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感情の持つ特権と6秒の本当の意味

「カッとなる」「頭に血が上る」「キレる」など突然やってくるネガティブな感情の高ぶりを経験したことはありませんか?ここで「感情のハイジャック(Emotional hijacks)」と呼ぶそれらの体験は、人間の脳が本来持っている重要な機能によって引き起こされます。残念ながら現代では、この機能が本来の役割とは違う場面で動作してしまうことがあります。これはある意味人生で最も厄介な副作用の一つだと思いますが、自分自身の感情知能を成長させることで改善します。

脳の中で起こっているこの現象を理解することは、自己認知力内省力適応力を高め、幸せな人生を送るための大きなヒントになると思います。特に、激しい感情によって後悔した経験のある方には、脳のメカニズムを利用した改善策が参考になると思います。後悔しない人を目指してみませんか?

今回取り上げる動画は、感情知能の権威であるダニエル・ゴールマン博士の講義の一部で、感情のハイジャックの説明をしたものです。動画を見る際には、日本語の字幕を活用してください。


ネガティブな感情を監視する脳の特権と限界

脳の内側にある偏桃体(Amygdala)を中心とした大脳辺縁系(Limbic system)は、怒りなどのネガティブな感情を監視する役割を担っており、二つの特殊な機能を持っています。一つは、五感を通じて得られる外界からの信号を常に監視し、「私は安全か?」といった生命維持の基準を監視し続けます。もう一つは、この基準が危うくなると、脳を支配する最優先命令を出す特権を得ることです。

大脳辺縁系(Limbic system)

この特権には二つの特徴があります。一つは、とても敏感に反応すること、もう一つは、正確さよりもスピードを最優先し、たとえ不確かな情報であっても、可能性を察知したらすぐに脳を支配する仕組みになっています。特に頭の物理的な構造上、五感の中でも目や耳からの信号を非常に速く処理することを可能にしているようです。

感情のハイジャック

しかし、特権のこの二つの特徴のため、誤検出(擬陽性)が発生することがあり、この誤検出を「感情のハイジャック(Emotional hijacks)」と呼ぶことがあります。これは、不必要な状況であるにも関わらず、脳内の特権が発動することにより、特定の感情に乗っ取られてしまう状態を指し示します。

例えば、あなたが家族や同僚から自分の行動に対するフィードバックを受け取ったとします。そのフィードバックを「親切」ではなく「脅し」と知覚してしまうと、感情のハイジャックが起こり、フィードバックに対して望ましい行動をとることができなくなってしまいます。

感情のハイジャックはとても厄介な現象ですが、ハイジャックの特徴を知ることで、防ぐ方法を学ぶことができます。皆さんには以下のような経験はありませんか?

  • とても強いネガティブな感情が突然湧いてきた。

  • その感情は、とても強い怒り、とても強い恐怖、とても強い不安、など

  • その感情に対して、後に後悔することになるような行動をとってしまった。

とても強いネガティブな感情によって、後で後悔するような行動をとってしまった場合、感情のハイジャックが起こった可能性が高いと言えるでしょう。なぜなら、理性が働いている状態であれば、わざわざ後悔するような行動をとることはないからです。(ですよね?)

特権の時間制限:6秒

感情のハイジャックは、生命維持に必要な機能の副作用だと言えるでしょう。一方、この特権に長時間支配され続けることは危険がともなうため、それを回避する機能も備わっています。特権には、持続する時間の制限があり、ある一定の時間が経過すると、特権に関わる体内の化学物質の効果が弱まります。その時間がおよそ6秒と言われています。

これがいわゆる「6秒ルール」と呼ばれるものです。「6秒たつと理性が戻る」というわけです。これは必ずしも「6秒たつと怒りがおさまる」とか「6秒たつと怒りをコントロールできる」わけではありませんが、自分の意志に従って自分の行動を選択できるようになるため、他人から見える自分の振る舞いを変えることは不可能ではないと思います。ただし、感情を抑制するような行動は、ストレスなど別の症状を引き起こす可能性があるので注意が必要でしょう。

感情のハイジャックで後悔しない方法

大脳辺縁系(Limbic system)で行われる感情の生成の多くは、過去の記憶に基づいていると言われています。そのため、これらの記憶を整理整頓することで、感情のハイジャックを抑えることが可能です。しかし、これらの記憶は脳の奥深くにしまい込まれており、思い出すことが難しいとも言われています。そのため、どの記憶が原因なのかを正確に知ることは難しいのですが、以下の点に注意することで克服することは可能です。

  1. 感情のハイジャックが起こった場面を思い出す。

  2. その場面の、どのような信号、おそらくは、見たもの(目からの信号)、もしくは、聞いたもの(耳からの信号)に反応したのか考察する。

  3. そのような信号に対して、どうして強いネガティブな感情が突然脳内に湧くのか仮説を立てる。

  4. 仮説をもとに、ネガティブな感情は不要であることを、自分に教え込む。

例えば、特定の虫に過剰に感情が反応してしまうケースを考えてみましょう。子供の頃の何らかの嫌な経験により、そのような記憶が刻み込まれている可能性は想像できます。もしくは、大好きなお父さんやお母さんが嫌っていたので、それをまねしているだけかもしれません。しかし、大人になることにより、それほど感情的な反応は不要ではないかと思いなおすことができるかもしれません。さらに踏み込んで、その虫がかわいいとさえ思えるようになるかもしれません。虫だって一生懸命生きているだけなのです。

仮説は外れることがあります。しかし、仮に外れた場合は、以前と変わらず感情のハイジャックがおさまることはないので、外れたことを知ることができるでしょう。そのようにして自分自身の理解を深め、自分の記憶の整理整頓を行ってみてください。あなたを理解し、あなたを変えることができるのは、あなたしかいないのです。

仮説を立てる際には、他人の行動はとても参考になります。同じ信号を受け取っても違う行動がとれる人を見つけるのです。その人から何を学べるのかを考えることは、自分で悩むよりも近道であることがあります。解決策が自分の想像の及ばない外側にある可能性も考慮してみてください。

補足:偏桃体のハイジャック

「感情のハイジャック(Emotional hijacks)」は、動画の中では、「偏桃体のハイジャック(Amygdala hijacks)」と表現されています。ダニエル・ゴールマン博士はもともとそのような表現を使用していましたが、後に「感情のハイジャック(Emotional hijacks)」 と表現を変更しました。詳しくは、こちらのブログを参照してください。

また、「感情のハイジャック(Emotional hijacks)」は、「闘争・逃走反応(fight-or-flight response)」や「戦うか逃げるか反応(fight-or-flight response)」と表現されることもあります。


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