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外で活躍している職員に庁内でどこまで専門性を発揮してもらうか


日頃、noteで記事を書きながら、その記事をFacebookやTwitterで発信しているのですが、最近、逆(?)に「#noteの種」としてSNSでテーマに関する私の考え方そのテーマに関する「問い」を投げかけてnoteを書く際の材料を集めたりしています。

今日のこのテーマは、noteの記事を発信するときの何倍もの反響をいただいた「#noteの種」なので、かえってnoteに書き起こすプレッシャーが……汗

#noteの種としてFacebookで投稿した際に、コメントをくださった皆様、本当にありがとうございます。
この投稿のコメント欄を読むだけでも面白いです。皆さん本当にいろいろと考えてらっしゃることが分かります。理想とのギャップや難しさ・複雑さも、簡単には整理できないんだな~と。


○「#noteの種」の投稿文(Facebook)
庁内に高いスキルを持つ職員がいて、中にはその分野で書籍まで出しているような人がいる自治体がありますよね。
広報でもコーチングでもファシリテーションでも会計でもプロモーションでもマーケティングでも。
その当事者であるスキルを持つ職員は、他の団体で研修講師を務めたり外部委員を務めたりすることがありますが、そのスキルを庁内で発揮してもらうために必要な部署に配置したり、専門職員としての立場を設けたりすることは珍しい気がします。
本来ならそのスキルを存分に発揮してもらうように庁内で工夫してもよさそうなのに、なぜか既存の組織や人事のあり方が優先することで「実を取る」のではなく「形式を取る」ように見えるんですよね。
皆さんは如何お考えですか?


何故組織は、職員の専門的なスキルを有効活用しないの?

これがこの記事を書こうと思った私の問いです。
この問いに他の人と共有するために背景や現状について書き加えたのが#noteの種の投稿文です。

対象とする「専門的なスキル」は定義が難しいのですが、ここでは以下の2点を備えるスキルや知識と考えてみます。

①地方公務員が業務で用いる技術・知識等(可能性も含めて)
②得意なだけではなく他者に指導できるレベルのもの

①は、中身のこと。
地方公務員の業務と関係なければ組織の中で活用しようがないのでこの表現にしました。悩ましいのは楽器演奏など、イベントなどで業務上頼りたいケースはあるけれど内容・頻度の両面で「業務で用いるもの」に含めにくいスキル。この記事では排除しませんが、組織の中での活用にはハードルは高そうです。
また、文字数の関係でスキルと表記しますが、技術・知識・人脈等総合的な「実行・実現する能力」のことを対象としています。

②は、レベルのこと。
単に得意なくらいであれば、組織が有効活用できないことを「もったいない」とは思いませんが、他の団体がお金を出して講師を依頼したり委員を依頼するようなレベルなら、その本人が所属する団体がそのスキルを有効に活用しているか否かは、そのあるべき形について議論してもいいレベルではないでしょうか。


どんなところに問題意識があるの?

感覚的に言えば、専門的なスキル(技術・知識・人脈等)を持つ職員がいても、そのスキルを有効に活用できていないように見えるのが「もったいないな」ということ。

例えば、

キャリアコンサルタントの資格を有して関連書籍も執筆し、外部でも研修講師などを務める職員がいるのに、外部の研修会社に30万円払ってキャリアデザイン研修を調達している

こういう現象は、キャリアコンサルタントに限りませんし、資格ホルダーだけの話ではありません。もちろん研修講師云々だけでもありません。

会計、法務、デザイン、公民連携、ファシリテーション、プログラミング、もう少し汎用性の高いスキルでは英語やエクセル、手話なども程度の差こそあれ庁内に高いレベルで身に付けている職員がいたりします。

でも、そのスキルを組織が頼りにしているようには見えないので「もったいないな~」と感じるのです。
外注するコストの削減だけのことではなく、そういう職員の専門性を活用することは組織内にも職員本人にもプラスの効用がある気がするのです。


組織にとっての効用

組織にとっての、職員の専門性を活用する効用はパッと思いつくだけでもこのような点が挙げられます。

①勉強以上外注未満の課題の解決
②学ぶ文化の浸透
③職員の離職の防止

①は、発注・契約事務により外注するほどでもないけど、担当部署が自ら勉強したり調査して確かめるのはちょっとシンドイというような課題も職員の専門性を活用することで解決できる、といった場合です。例えば、チラシのデザインやワークショップの設計などは、この効用が大きいでしょう。
30万円でキャリアデザイン研修を外注する必要がなくなることによるコストの削減もこれにあたります。但し、職員が担う場合のコストには注意が必要です。

②は、自学や業務の経験により磨いた専門性を組織が活用してくれるなら、職員が自ら学び、専門性を身につけるモチベーションが高まります。毎日大過なく業務をこなせばいいと考える職員が減り、業務内外で積極的に自分を磨こうとする職員が増えるかもしれません。

