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環境に作られた悪魔

“インターネットはなるべく見ないようにしている、ネガティブなことを見ると傷つくし落ち込むから”―――—そんな風にラジオで心の内を語っていたのは高見沢さんでした。有名人だから・顔が知れてるから、そんな理由で誤解されたり批判されたり、噂されたり悪い様に言われたり・・・それが誰でも可哀想だと心から思います。有名人だからこそ“見ない”という選択しかないことも苦しいことです。

もう何年も前ですが我が校で初めてのネットいじめ(英語ではcyberbullyingと言います)が発覚し、子供たちによる陰湿な書き込みを目にした私たち大人はただ驚くばかりで言葉もありませんでした(*アメリカの高校で教師をしています)。つらつらと流れるように書かれているチャットを見ると5、6人の生徒が1人をいじめているのがはっきりと見て取れます。汚い言葉を使ったり、悪意のあるあだ名をつけたり、その子供の発言や行動、容姿や服装をあざ笑う様子が文字になったものを印刷されて手に取ると、まるで自分がいじめられているような気分になるほど恐ろしいものでした。
また、そんな誹謗の言葉をわざわざ文字にし、リターンキーを押し、反応を待つ、という行動をとる人間が実際に存在することを見せつけられ、わかってはいても信じられないと同時に深く傷つきました。

発覚した理由はいじめられていた子供が転校した後もオンラインのいじめが続き、それを相談した新しい学校のカウンセラーがうちのカウンセラーに連絡をしたことです。
うちの学校にいた間は誰も気づかないほど普通に、仲の良い様子を見せ、まるで別人のような言葉を文字にして送っていたとは当時の担任も知りませんでした。
大人がいないところでは顔を合わせている時もあんなに汚い罵りの言葉を吐いていてのでしょうか。
それともネットと実生活は完全に分けていたのでしょうか。
後者の様な気がします。顔が見えないと攻撃性が増しても実感がわかず、周囲が自分の言葉によって“引いて”行く様子が見えないのでエスカレートしていたのだと想像します。”引かない”人間ばかりの環境にいるとそれが普通になるのでしょう。

関わった子供たちは皆中等部の8年生で、わたしの知る生徒は一人もいませんでしたが、小さな学校ですから名前や顔はもちろんわかります。
チャットは匿名でしたが、一人一人を特定し、そのチャットルームにいた子供たちは発言内容の大小に関わらず、即刻全員退学になりました(私立です)。

それから何年も経ちますが、退学になった子供のうち、まだ実生活でもネット上でも何人の人間が他人を蔑んだ発言をしているのか気になります。
人間は環境に染まり、適応するのが早い動物で、しかも現代には個人の生活の中にいろいろなサークルがあるため、その一つ一つの環境によってそこに合う“自分”を作り上げます。
その一つの環境が劣悪なものだったら、まだ暴言を吐き、裏でこそこそと悪口を言い、匿名をいいことに噂をばら撒いている・・・わからないからいいだろう、と思うことこそが悪であることがわからないまま生きているのか、気になります。

SNSの発達でかつては半径の小さい暮らしをしていた私たちも、遠くにまで情報を発信することができ、さらには自分の知らないところで情報が形を変え拡散される世の中に住むことになり、“環境”は自分たちで賢く選ばないと心身に悪影響がでます。

チャットで誹謗中傷をしていることが普通になると、それが自分だとバレなくても、自身の心身の発達に悪影響だという事実をきちんと教えてから退学にすれば良かったのではないだろうか、と今は思います。

汚い言葉を使い、人を貶めようとする、あざ笑う、そんな人間が自分の“環境”にいるというのは普通ではなく、そこに留まってはいけない、ということを伝えてから新しい環境に送り出せばよかった、と残念な気持ちです。

“発言の自由”を盾に自分が思うことは何でも言っていい、と主張する人間が実生活で(ネットではなく)顔を出して他人に差別的なことを叫んだり、いわれもない罵倒をするニュースが流れ、そんな人の顔を見るたびに、言葉を読むたびに、この人は悪い環境から出るという選択をせずその環境の一部になってしまったのか、と恐ろしくもなります。

ちょっと考えれば誰かを批判したり、傷つけたりする自由や権利は誰にもないことはわかるのに、それを良いと認める環境に留まる人間には、絶対に関わってはいけない。

他人を誹謗する言葉を口にして平気な・喜びを感じる悪魔とは、どんな環境にいても関わってはいけない。そんな環境を出る選択がみんなにある。

こんな基本的なことを教えないと、わかってもらわないと、どこに行ってもあのいじめっ子たちはどんどんと環境に形を変えられてもう元に戻れないまま大人になってしまう、そんな不安をいまだに感じています。

匿名で自分に直接関係もない誰かを辛辣に批判し、攻撃するコメントを見る度に、この悪魔もまだこの“環境”を出る選択肢があることを理解して、自分の本質が完全に支配される前によりよい環境に移動してほしいと願うばかりです。

シマフィー

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