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クリエイティブの”島根らしい“作り方

作りながら考える暮らしを探求する、Craftsman’s Base Shimaneの西嶋です。

私たちは先日、島根県有数の美しさを誇る「室谷の棚田」(浜田市・三隅町)の真ん中に位置する吉原木工所を訪ね、工房の陣頭指揮を執る吉原敬司さんに話を聴き、それを踏まえてnoteの記事と動画を制作しました。

今回の記事では、そんな制作の舞台裏を振り返りながら、”島根らしい“クリエイティブの作り方について考えてみたいと思います。

① すべてをワンオペでつくる

制作過程でまず印象的だったのは、動画の撮影・編集を一手に担ってくださった戸田耕一郎さんのスタイルです。組子を制作する作業風景をテンポよく撮影し、人の動きや物の細部に宿る「美」を浮び上がらせるように編集する。そんな技術やこだわりもさることながら、撮影に至るプロセスや撮影中の細かな工夫も印象的でした。

まず、戸田さんはすべての工程を一人で完結できるように、自身の持つ機材車を含め、撮影に必要なあらゆる道具を自分らしくデザインしていました。どんな現場にも対応できるイメージで、プロフェッショナリズムを感じました。

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戸田さんの撮影風景

撮影のスケジュールも独特です。戸田さんは全体的に日程を多めに確保してくださっていて、よりよい画が取れそうであれば予想外の動き方であっても対応できるように準備していました。

今回の撮影でも「週末に岡山の展示会に参加するから同行しない?」と被写体である吉原さんに言われ、「いきます」と戸田さんは即答。もともとの取材スケジュールにはなかった展示会の撮影が加わりました。

この追加の撮影のおかげで、木材が切り出され、職人の手で組子に生まれ変わり、最終的に展示会でお客さんにその魅力が伝えられる……そんな吉原木工所の仕事の工程すべてが3分の映像に収められたのです。

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映像に収められた展示会の様子

この映像が入ったおかげで、吉原木工所がいわゆる下請けだけではなく、自社製品を作って顧客に届けられる会社なのだと示すことができました。戸田さんの撮影スタイルによって、今回の映像の見せ方全体がポジティブに変化したのです。

② 少量生産・高付加価値化の実現

島根らしい作り方をしていたのは、戸田さんだけではありません。吉原木工所もやはりすごかった。吉原木工所でつくられる組子の障子は、お客さんの家にあわせて、既製品では対応できないようなカスタマイズを行います

多くの住宅メーカーは単価が上がることを嫌って障子にはお金をかけないそうですが、吉原さんは逆にそこをついた提案を行います。「1億円もかけた家なのに、こんな障子でいいんですか?」

吉原木工所は、日本海を望む山間部の中腹にあり、交通アクセスをはじめ地理的条件においては非常に不利です。そのため、大量生産やロット数では都市部に近い工場にはかないません。だからこそ、少量かつ高付加価値の製品を作らなければならない……と、頭ではその正しさがわかっていても、実現できている会社は多くないでしょう。

しかし、吉原さんと職人たちは、自分たちの技術の高さと、それによって生み出される美しい組子、さらに、その組子を障子に活かして商品化するという発想力によって、少量生産・高付加価値の理想を現実にしたのです。

島根県で生きる、室谷の棚田で生きる。島根のアイデンティティを大切にしながらも、ビジネスチャンスを掴むために打って出るリアリティの共存が印象的でした。

③ 往復5時間かけても、大切にしたい1時間の現場

今回の撮影では、プロジェクトに参加する島根県庁の職員・福間猛さんが現場に足を運んでくれたことも印象的でした。

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島根県の松江(東)と浜田(西)の遠すぎる距離

福間さんは県庁がある島根県東部の松江市から、吉原木工所がある西部の浜田市まで2時間半以上かけて車で駆けつけてくださいました。そうして現場に1時間だけ同行したあと、また仕事のために県庁へと2半時間かけて帰っていきました。

バカバカしいと思う人もいるかもしれませんが、私はそうではないと思います。あらゆる現場を必ず見に行く必要はないですが、重要なところに自身が足を運ぶことは大切だと考えます。

今回の場合、吉原木工所が飛躍するきっかけになったパリの見本市に誘ったのが、福間さんだったという背景があります。吉原さんは、なかなか組子が売れないと悩んでいるなかで見本市に出展。このときの体験がきっかけで、洋室やリビングにも合うポップな要素と組子を融合させた「リビング障子」を開発、グッドデザイン賞を受賞したのです。吉原さんとの関係性があるからこそ、現場に足を運ぶ。その姿勢に胸を打たれました。

”島根らしい“作り方を全国区に

吉原木工所は、いま社屋と工場の建て替えを検討しているそうです。いまある工場のすぐ裏に新しいものを立てて、そこにショールームを併設。見学に来たお客さんが、木工所で作られた組子や障子の作品や職人の働く姿を直接見ることができるようにしようという計画です。吉原さんたちのスタイルの魅力が、さらに広がっていくきっかけになりそうです。

さらに、ものづくりに取り組む同業者を支援しようという取り組みも始まっています。組子や障子の業界は、全体としては非常に衰退しており、立ち行かなくなっている職人が大勢います。そこで、腕がいい職人と連携して、吉原木工所の仕事を一緒にやってもらうようにしているそうです。

業界全体のことを考え、フリーランスの職人たちをつなぐ。そんなビジョンにも共感しました。

クラフツマンたちが集う島根へ

戸田さん、福間さん、吉原さん。今回の記事で紹介した人びとはみな、島根で活躍する「クラフツマン」です。「クラフツマン」は、直訳では「職人」ですが、このプロジェクトでは、自らの手を動かして考えながら仕事や暮らしをつくるひと、と定義しています。顔と顔の見える関係性を大切にしながら、自分の手の中にある仕事や暮らしに、常に考えを巡らせながら向き合える面白さが島根にはあります。

このプロジェクトに関わる一人一人が自分の足で立って、仕事をしています。仕事と暮らしがかけ離れた都会や、自分が何をやっているのかわからなくなるような大企業での「地に足がつかない」感覚。島根には、それとは正反対の「地に足をつける」確かな感触があるのです。自分の名前で、ものごとに1から10までかかわるワーク&ライフスタイルが、島根で活躍するクラフツマンたちを育んでいるのだと思います。

このプロジェクトでは、そんなクラフツマンたちにスポットをあて、繋いでいければと思っています。動画に出演する方々と私たち制作陣とが垣根を超えてつながっていくことで、島根をおもしろがるクラフツマンたちの〈場〉ができる。そうすれば、その価値観に共鳴する新たなクラフツマンたちも集まってくるでしょう。「過疎」発祥の地である課題先進県「島根」を自らの手でつくりかえる。そんな現場に居合わせているワクワク感が Craftsman’s Base Shimane にはあります。

このプロジェクトや私たち自身に興味があるという方は、上記の記事も読んでいただけたら嬉しいです。