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[百合小説]ふたりでおつまみ「いつものゴーヤとアロモ」#2


○あらすじ○
年の差カップル♡ミヤ×サクほっこり晩酌小説。全国のおいしいお酒をご紹介♪


坂道 さかみちさくらは、パートナーの梅原 うめはら美矢みや こと『みやちゃん』と二人暮らし。10歳年上のみやちゃんはお酒に詳しい。ふたりは美味しいおつまみと晩酌をするのが日課。この至福の時間があるから、一日がんばって働けるのである。

・・・・・

 ふたりでおつまみ

 2 いつものゴーヤとアロモ

 みやちゃんはゴーヤが好きだ。うちのゴーヤチャンプルーは、ゴーヤが売り場に並び始めるとはじまる。今年はすでに、四月の終わり頃から定期的にチャンプルーが食卓に並んでいる。
 チャンプルーはビールはもちろん、日本酒、白ワイン、なんでも合うから便利なおつまみだ。おつまみというより立派なおかずでもある。

「はい、じゃあ今日はここまで」
 わたくし、坂道さかみちさくらは定期的に専門学校へ来ています。と言っても、通っているわけではない。モーショングラフィックスを教えているんです。そう、仕事。
「先生〜、質問なんだけど」
「質問がありますでしょ。ゆうちゃん、先生にはちゃんと敬語でっ」
「さか先生ならいーじゃん」
「はいはい、なんでしょうか」
 ここの学生の仲良しコンビご登場。個性派ファッションの羽島はしまゆうと、小動物系の豊中とよなかさらさ。ユウ✖︎サラと私は勝手に呼んでいる。
「ここの動きがあまりしっくりこなくてさ」
「羽島さんはどんな感じにしたかった?」
「もう少し後ろに入り込んでいくというか」
「あー、私だったらこっち使うかな」
「そうかぁ!」
 年下は恋愛対象にならないんだよね。二人とも可愛いんだけど。それにみやちゃんとよりも年齢が近い。まあ、そもそも学生と社会人にはボーダーがあるけれど。なんかまだ子供っていうか。
 私自身もまだ子供だからダメなのかも。
 やっぱり私は長身のシュッとしたお姉さんが好みなんだろうな。ちなみに、みやちゃんも私も背が高い。私の方が二センチ高い。これを言うと、みやちゃんの機嫌を損ねるからあまり大きい声では言えないけど。
「先生、私、次のコンペに作品を出そうと思っているんですけど」
「おお」
「でも私の作品って審査員受けしない気がして……」
「そうかなぁ。じゃあ審査員受けすると思うもの一度作ってみては?」
「そうすると手が止まっちゃって」
「私はそんな自分を捻じ曲げて作ってどうするのって、さらさに言ってるんだよ。ずっと受け狙って生きてけるわけじゃないんだからって。自分を表現できるテーマでいいじゃんって」
「でもさ、ゆうちゃん。肩書きがあった方が良いこともあるよ、これから絶対」
 おー、若い若い。良いなぁ。
「まあまあ、嫌々作ってたんだけど、出来てみたらなんか良かったってこともあるからさ。コンペがどうとかよりも、クライアントの好みを考えるってのが必要なこともあるからやってみなよ」
「はい……やってみます」
「同時に好きな感じのも作ったらいいよ」
「先生も嫌々作ることあるの?」
「いやー、ないかな別に」
「ないの? なんで?」
「うーん、なんでかな……ま、考えとくよ。じゃっ、さようなら」
「えー先生!」
 さ、急いで帰るぞ。

 教えることが、実はあまり好きではない。ひょんなことで講座を頼まれたことがあって、そこに来ていた人にまた短期で教える仕事を頼まれて、そこで別の人に頼まれ……と流れに身を任せていたら定期的なお仕事にまでなった。
 ありがたいことなんだけど。
 普段は家にこもって着々と作品の依頼をこなしている。その方が性に合っていると思う。そちらの収入が多いわけではないから、お小遣い稼ぎにと教え始めたのだ。
 だけど、街に出るのが面倒だ。できれば、オンラインにしていただきたい。確かに細かいニュアンスを伝えるのはまだ難しいのだけれど。科学の発展に期待している。
 辞めるタイミングを伺っているけれど、学生たちは思いのほか可愛い。みやちゃんと二人暮らしの今は、子供を産むことは考えにくい。だから、次世代の育成に、自分も少なからず貢献できているという、生きる意味を見出せたりもする。
 そんなこんなの葛藤があり、渋々街へ出てくるのだけど、来てもいいかなという理由を見つけた。
 学校の最寄りの駅には、ビオスーパーがあるのだ!
 結構ワインが売っている。ビオスーパーの隣には、狭いけれど産地直送の野菜が売っているコーナーがある。この二つがあるから、人がぎゅうぎゅうの電車にも仕方なく乗ることができる。
 まずは、野菜コーナーから……
 おお、ゴーヤ! なんと麗しい!
 六月に入ってゴーヤが大きくなってきたな。今日はチャンプルーで決定ですね。だし多めで作るから、芳醇そうな白ワインを探そう。
 私の最愛のパートナー梅原うめはら美矢みや美矢さんは、近頃仕事が立て込んでいるよう。基本在宅ワーカーの私が平日は家事をやっています。私たちの生きがい、晩酌タイムを有意義なものにするのが、私の一日のおわりの重大任務。
 とはいっても、平日のお酒はお手頃でなければならない。デイリーというやつである。
 さてさて、どのワインにしようか。
 変わり映えのしないラインナップも置いてあるけど、たまにニューフェイスもちゃんといる。飽きっぽい都会人について心得ている、さすが駅近のビオスーパーだ。

