仕事辞典をつくりたい――「隣の公務員」編集長 橋本貴子さん(前編)
《自称「普通の公務員」によるWebメディア》
そんなふうに名乗り、公務員志望者や現役公務員に特化した情報を発信しているメディアがあります。
それが「隣の公務員」。
しかも、ライターも皆さん現役の公務員。実は、私もこのたびこの「隣の公務員」にライターとして参加させていただくことになりました。
そこで「編集長! ちょっとお話聴かせてください!」と初仕事(ボランティアだけど)としてインタビューさせていただくことにしました。
※本記事は、「隣の公務員」との同時掲載記事となります。
《インタビュイー》
橋本貴子(はしもと・たかこ)さん
1989年生まれ。大阪生まれ大阪育ち。
大阪府入職後、土木事務所、医療対策課、市町村課を経て2021年4月からスマートシティ戦略部戦略企画課でスマートシティを担当。
Webメディア 隣の公務員 編集長。
国家資格キャリアコンサルタント。
◆最初は会計士になろうと思ったけど
―― 本日は、Webメディア「隣の公務員」の編集長 橋本貴子さんにインタビューをさせていただきます。よろしくお願いします。
橋本さん:よろしくお願いします。
―― 早速ですが、普段はどんなお仕事をされているんですか。
橋本さん:スマートシティの担当をしています。大阪府をスマートシティにするために、何をやればよいかというスマートシティ戦略を考えたり、データ流通基盤を構築するような取り組みをしています。
―― それって府庁の中でも花形の部署なのでは?
橋本さん:そうですね、そうかもしれません。私自身は大したことないんですけど、すごい上司や先輩がたくさんいるんです。上司は超人だし、先輩は魔法使いだし。本当にすごい方々の中で、一人ワタワタしています。
―― 以前はどんな部署にいらっしゃったんですか。
橋本さん:土木事務所の管理グループというところで草を刈ったり、道路の穴を埋めたり、亡くなった猫ちゃんの処理をしたりしていました。苦情処理を主な仕事とするグループだったので、結構辛かったですね。
そのあとは本庁の医療対策課救急医療グループや、市町村課といって府内の市町村とやり取りする部署にいました。市町村課が一番長くて、今年の4月に今の部署に異動になりました。
―― 元々、どうして公務員になろうと思ったんですか?
橋本さん:実は、元々は会計士になろうと思って学生時代に勉強していたんです。短答式(会計士試験の一部)は合格したんですけど、論文(二次試験)の方は合格できなくて、大学卒業後も実家から専門学校に通って勉強していました。
当時はバイトもせず収入がなくて、あるとき貯金が残り2万7千円しかないことに気付いたんです。毎日専門学校で勉強するのにも昼食と夕食を食べたりしていたので、月に3万円は必要で。「これはやばい、稼がなきゃ」って思ったんですよね。
―― 食べるにも困るような状況ですね。
橋本さん:そんなときに、通っていた専門学校に公務員コースもあったのでポスターが貼ってあったんですよね。大阪府の職員募集のポスターでした。ちょうど橋下知事に変わって試験がガラッと変わり、教養試験が不要になったときです。だから面接と論文だけで受験できるようになっていたので、受けてみることにしたんです。
―― 会計士を目指していたのに、公務員に切り替えた?
橋本さん:最初は「稼がなきゃ」と思ってなった公務員でしたが、仕事が意外に面白くて。特に短期間で異動を繰り返してその都度新しい仕事ができるのは、飽きっぽい私にピッタリだなと思いました。それで結局会計士を目指すのはやめて、そのまま公務員になることを選びました。
◆私は「仕事辞典を作りたい」
―― そんな経緯があったんですね。そうやって公務員になった橋本さんが、「隣の公務員」をどのような経緯で立ち上げることになったのですか。
橋本さん:それまでずっと忙しい部署にいたんですけど、市町村課に異動して初めてほぼ定時で帰れるようになったんです。それで、私のキャリアこれでよかったかな? と迷い始めて。
それで、自主研でも参加するかと思って、インターネットも探したんですけど、全然自主研の情報がなくて。そんなとき、公務員キャリアデザインスタジオをされていた島田さんにたどり着いたんです。
―― そうでしたね。メールでご連絡をいただいたのをよく憶えています。
橋本さん:島田さんが神戸に来てくださったときにランチ会をしたじゃないですか。あのときに姫路市の金治諒子さん、当時明石市に勤めていた岡本幸将さんと出会って「関西って自主研少ないよね」という話になり、3人で新しく自主研を立ち上げることにしたんです。そのときに横浜から来ていた深谷さんによんなな会※を紹介していただいて。こんな世界があるんだってびっくりしました。
※47都道府県の地方公務員と中央省庁で働く官僚をつなげることで、日本全体を有機的につなげることを目的とした会。
ただ、それぞれのライフステージのこともあり、私自身も結婚・出産の時期と重なったこともあって、そのグループではあまり活動はできませんでした。
―― ライフステージによっては、どうしても活動しにくい時期がありますよね。
橋本さん:そうなんですよね。それでよんなな会in関西の直前に、久しぶりにzoomで3人集まって話し合って、「どうする? 解散する?」という話が出て。で、その流れで、金治さんが「私は、書くことならできる。」とおっしゃったんですね。
そして、「橋本さんは何かやりたいことはない?」ときいてくれて、私は「仕事辞典を作りたい」って言ったんです。
―― 仕事辞典?
