていた「自転車の彼」と「彼女」。

何度も喧嘩をしては仲直りを繰り返しながらも、関係性を継続してきた二人。

この二人が何故、恋人ではなく恋人ごっこなのか。

そもそも付き合ってなかったから?

二人はもう別れているけれど、関係を断ち切れずに恋人ごっこのような関係でいたから?

そればっかりはどれだけ考えてみても妄想の域を脱しないけれど。
二人はついにその恋人ごっこを終わらせる決断をすることになる。

どうして恋人ごっこを終わらせる必要があったのか。

二人だけの問題だったかもしれないし、MVにちょこちょこ出てきた「バイクの彼」が関係しているかもしれなかった。

まあ、こちらもどれだけ考えてもわかりっこないわけだけど。

ただ、ずっと終わらせられなかった恋人ごっこを終わらせることが、どれだけ大変なことか、その気持ちだけはわかってしまう。

もう一度あなたと居られるのなら
きっともっともっとちゃんと
ちゃんと愛を伝える
もう二度とあなたを失くせないから
言葉を棄てる 少しずつ諦める
あまりに脆い今日を抱き締めて手放す

ただいま さよなら
たった今 さよなら

僕は終盤のこの部分の歌詞が大好きである。
(歌うときも、ここがとにかく気持ちいい)

色々な感情で胸中がぐっちゃぐちゃになっていて、自分でもどうにもならない感じ。
これぞ恋愛だ。
これぞ女々しい男の気持ちだ。
正直、たまらん。

この曲に感情移入しまくった僕としては、やっと「彼女」にさよならできた「自転車の彼」が幸せになれていることを祈りたい。

「自転車の彼」と同じように終わらせがたい恋を終わらせた人が、幸せになれていることを、祈りたい。

スクリーンショット (3)

          (幸せになってるといいなあ)

※ ※ ※

最後に余談だが、この曲はHondaの「バイクに乗っちゃう?」という企画のタイアップソングらしい。
「自転車の彼」と付き合っていた「彼女」が「バイクの彼」と幸せそうに映っている姿を見たあとにそのことを知った僕の気持ちはかなり複雑なものだった。

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