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行けなかった日本への修学旅行

2020年の2月、私は同僚2人と生徒22人を連れて日本へ修学旅行へ行くはずだった(*アメリカ東の私立校で教師をしています)。

旅行が決まった10月から、生徒たちと一緒に放課後集まって簡単な日本語や文化、食事のマナーや訪問先などの課外レッスンを続けてきた。生徒たちはみなそれぞれに楽しみにしていることがあり、またみんなそろってワクワクしていることもあった。顔を合わせれば日本の話になり、話せば話すほど期待が膨らむ。

計画を立てる前に生徒たちにどんなことをしたいのかを打診するのだが、彼らが口を揃えてお願いしたのはふたつ。

1つ目は日本の飛行機に乗ること。

2つ目は鹿児島の桜島で噴火を見ること。そして温泉に入る!

まだ17歳の彼等の言い分は、”日本の航空会社はサービスが段違いに素晴らしく機内食もバラエティに富み、アイスクリームが食べ放題?で日本のお菓子がおやつに出る?らしいので日系の飛行機で行きたい!14時間も乗るのだから快適で楽しそうな日本の飛行機で行きたい!” だった。

それには私も大賛成だ。実は前回の日本修学旅行は数百ドルを浮かすために遠回りして非日系の飛行機にしてしまった。その時の生徒に恨めしそうに言われたのが ”何でJALにしなかったの?”(笑)。なので今回は直行便で快適空な旅にしたい! 

2つ目の桜島もお安い御用だ。私の両親はもう30年以上も鹿児島に住んでおり、私にとっては地元同然なので、街の様子やホテルや交通の便も馴染みがある。さらには7年前の修学旅行でも桜島に宿泊しトレッキングをしたのだ。

シャベルを持って海岸の砂を掘り、みんなで足湯を作り、活火山と生きる人々の歴史と生活を聞いた。火山の造りや過去の大噴火に驚き、地元民にとっては日常であり厄介者でしかない火山灰を丁寧に集めて持ち帰った子もいた。ここでしか体験できない貴重な時間だった。

宿では初めての温泉に入ることを躊躇した生徒もいたけれど、結局は全員お湯に浸かり、浴衣を来て美味しいご飯を食べ、夜中まで恋バナとトランプで盛り上がった。アメリカ人の生徒も修学旅行では恋バナをするのだ、とちょっと可笑しかったのを覚えている。この日桜島は噴火しなかったけれど、それでいい。

日本で美味しいものを食べて、歴史を学び、文化に触れ、言葉を交わし、ここでしか出来ない体験をして、たくさん歩いて素敵な思い出を作ろう!訪れる土地土地の名物や名所を調べ、工芸や美術を学び宗教や文化体験をするのが生徒たちは楽しみでしかたなかった。

東京から出発し西へ向かい、京都や奈良などを巡ったのち姫路城や広島、博多、長崎、鹿児島と二週間半の長い日程も短く感じられるほどぎゅうぎゅうなスケジュールを組んでいたが、私を含めみんなが日本の素敵な所をたくさん見よう!と張り切っていた。旅行までの数ヶ月間、使えるフレーズや地下鉄の路線や持ち物リストや両替の場所なんかをみんなで力を合わせて調べ、私たちはもうこれ以上の準備は出来ない!と満足感でいっぱいだった。それが2020年、1月半ばのこと。

同じ頃から伝染病のニュースが聞こえるようになり、2月になる頃にはアジアへの旅行は大丈夫だろうか、という雰囲気になっていた。学校や父兄からも取りやめにした方がいいかもしれない、と言われたが、日本は医療機関も公衆衛生もトップクラスに素晴らしいし心配はないのでは、との意見がほとんどだった。

私たちは予定通り、2月末の出発前日にパンパンに詰まったバックパックを持って教室に集まった。

前日に荷物を持ち込むのは教師による荷物検査があるからだ。万が一違法なものが混入して入国できなかったり逮捕されたりするのを防ぐためにどの地域に旅行に行くグループ(我が校では4−5か国に別れて修学旅行がある)も検査しなければならない。

パスポートもこの日に預かり、航空券と一緒に管理する。

朝8時半、生徒のパスポートを集めて回っている時に校長先生が入ってきた。それまでガヤガヤしていた生徒たちが一瞬で黙り、校長先生の口からどんな言葉が出てくるのかを待ち構えた。

”日本行きの旅行は・・・中止です”

短くそう告げた校長先生に、生徒たちは絶句した。みんな理由は分かりきっていたので聞かなかった。ひょっとしたらキャンセルになるかもしれない、そうも思っていた。それでもやっぱりショックでみんな押し黙った。校長も辛かったと思う。

校長が "Sorry, guys" と部屋を出て行ってから、17歳の子供22人と引率の3人は声も出さずさらさらと泣いた。誰も怒っていなかったし大声を出したり罵ったり足をバタバタさせたりもしなかった。ただ静かにみんなで泣いた。


あれから2年。まだ修学旅行には行けていない。来年は行けるのだろうか・・・それもまだ予想がつかない。

日本へ旅行に行くはずだった生徒たちはパンデミックの中、リモートで卒業式があり、静かに学校から去った。

出来ることなら彼等をみんな集めて一緒に日本へ行きたい。ずっと楽しみにしていた飛行機でアイスクリームを食べて、着物を着て、ゲームセンターで遊んで、神社でお祈りして、平和記念館に行って、川下りをして、たこ焼きを作って、恋バナで夜更かしさせてあげたい。桜島で足湯を掘って、火山灰を集めて、温泉に浸からせてあげたい。

現実にはみんなでは行けないだろうけど、状況が改善したら行って欲しいな、あの時行けなかった修学旅行。

シマフィー 

前回の日本修学旅行の様子はこちら


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