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"先生、ご飯食べたの?"

毎日思うのだが、私の生徒たちは本当に優しい子が多い。(*アメリカの私立校で教えています)

自分勝手なイメージかもしれないが、10代の子供達はもっと自己中心的な人間だと思っていた。まぁ、自分勝手な部分もたくさんあるし、多方面から物事を捉えるスキルがない子供もいるけれども、どの子も優しい言葉を自然に口にするように思う。

”先生、ご飯食べたの?”

毎日そう尋ねてくる男の子がいた。授業の関係で毎日のランチ時間が変わるので、6時間目だったり8時間目だったりと日によってご飯を食べる時間が1−2時間ずれる。そして採点していたり、面談や会議があると、ご飯を食べる時間がなくなったりもしていた頃の生徒だ。

そんな私のランチ事情を知ってか知らずか、自分のランチを終えると私の教室までやってきて ”先生、ご飯食べたの Have you eaten yet?” と聞きに来る。

”食べたよ thank you” と笑うと、”OK!”  と走って出て行く。

"まだよ、あと1時間したらね” や ”あ〜食べ損ねたかな” と答えると、自分のバックパックからサッと何かを差し出す。給食のバナナだったり、デザートに出たクッキーだったり、紙ナプキンに包まれたロールパンだったり、を差し出して ”はい!これ食べて!” と押し付けて教室を出て行く。

大抵はカフェテリアで手に入るものなので、自分が後で食べようととっておいたものだと思う。なんせ食べ盛りだし、体も大きいし、放課後はラクロスやバスケットの練習もあるので、ランチの時に余分に貰ったのをバッグに入れているのだろう。

そしてそれをまだ食べていない私に、お腹が減っているだろう と察して差し出してくれる。なんて優しいのだろう。

ランチを食べていなくても、時間がずれこんで後になったとしても、短時間お腹が空いている状況は特に苦しいものではない。それでも彼は必ず私がご飯を食べているのかを確認しに来ていた。

その行動は15歳にしてはずいぶん大人びて、誰かのことを心から思いやっている、純粋に優しいものだった。失礼だが見てくれは典型的なイマドキの高校生で、教師や親を敬う態度を素直に見せるようなタイプには見えない。だけど彼は優しさを惜しげも無く差し出すことを”普通”だと思っていた子供だった。

ひょっとしたら朝ごはんを食べず授業していた私のお腹がぐーぐーなっているのを聞いていたのかもしれない。お腹が空いていると不機嫌になると思っていたのかもしれない。それとも心から空腹の先生がかわいそうだと思っていたのかもしれない。

彼は近所の野良犬や野良猫にもエサをあげに行っているのだろうな。

パンクして困っている誰かを見ると自分の約束に遅れても、タイヤを交換してあげるのだろうな。

スーパーで1人で買い物している老人を見かけると、カートを押してあげるのだろうな。

貰ったバナナや、クッキーや、一切れのパンの感触を思い出すと同時に、彼のニコニコ顔が懐かしくなる。そして、彼がどんな風に誰かに優しくしているのか簡単に想像がつき、こちらの心も暖かくなる。


シマフィー 

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