「電車に乗りました」
 みやちゃんからメッセージだ。彼女はスタンプをあまり使用しない。でも、なんとなく文面から疲れが滲み出ている。
「おつかれさまです」と、お返事。
 ゴーヤを薄目に切る。みやちゃんはゴーヤ好きだけど、あまり苦いと「苦いっ」と言ってくる。
 砂糖小さじ一をまぶしておく。苦味を和らげるコツらしい。うちのゴーヤチャンプルーは簡単。砂糖をまぶしてあるので、あとは粉だし小さじ一程度と薄口醤油適量。今日の他の具材は豚肉、玉ねぎ、水を切った豆腐と仕上げに溶き卵。
「ただいまー」
「おかえり」
「ひー飲みたい飲みたい」
「あはは。手洗っておいで。ビール注いでおく」
「ビールビール!」
 丸いグラスに缶ビールを注ぐ。どこのビールも好きだけど、普段はサッポロ黒ラベルに手がいく。
「さく、早く乾杯しよ」
「はい、みやちゃん、おつかれ様」
「「かんぱい」」
「クゥッ」
「みやちゃん、ほとんど飲んじゃってるじゃん」
「今日はもう一本飲んでやりたい気分」
「白ワイン買ってきたから、そっち飲もうよ」
「今日何? あ、ゴーヤだ! チャンプルーね。やった」
「何かあったんですか」
「ちょっと、それどうなのって思ったことがあって」
 みやちゃんは温厚だ。
 顔に出ないので、出会った当初は何考えてるかわらない系かと思っていた。腹の中でドス黒いことになっていたらどないしよとハラハラしてたこともあったけど、実際は、ただあまり怒らないだけだった。
 そういうところ見習いたい。
 しかし、温厚な人ほど本当に怒るとどうなるか恐ろしい。ということを肝に銘じている。
 とりあえず着席して、今夜も晩酌スタート。
「ではみやちゃん」
「「いただきます」」
 まだまだ平日ど真ん中なので、今夜はお手頃な『アロモ ヴィオニエ』をいただく。私好みの厚みのある白ワイン。チリ産。このお値段でこのアロマ感は満足。リピートしている一本。
 暑くなってくるとやっぱり白ワインがいいよね。ほんのり果実みもあって、すっきりすぎないのが良い。沖縄料理はだしの味がしっかりしているから、濃いめの白ワインと合わせるのが好き。
「今日さ、急遽体調不良でお休みしたいって電話がかかってきてさ」
「ほお」
「私はその人と管轄が別なんだけど」
「え?」
「その人が、上司は出勤してるはずなんだけど電話に出ないからって。で、今日別の会社の人との打ち合わせに、代わりに行ってもらえませんかって言われてさ」
「なんだそれ」
「でさ、まあそれはいいんだけど、打ち合わせ終わってからその上司からさ、打ち合わせどうでした? って電話きて」
「えー上司出勤してたの?」
「いや、なんか在宅してたらしいんだけど、午前中は休んでたみたい。部下には前日までに申請しろって言ってるくせに、さっきスケジュール表見たらしれっと休みになってたんだよ。てかさ、まず謝れよ!」
「変な人!」
「代わりに行ってもらってすみませんでしたとかあるじゃないの」
「え、なんもなかったの?」
「なーんもだよ、しれっとさ、午前お休みいただいていてって。体調不良の人は仕方ないけど、謝ってたし。その上司の午前休みの理由なんだよって」
「それは良くないね」
「朝の時点ではスケジュール表、出勤ってなってたからねその上司」
 さすがのみやちゃんもこれはご立腹だろう。
 なーんで、こんな変な人がいるんだろう。まあ、世の中色々な人がいるから回っているんだろうけど。
 私は恵まれている。人に会う回数が少ないってのもあるけど、なかなかそういう嫌な人と接する機会はない。
 お外でがんばって働いてきてくれるみやちゃんをもっと労わらないと。せめてお家の中は清潔に、居心地良くしておいてあげたい。
 そして、贅沢はできないけど、みやちゃんの大好きなお酒を美味しいおつまみと嗜む。晩酌の時間をリラックスタイムにできるように。

 三日後
「じゃーん」
「わ! それいつも並んでるやつじゃん!」
「この前体調不良だった人の仕事変わったじゃんか。その人からお礼にってもらった」
「食べてみたかったんだよね! この贅沢ビスキュイってやつ」
「並んでくれたのかなぁ」
「中にはちゃんとした人もいるんだね」
「そうだね、うちの会社も捨てたもんじゃなかったわ」
 変な人もいれば、良い人もいる。
 こちらが誠実であれば、素敵な人を見つけられる。
 この日はみやちゃんのおかげで、晩酌にデザートタイムまでありました。


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