③は、自分の専門性を仕事の中で発揮できる場面が増えることで仕事へのモチベーションが高まるとともに、専門性をもつ職員が離職するのを防ぐことにつながるというものです。そういう実力をもつ職員の離職は、多くの場合組織にとって損失ですが、組織内で自分の専門性を活かすことができれば思い留まる人もいるでしょう。


職員にとっての効用

職員にとっての効用ももちろんあります。

①実践の場が得られる
②仕事へのモチベーションが高まる
③キャリア自律が実現できる

①は、一定の専門性のあるスキルの維持に必要な実践の場が得られるということ。英会話も一時的に勉強してスコアを上げても、それを使い続けないとレベルを維持できません。スキルを有する人にとって、それを実践できる場は報酬的な性格もあるのです。

②は、自分が好きで学び身に付けたことを組織から求められ、発揮できることで自己実現欲求が満たされ、仕事に対して前向きに取り組めるという意味です。難しいことは抜きにしても、きっと楽しいですよね。

③は、仕事での専門性の発揮によりスキルの維持・向上、そして一定の実績を積むことができれば組織に頼らず生きていく力が育まれます。それは組織に対して「辞めさせないでください」という姿勢から「今は自分の意志でここで働くことを選んでいる」という自律した職員への転換につながります。
また、転職や独立は考えていなくても、人生100年時代ですから定年退職後も10年~20年ほど働くことを考えれば、人間関係なども含めた広義のスキルや個人としての信用(=無形資産)を築くことができるのは大きなメリットです。


どうして活用されていないの?

職員の専門性が有効に活用されていないとしたら、それは何が原因なのでしょうか。私は大きく3つの原因を挙げたいと思います。

①評価の難しさ
②存在の不確かさ
③既存の制度との不整合

①は、その職員が本当に組織として頼るに値するほどのスキルや知識を持っているのかどうか、評価し組織として判断するのが難しいということ。
もし組織がその職員の専門性を有効に活用しようとしたとして、その職員の専門性が組織が求めるレベルにあるのか、どうやって確かめるのでしょう
当事者である職員にとっても、どの程度のスキルや知識が求められるのか分からなければ「私ならできます!」と手を挙げることもできません。

②は、そもそも専門性を有する職員を組織的に把握していないということ。自己申告書などで人事に伝える仕組みがある役所もあるようですが、そもそも職員の専門性を活用する仕組みがない中で、伝えた資格等の情報がどのように使われているのでしょうか。
ちなみに私の勤めるさいたま市役所では、秋頃に提出(任意)する自己申告書に資格等を記入する欄がありますが、それをどのくらい活用しているのかは職員に知らされていません。

③は、現行の人事・労務関係の仕組みと整合しないということ。代表的なところでは、所属長にその職員の指示・命令・評価の権限が集中していることは、業務時間中に他の所属のための仕事をすることを困難にします
雇用の面では、組織がそのスキルを必要としなくなっても、その職員を解雇できないので、それなら最初から外部に頼るほうがいいのではないか、という考え方もあります。
また、その職員が自身の保有するスキルや知識を使って組織に貢献するとして、それは一人分の人工(にんく)として積みあがるのか。組織のニーズが0.5人分しかなかったら、その職員はどう働くのでしょうか。現在の制度では整理が難しそうです。(会計年度任用職員にすればいい?)


組織にとって不都合は側面も

こういう書き方をすると少し物騒ですが(笑)

やはり個人の職員が庁内で専門性を発揮するということには、組織として不都合な側面もありそうです。3つほど例示します。

①業務の属人化を防ぎたい
②あの穴を埋めてもらいたい
③自律し過ぎてほしくない

①は、きわめて実務的な話ですが、専門性を高めた職員が携わった仕事を後継者に引き継ごうとしたときに、後継者の専門性が十分ではないがために事業に支障が出るという事態を防ぎたいと組織は考えます。
どんなにいい事業でも、他の職員にも担当者が務まるように仕組みを整えるか、どんなレベルの職員が担当しても回るようなレベルに留めることが求められがちです。

②は、ある分野で高い専門性を有する職員は、その専門性と関係ない分野の業務もしっかり務められることが多いようで、大変な部署、重要な部署で活躍できる人を探していると、専門性を有する職員にもそういった部署に座ってもらわざるを得ないという人事の事情もあるようです。

③は、組織にとっての効用の「③職員の離職の防止」や個人にとっての効用の「③キャリア自律が実現できる」と表裏一体です。
職員がキャリア自律を実現するということは、組織としては職員の都合による離職を覚悟しなくてはなりません。やりがいのある仕事が離職の防止につながると同時に、いつ辞めても大丈夫な職員は心強いだけでなく、いつ辞められるか分からない不安要素でもあるのです。


本当に活用されていないの? ニーズはあるの?

