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第2話 要するに、ゴジラ


はるちゃんは、
とにかくチャレンジャーだ。

視覚障害があるというのに
なんでも僕と同じようにやりたがる。
言い出したら聞かない。

こないだも
星がキレイだと言ったら、
私も見たいと言い出した。

なんとかひとつ星が見えたようで
ホッとした。

星の名前は、ひとつしか知らなかったから
「べテルギウス」だということにした。
昔、コブクロにそんなタイトルの歌があった。
コブクロに感謝だ。


そういえば、はるちゃんと仲良くなったきっかけも
コブクロだったな。

僕が好きなコブクロのコンサートに誘った。
最初は断られたけど、諦めずに何度か誘ったら
オッケーをもらえたんだった。



僕とはるちゃんの出会いは、
僕が一方的に
彼女のブログのファンだったところから始まる。


はるちