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チェックのスカート

黒い服を着ないというこだわりがある。
20歳までは普通に着ていたのだが、アパレル販売の仕事をしていた時に
このトップスには何が合いますか?
このボトムスには何を合わせたらいいですか?
そんな質問が多く、大抵黒を持っていけば間違いはないですよ。という答えがよく聞こえた。
けれど黒い服は誰もが持っていていつでも合わせられるし、折角ならこんな合わせ方もあるのかと新しい発見として新鮮な風をふわりと送り込んであげたいと考え、その為には自分が黒着てちゃだめだよなぁと思ったのが始まり。

なるべく明るい色を着て、柄を取り入れた。
柄に柄を合わせて遊んだり、上下オーバーサイズでどこの民族やねんと笑われたり、ふざけた色のカラータイツを合わせてお客さんに驚かれることもあった。
大人になるにつれ少しずつ自分に合った服を選べるようになったが未だに赤いコートだって着るし黄色いスカートだって履く。
33歳になった今でも黒い服は着ない。

一時期花柄のワンピースが大流行した時期があって大学では柄や色は違えど皆こぞって花柄のワンピースを着ていた。
もちろん自分も着ていた。
小花柄でふくらはぎの中間くらいまである丈、袖はなくキャミソールのような肩紐で中にTシャツを合わせて着るのが流行りだった。
着たくて着たというより皆着てるから着ていた。
憧れてた男の子におまえの花柄はなんかちゃうねんなー。と言われたのをきっかけに自分でも似合っていないのがよく分かって、流行りじゃなくて好きで自分に似合う服を着ないとね!と吹っ切れた。
そしてまず始めに選んだのがネイビーと緑のチェック柄のスカートだった。

昔は2歳上の兄と、6歳上と9歳上の従兄弟と4人兄妹のように暮らしていたので、
当然洋服はおさがりでおしゃれとは程遠いデザインに地味な白黒茶色青緑。
スカートを履くことは滅多になく、髪の毛もベリーショートだった私は完全に妹ではなく弟のように扱われ自分自身も男のように振る舞っていた。

ある日薄いピンク色したチェックのワンピースをプレゼントしてもらえた。
ミニーちゃんのワッペンと小さなリボンが付いて、半袖のパフスリーブで膝が見え隠れするくらいの丈。
少し分厚い綿素材でほんのりと自分の家とは違う匂いがした。

着たことのない服に照れを隠しきれず、くるくる回ってスカートをひらりふわりとひるがえしたり、少し高い所からジャンプしてスカートが空気でクラゲの頭のように膨らむのを楽しんでいた。
自分はやっぱり女の子なんだと認めるのはなんだかくすぐったい感覚があったけれど、周りに可愛いね。と言われれば悪い気はしない。

しかし男勝りな所作ばかりしていたので足下にスースーと風が入ってくる涼しい感覚に慣れず、スカートの中見えちゃうから足は閉じて!大股で歩かない!階段は一段ずつ!制服着るようになったらスカートなんだから慣れておかないと!と親から小うるさく言われて少々うんざりしてしまい結局中学生になるまでスカートを履くことはなかった。

ようやく中学生になってスカート生活にも慣れて来た頃、初めておしゃれに目覚めた友人達と洋服を買いに行くことになった。
少ないお小遣いで買えて安くて動きやすい楽な服でいいや。
何でついてきてしまったのかと、流行りの洋服に身を包み軽くお化粧をしてはしゃぐ友人達の後ろを興味なさげにふらふらとついて行った。

あるお店に飾られていた赤いタータンチェックのスカートに目を止めた。
ブリティッシュテイストの濃いきちんと感の高さが表現されていて、スカートになると実にレディライクでなんて可愛いんだ!と一目惚れしてしまった。

それ以来大のお気に入りになりお休みの日はいつも履いていたが、
その当時厚底靴も流行っていて、よせば良いのに調子に乗って慣れない靴を履いてしまったばかりに段差に躓き派手に転んでしまいスカートを破ってしまった。
そらみたことか。

悔しい気持ちと転んで恥ずかしい気持ちとこんなことで落ち込む自分が情けなくてポロポロ泣いた。
直したくて必死に糸と針を動かしたけれどひどくなる一方で最後は諦めて処分することになった。
裁縫をするようになったのはそれがきっかけ。
今ではそれなりにお直しができるようになり、これはこれで身について良かったかなと思う。
裁縫の話も後々。
それ以来チェックのスカートにはなんだか思い入れがあるのだ。

節目節目で出会うチェックのスカート。
自分らしくあろうと気持ちを切り替えたときに必ず選ぶ、ボーダーよりも花柄よりも自分にしっくりとなじむチェック。
素敵なデザインに出会えたときはきっといい兆しと信じて。
ミモレ丈の軽い生地をふわりと飜して堅いローファーをコツコツ鳴らし小粋に歩く。


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