これも実際のところ、組織によってまちまちだったりするようです。

冒頭でご紹介した#noteの種のFacebookの投稿では、山岳のスペシャリストとして勤め続ける警察官の方の例や、政令市でその道20年以上のスペシャリストとして霞が関からも助言を求められるような職員の例などもご紹介いただきました。
実は知らないだけで、専門性を高め、それを組織が有効に活用している事例は探せば見つかるのかもしれません。
とはいえ、それが例外的に見えることに、私は正直満足できません。

「あの人、この春から組織内ファシリテーターを務めるらしいよ」
「ふーん、そうなんだ。やりたがってたもんね」

こんな会話が当たり前にならないものかな、と思っています。

また、どんな専門性にどのくらいのニーズがあるのかも、その団体によって様々な事情がありそうです。


じゃあ、理想の姿があるとしたら?

理想の姿の本質は、働き方の解像度を高めることです。

仮説ですが、今多くの自治体で導入が進んでいる複線型人事をアレンジしたような形になるのではないでしょうか。(毒にも薬にもならないような無難な内容かもしれませんが)

①本人が希望し、組織と合意して実現する
②ゼロかイチかではなく部分的に専門職員になる
③雇用形式はメンバーシップ型とジョブ型を併用する
④その専門性を使った外部での兼業を認める

①は、そのままの意味です。異動希望を出すのと同じように本人から希望を申し立てて、組織と合意する形です。組織側が公募してもいいでしょうし、必要に応じて質の担保のために試験を課したり、定員によっては選考も必要かもしれません。

②は、週に40時間の標準勤務時間のうち何割かを既存の所属で一般の職員として勤め、残りの何割かを専門職員として勤めるという意味です。週5日のうち4日間を一般の職員、1日間は専門職員というスタイルが分かりやすいかもしれません。

③は、②を実現するうえで、一般の職員としての週の4日間はメンバーシップ型雇用、専門職員としての1日間はジョブ型雇用(委託契約/年俸制など)という組み合わせはあるのではないでしょうか。
保険とか年金とか、給与・労務関係に付随する諸制度の整理は、誰か詳しい人がいたらご教示ください。(雑でゴメンなさい)

④は、補足的な位置づけですが、組織で専門性を発揮することを支援するために、その専門性による外部での兼業を業務時間外に限り認めるという意味です。
一定期間後にその組織でその専門性を必要としなくなったとき、4日間は元の組織で一般の職員として勤めながら、残りの1日間は他の団体で引き続き専門性を発揮するという道も拓きやすくなります。組織として雇用の継続性を保障するという意味でも、大切な考え方かもしれません。


今、私にできること

私は組織のせいにして、組織が動くまで待つのは好きではないので、今自分にできることって何だろうと考えてみました。

①民間のタレントマネジメントの勉強
②全国の自治体の事例の調査
③庁内のスキルホルダーの見える化

正直、Facebookで#noteの種として投稿して皆さんの反響をいただくまで、もっと簡単な話題だと思っていたのですが……。

民間のタレントマネジメントも様々な素材があって勉強のしがいがありそう(タレントマネジメントって何よ!?から笑)ですし、#noteの種の投稿では自治体で専門性を有効に活用している事例も教えてもらいました。
また、スキルホルダーの可視化に挑戦しているというコメントもあって、これは自分の組織でもできそうだと勇気をもらいました。

個人でどこまでできるか分かりませんが、このテーマは自分の関心の領域のど真ん中なので、継続的に追いかけてみたいと思います。


最後に

いずれにしても、週40時間、一つの所属で一定の業務に就くか、独立または転職して専門性を発揮するかというゼロかイチかの選択ではなく、その両者の間をグラデーションで埋めるように、解像度を高めることが必要です。

これを単なる人事異動をつかさどる人事当局と、やりたい仕事ができない職員のギャップの問題に矮小化するのは本質的ではありません。

職員の専門性を活用するためには、必要な制度の構築や運用など、恐らく組織に大きな負荷をかけることになります。
しかし、今後多様化する行政課題に、より少ない職員で対応していくことを考えれば「現有戦力での最大効率」を追求する意味でも、採用時に他の業界や他の団体に競り負けないためにも、何も考えないわけにはいきません。

その立場から、今後職員の専門性を有効に活用して、組織がより小さな資源でより大きな効果を発揮できるようになるために考えるべきポイントはきっとこの3つ。

①組織は職員の雇用や働き方の解像度を高めること
②職員は定年後も見据えてキャリア自律を実現すること
③組織と個人が対等に向き合うこと

最後はグッと抽象度が高くなってしまいました。
とはいえ、今後は自治体でも個人のモチベーションや専門性といった、これまで人事が踏み込まなかった部分まで踏み込んでマネジメントすることが求められるでしょう。それを怠れば多様化する行政課題に、より少ない職員で対応していける組織に変化できません。

そういう意味では、個人の専門性を有効活用できる組織への転換は、その程度や時期の差こそあれ、どの自治体でも避けられない課題です。

皆さんはいかがお考えでしょうか?

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