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”正しい英語”は誰の英語か

12年生の英文学の先生と話をする機会があった(*アメリカの私立高校で教師をしています)。留学生の2−3人が文学の授業をパス出来ないかもしれない、という内容で、その会話の中で聞き捨てならないことを言われた。

彼らは正しい英語を喋れないからな〜

もう何年も、何年も、我が校の職員や教師に言い続けているけれど、彼らは一向に考えを改めてくれない。

正しい英語、というものはない。発音でも文法でも、英語には色々と種類があり、これだけが正当で正解、というものはない。
シンガポールもインドもアイルランドも南アフリカもニュージーランドもフィリピンも、どれもがその国での“正しい英語”を話している。
それは英語が母国語でない人の英語も(例えば外国語訛りの英語)でも正しくないわけではない。
一般的に、例えばシアトルやロンドンでよく聞く発音や表現はあるけれど、それだけが正しいわけではなく、それは単に“一般的に使われている”というだけだ。

英語が“国際言語”として学ばれ、ビジネスや海外旅行、留学や研修など、英語力が必要になり、また英語力がないとどうしても出遅れる、という場面に出くわすこともあると思う。ご近所さんやお友達で日本語の会話が難しい人もいるかもしれない。

街には英会話教室がごまんとあり、高いお金を払ってレッスンに通い、語学留学をして頑張る人もたくさんいる。
ちまたには “ネイティブのような発音”を売りにしたりする先生もたくさんいるし、生徒もアメリカ人のように・イギリス人のようなアクセントで、喋りたいと頑張っている人もいるだろう。

私も留学していた時はそうだった。現地の人のように喋りたい、と必死に練習したり “発音がいいね〜本当に日本から来たの?” と言われると心の中で小躍りしていた。私にとっての“正しい英語” とは(意図していなかったが)中流以上の中西部あたりに住む白人の英語であり(それがスタンダードと誰かに教えられた)、決して有色人種や南部のそれではなかった。普段使いの語彙も、スラングも、表現も、イントネーションも、白人の英語だった。

だけどそれはアメリカ国内で使われる英語の一部でしかない。標準語、といえばそうなのかもしれない、アメリカどこでもニュースとかで聞く英語は似たような英語になる。しかしシカゴのダウンタウンの電気屋で、アラバマ州のダイナーで、サンディエゴのカフェで、ニューメキシコ州の学校での“標準英語”ではない。

私は英語教育学(TESOL)の修士を取るために大学院に戻った時、音声学の教授に言われた言葉を今も心の中でよく反芻する。

発音記号というのは正解の音を表すものではない。聞こえた音を表記するための単なる記号であり、たとえ誰かの発音があなたのもの、もしくは一般的なアメリカ発音とは違っていても、“あいつの発音は正しくない”と決めつけるべきではない。世界には数多くの正しい英語と発音が存在する。

それまでに色々な国で何年も英語を教えてきたが、私は生徒たちの発音矯正に熱心に取り組んでいた。Sの音、THやR、OUやらAU・・・細かに直していた。なるべく“正しい英語”(と思っていた)に近づけたかったからだ。
正直言うと別にTHの音がちょっと違っても話の流れやストレス(強弱)から何の単語を使ったのかは大抵理解できる。もちろん音が一つ違うだけで異なる意味になる単語もあるから注意は必要だけれど、極端な話、もしあなたがアイスクリームの話をしていて コーン(cone) をcorn(トウモロコシ)と発音しても、誰も あぁこの人はトウモロコシにアイスを乗せて食べたのだ、とは話の流れからは思わない。CornじゃなくてConeだよ、と言われるかもしれないけど、それだけだ。Inteれsting、と日本のRの音で interesting と言っても、誰もそれが新語だとは思わない。そんな小さなことでコミュニケーションは止まらない。

我が校には世界中から留学生が来ている。中国、日本、サウジアラビア、ドイツ、スペイン、チリ、メキシコ、ロシア、ニュージーランド、アイルランド・・・そのどの子供も彼らなりのアクセントで発音・表現で英語を使っている。
聞き取りづらい訛りももちろんあるし、わかりづらい表現もある。
その時は聞き返せばいいし、彼らは違う単語や身振りやスペルなんかを使ってわかってもらおうとする。
私にとっては母国語がヒンディー語やアラビア語の生徒が使う英語の発音は聞き取りにくい。音の強弱(ストレス)が違うから、音の出し方(スペルに対応する)が違うから、など色んな理由で難しいのだけれど、私にとっては“正統派”であろうイギリス英語(それにも色々ある)もオーストラリア英語も難しいのでアラビア風発音が悪いわけではない。自分がアメリカの白人の音に慣れているだけの話だ。

冒頭の文学の先生に聞いた、”正しい英語とは誰の英語ですか?”

彼の答えは、”Our English! 私たちの英語”だった。

ちなみにネイティブのアメリカ人でも文法の間違いはしょっちゅうだし発音の間違いだって多い(”正しい”とされる英語を基準にして)。そしてこの先生の Our の発音はRがほぼ聞こえない、a-wa のような音だった。

聞き慣れないアクセントや発音で、“英語が喋れない”と判断されると彼のような人たちに差別されたり、評価が低くなったりすることもあるので、英語学習者はなるべく”ネイティブ”に近い話し方をマスターしたいのだろうと思うが、それだけが正しいと思っては絶対にいけない。
更には何を話しているか理解できるのに“ネイティブ発音じゃないから正しくないよ”と言う先生はにはもう習わなくて良い。もっと良い先生はたくさんいる。

住む土地や仕事環境、語学学習の目的、などでどんな英語が”一般的”なのかは変わるので、イギリスやアメリカの白人英語だけが正しくて、それ以外は“邪道”だと思ってはいけない。
言語習得(ここでは話すスキル)はコミュニケーションを取るためであってネイティブみたいな発音をマスターすることではない。
自分の伝えたいことをわかってもらっているか、相手の言うことがわかっているかをあらゆる手段を使って確認し、次に進めるのが“いいコミュニケーション”だ。
相手が自分の英語を理解できないのは自分の発音のせいだけではなく、もっと他に要因がある(相手含め)。そこをきちんと指摘してくれる先生を選んで欲しい。


発音が上手にならない、ネイティブみたいに話せない、と悩んでいる生徒さんはどうか誰かが決めた正しい音に囚われずどんどんコミュニケーションをとって欲しい。
ゴールを“ネイティブみたいに話す”ではなく“コミュニケーション上手になる”にシフトしすると英語がもっともっと楽しくなるよ。

シマフィー 

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