マガジンのカバー画像

『SHORT SHORT SHORT』

13
大学院時代に書いたショート・ショートをアップしました。 これ以降のショートショートは、こちらをご覧ください。 https://short-short.garden/mypag… もっと読む
運営しているクリエイター

2020年5月の記事一覧

「演奏会」

「演奏会」

今日は大学の礼拝堂で、ギターデュオの演奏会がある。

ボクは音楽が好きで、結構いろんなコンサートに行くのだが、ギター2本だけのコンサートというのは初めてである。だからすごく楽しみにしていたのだが、間抜けなことに多少寝坊してしまい、会場に入ったのは開演時間ギリギリであった。

どうにか座ることはできたものの、土曜の昼下がり、また、演奏者が本校の卒業生というということもあり、会場はほぼ満員であった。狭

もっとみる
「朝食」

「朝食」

目覚ましがけたたましい音を立て、ボクを「世界」に引きずり出した。ボクはいつも感じる不快感を頭の隅に残しつつ、仕方なくベットから体を起こし、カーテンと窓を開けた。

ボクはベットに腰をかけたまま、いつもの朝一番の仕事、つまり、愛機のパソコンを立ち上げた。

立ち上げると言っても、ウインドウズ98からかなり早くなり、最新OSのウインドウズ01になると、その作業にほとんど時間を要しなくなった。つまり、電

もっとみる
「呼吸」

「呼吸」

その程度に関わらず、犯罪を犯した者は即刻「消去」されるという「新治安維持法」が施行され、今年で3年目になる。

このシステムの中核をなすのは、テロなどの国家反逆罪にまで対応できる武装兵器を備え、常に陸・海・空全ての領域に渡って国民を監視している、通称「自動警察」と呼ばれるロボットたちである。

「彼ら」はあらゆる監視装置(各家庭にまで備え付けられた盗聴機器、中央コンピュータによるハッキング・システ

もっとみる
「特急」

「特急」

大阪での用事を終え、ボクは京橋から出町柳行きの特急に乗った。ボクの家は終点の出町柳のすぐそばなので、あとはこのまま乗っていればいい。

思わぬ理由で予定が長引いてしまい、もう7時を過ぎている。丁度帰宅ラッシュにぶつかるので、もう座れないだろうとあきらめていたのだが、車内は思ったよりすいており、偶然、目の前の席が空いていた。僕は窓側に座り、カバンから読みかけの小説を取り出し、ページを繰り出した。

もっとみる
「文通」

「文通」

その不思議な「文通」が始まったのは、まだ少し肌寒い、5月の初め頃だった。

その日、ボクは自分宛の電子メールを読もうと思い、いつものように大学のパソコンで自分のメールボックスを開けた。すると、見慣れた友達のメールアドレスに混ざって、全く見たことのないアドレスからメールが届いていた。

「誰だろう」

少し気味が悪かったが、そのメールを読んでみた。すると案の定、単なる「間違いメール」であった。大学が

もっとみる
「ラーメン屋」

「ラーメン屋」

3講目が突然休講になったので、ボクは遅めの昼食をとるために、行きつけのラーメン屋に向かった。

普段この店には、飲んだ後など、どちらかというと夜にしか来ないので、いつもはサラリーマンや学生達でごった返している。しかし、その日ボクがその店に入ると、平日の昼間ということもあり、ボク以外の客は一人もいなかった。

「並のネギ大、ニンニク入り」

ボクはいつものように入口でセルフサービスの水を汲み、店員に

もっとみる
「寮会」

「寮会」

交替の人がなかなか来ないので、思わずバイトが長引いてしまった。今日は週に1回の寮会の日なのである。

バイトはどうにか9時には終わったものの、寮会も同じく9時からなので、さすがに慌てて自転車を飛ばした。ただでさえ、遅刻にうるさい寮長なのに、バイトが原因だと分かったら、それこそ大目玉である。

9時15分頃寮に着くと、急いで帰ってきた感じを出すために、いささかおおげさに門のドアを開け、閉めるときにわ

もっとみる
「講義」

「講義」

杉山教授は、月曜第1講時目の講義に向かっていた。 教室は連休の谷間だというのに、すでにはほぼ満杯になっていた。

「私が学生の頃は、こんな日にはまず大学には来なかったがな」

杉山教授はなぜか、軽い失望にも似た感情をもった。しかし、自分の講義に出席してくれる学生が多いことが、嬉しくないはずはない。杉山教授は、いつものように自分の研究室から持ってきたチョークを取り出し、いつものように講義を開始した。

もっとみる