自由になった手乗りニワトリ
小学生の時にひよこが我が家にやって来た。
夜店で買う、あのかわいそうな色をつけられたひよこを母が連れて帰って来たからだ。夜店のひよこは何か問題があるひよこで農家の人たちがいらない、って夜店にあげたものなので、大きくならずに何日かしたらすぐ死んじゃうよ、と友人に教えられ私はそれならその命尽きるまでデレデレに可愛がってあげよう!とせっせとお世話をした。
多分母も同じようにひよこを甘やかしに甘やかしたと思う。
デジャブ(Deja vu)と名をつけ、小さなアパート暮らしだったので外の通路に籠を置いていたが、デジャブはたいてい台所でヒヨヒヨと動き回り手に乗ったり膝に乗ったりと愛嬌を振りまいた。
そして友人が言っていた何日かはとっくに過ぎ、もう何ヶ月か、となるところまで大きくなった。”農家の人がいらない”と言うのは嘘ではなく卵を産まない雄鶏のヒナが夜店に売られるのだ、と後々聞いた通り、デジャブは徐々に真っ赤なトサカが目立つオンドリに成長した。
デジャブは大きくなっても台所でウロウロし、私の手や膝に乗り、まるでインコのような生活をしていた。可愛くて可愛くて、私はデジャブの首に紐をつけて近所の公園を散歩したりしていた。
どれくらいの期間デジャブがうちにいたのかはわからないが、ある日学校から戻るとカゴごと消えていた。母が言うには近所の住人から鳴き声がうるさいと苦情が入り、さらにはカゴのスペースいっぱいに成長してしまったデジャブがかわいそうだから、と従兄弟のおばあちゃん家の畑に連れて行かれたのだ。
しばらくして一度そのおばあちゃんの畑に行ってみると、果たして我がデジャブは7−8羽のメンドリハーレムの長となり、畑をのっしのっしと歩いていた。
デジャブーーーーー と呼んでみたが、彼は私に見向きもせず、近くの低木のてっぺんまで飛び、そこに座ってキョロキョロと周りを見張っていた。
もう手乗りニワトリではなくなっていた。自由なニワトリになっていた。嬉しいような悲しいような、子供ながらに複雑な気持ちでデジャブを見つめた。
そんな昔を思い出したのはおとといの夕方に我が家の大きな樫の木の上に動いている影を見つけたからだ。
丸つけたら見えるかな〜
これはニワトリではなくワイルドターキー、七面鳥!
この家に住むまで知らなかったのだが、普段は地面をウロウロしているこの大きな鳥は夜には木の上まで飛び上がり、そこで夜を過ごすらしい。
七面鳥ってオスは5から10キロほどの大きな鳥なのに、身軽に高い木の枝まで飛ぶのにビックリ!しばらく観察していると、枝から枝へさらに上へ上へと登って行くのにまたビックリ。
調べてみると、なんと時速40キロほどで走り、80キロほどのスピードで飛ぶのだとか! すごいぞ、七面鳥!!!
のっそのっそ歩く姿はさながら恐竜、って感じでかっこいいけれど、それにスピードも加わるともうこれはラスボス・・・・!
アメリカの国鳥はボールドイーグル(ハクトウワシ)だが、あやうくベンジャミン・フランクリンによってワイルドターキーになりそうだったという話を思い出した。
その話を聞いた時は え!七面鳥にならんでよかったじゃん! と思ったけれど、この堂々たる姿を見ると、七面鳥でもよかったかもしれない。
やっぱり鳥はカゴの中ではなく自由がいい!!
デジャブも畑で自由を満喫してニワトリ生を謳歌できたのならうれしいな。
シマフィー
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