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振られた彼女の "Something Blue"

自分を弄んだ男を諦められない・・・そんな彼女が独りでつぶやく怨み言をなんとも可愛らしいメロディーと曲調で歌い上げる高見沢さんの声から、ドロドロに暗く苦しい歌詞があまり悲壮感を感じさせないこの曲。
1980年に発売されたアルフィーのアルバム ”讃集詩(さんじゅうし)” に収録されています(素晴らしいアルバム、必聴!)。

Something Blue  ひとり 女の怨み言 どんなに尽くしてみても 遊び上手な男ね 思わせぶりな そんなやさしさに 眩んだ心 悔しいの
Only you…あなただけが 生きがいだったのに 冷めた瞳の奥に
違う女を感じる

”怨み言” を繰り返す彼女の状況とは対照的な something blue という出だしに、ちょっとだけ アレ? と思いませんか?

幸せな女のブルー

Something blue とは結婚式で女性が身につける Something Four の中の1つです。Something old, something new, something borrowed, something blue・・・と古いもの、新しいもの、借りたもの、青いもの(そして元々は最後に6ペンスコインも)を新婦が身につけると幸せな結婚生活をおくれる、という迷信のあれです。19世紀のイギリスから始まった習慣ですが、日本でも something four を結婚式に取り入れている方が多いですよね。私も結婚式で身につけました(ちなみにblueはパンツでしたw)。

そんな女の幸せの象徴の様なSomething blueと振られた女の怨み言が重なる歌詞

元々oldは伝統を表し、それぞれの家族から新家庭に持ち込む伝統・習慣を指しています。Newは新しい門出、Borrowed はその幸せにあやかれるよう、幸せな結婚をしている既婚女性からの借り物、そしてBlueは他者の妬みや呪いを回避・ブロックするもの、の意味があります。

結婚をする女性に対して向けられる ”evil eye”(邪視)からの妬みの視線は女性に子供が授からない呪いがかけられてあると信じられ、青いものを身につけることがその呪いを跳ね返すと言われてきました。
Evil eyeという概念は古代ギリシャまで遡り、今でも地中海や中東を旅すると、魔よけとなる目が描かれた青いガラスや陶器のお守りを目にしますね(写真はmiddleeasteye.netからお借りしました)。

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このような魔よけの意味がある something blueなのですが、皮肉なことに妬んでいて怨み言を歌う、呪いを送る側の女性が口にしています。

英語の Blue は色々な意味があり、一般的には寂しさや気分の落ち込み、不幸せやメランコリックな心情を表す暗い言葉です。彼女は自分のブルーな心が、大好きな彼と結婚するであろう誰かが身にまとう something blue なのだ、と歌ったのでしょうか。それとも自分の怨み言などはsomething blueを身につけた女性には負けてしまう、そんな嘆きでしょうか。

幸せじゃない女のブルー

幸せな something blue ではないならば、どんな blue が彼女の中にはあったのでしょう。あてはまるような blueを使った慣用句を見てみます

True blue は忠誠心・貞節を意味する言葉です。I am a true-blue fan of the ALFEE (アルフィーの真のファン)という風に対象に揺るぎなき忠誠を誓う人物の意味です。優しい遊び人の男につくし、信じてついてきた彼女を表すようですね。

Black and blueで打ちのめされて痣ができる様で、I am black and blue は身体だけでなく、心理的に打ちのめされている、の意味もあります。
彼に弄ばれた・自分は選ばれなかった・もう一人女性がいた、という恐ろしい形での別れで心を殴られ傷ついた彼女を表現するのにぴったりです。

Blue in the face は 無駄なこと・成功しないことを長時間続けて疲れ果てる という意味があります。彼女の実らない恋は“無駄なこと”であり薄々わかっていながらも諦められなかった彼女は She tried until she was blue in the face(どんなに頑張っても報われなかった) ですね。

最後に、もう一人の女性は彼のお気に入り blue-eyed girl だった、というblueはどうでしょう。Blue-eyed というと“青い目の“という形容詞ですが、イギリスの慣用句では “お気に入りの・贔屓にされている” という、使う側の妬ましい心が見える表現です。アメリカで耳にすることはほぼないのは、ちょっと人種差別的だからでしょうか。

この曲中の彼女に絡むblueは掘り下げるとこんなに色々ありますが、彼女の状況・胸中への想像が広がる something はブルー以外にはないな、と思うと高見沢さんの感性にまたまた惚れ惚れします。

Something Blue ひとり 女の怨み言 散らかした夢 集めながら
オンナのウ・ラ・ミ・ゴ・ト

彼女が集めている 散らかした夢 というのは彼と結婚する・幸せな未来のことだったのかもしれません。
自分が身につけたかった  something blue  は裏切り・失恋という傷の青に姿を変え、ウラミゴトの形として残るのに、真のsomething blueは誰かが幸せの日にまとっている・・・そんなストーリーだとしたら、まだ若干26歳の高見沢さんが描写する女心は憎いほど粋ではないですか。

41年前の高見沢さんがポップに歌い上げる切ない ”Something Blue” は未熟さが感じられながらもちょっと澄んだ青空が覗くような、若々しく青い声が響く名曲です。

シマフィー 



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