橋本さん:はい。公務員の仕事の実際がわかる辞典が欲しいなと。私自身が仕事辞典を欲しいなと思った場面は3回ほどありました。1回目は入庁前。エントリシートを書こうにも、公務員の人たちが具体的にどんな仕事をしているのか全然わからなくて困りました。
2回目は土木事務所での苦情対応のとき。自分の部署の仕事でないことはわかるんだけれど、「じゃあ、どこに聞いたらいいねん?!」というお怒りの電話に答えることができなくて。
3回目はキャリアコンサルティングを学んだとき。神戸大・金井先生の『働く人のためのキャリアデザイン』の中で、入社前に現実を知っている人の方が入社後のショックが少なく、離職しにくいという話を読んで、やっぱり仕事辞典、いるよな、と。
しかも、公務員の人自身が書くことで、自らのキャリアの振り返り、棚卸にもなるなと思いました。読む人にとっては職業理解の手がかり、書く人にとっては、キャリアの振り返りになるなと。
そこで、新しくWEBメディアを立ち上げようということになったんです。
―― それがもしかして。
橋本さん:はい、今の「隣の公務員」です。ちょうどそのとき「よんなな会 in 関西」というイベントが予定されていたので、「そこでメディアの構想を発表し協力者も募ろう!」ということまで勢いで決まりました。
―― すごい勢いですね。
橋本さん:私もちょうど酷いつわりの期間が明けて、「よっしゃ~! 仕事も家事も業務外の活動もやったるで~!」と妙なハイテンションになっていたので、その勢いに乗っちゃいました。妊娠7ヶ月くらいのときですね。
◆公務員の素の姿を書いてもらいたい
―― そうしてはじまった「隣の公務員」ですが、「「普通の公務員です」というあなたのためのメディア」という言葉が印象的です。
橋本さん:メディアの紹介ページの言葉ですね。
―― そうです。この「普通の」っていうのはどんな意図があるんですか。
橋本さん:するどいですね~。なんでしょうね。島田さんはお嫌いかもしれないけど「スーパー公務員」とか、メディアなどで目立っている有名な公務員の人たちっているじゃないですか。
そういう人たちのことはホルグ(活躍している公務員や公務員向けの情報等を発信するWebメディア※筆者注)にお任せすればいいと思っているんですね。
そういう人たちを見て「私はあの人たちみたいにすごい実績とかあるわけじゃないし」「そんな私が何かを書いて発信していいのだろうか」そんなふうに思っている公務員の人たちにこそ、公務員の素の姿、実際の仕事のことを書いてもらいたいなと思ったんです。
そこで、「普通の公務員」という言葉を選びました。
―― そういう意図があるんですね。一方で、「普通の」公務員が、素の姿や日々の仕事について書くことと、コンテンツとしての面白さというのはどうやって両立しているのですか。
橋本さん:記事の内容はライターさんたちにお任せしているので、編集長として何か方針を打ち出して、それによって記事の質や方向性を担保しているわけではありません。
ただ、編集部のライターさんたちとの会合が時々あるので、その時にミッション/ビジョン/バリューなどはお示ししています。ライターの皆さんが意識されているかはわかりませんが。
また、ライターさんは登録制で、お申込みいただき私が確認して実際に登録していただく流れなのですが、現状では実際に私と面識がある方やSNSなどで知り合っている人がライターになってくださっています。そのため、私の考え方などをある程度理解してくださっていたり、共感してくださっているのかもしれません。
―― どういう人たちがライターを務めているんですか。
橋本さん:メディアのコンセプトとしては「普通の公務員」が書くことになっているのですが、実際のところは、全く平凡な公務員の人たちというより、SNSでも職場でもある程度存在感を発揮しているような人が「書きたい」と言って集まってくださっている気がします。
>>「私、ずっとキャリア迷子なんです――「隣の公務員」編集長 橋本貴子さん(後編)」に続く
★ご案内★
おかげさまで2021年2月に初の著書を出させていただきました!
主に若手公務員を対象に「公務員が充実した気持ちでイキイキと働くことが、住民の幸せにつながる」という信念のもと、「自分の人生のハンドルは自分の手で握ろう」というメッセージを込めて書かせていただきました。
そのあたりのことは、こちらの記事でもお伝えしています。
よろしければお手に取っていただけたら嬉しいです。
また拙著に関連する記事はこちらのマガジンにまとめて掲載していますので、併せてご覧ください。
★連絡先★
原稿の執筆や勉強会の講師、仕事や働き方のお悩み相談(キャリアカウンセリング)等のご相談・ご依頼については、下記のフォームからご連絡ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?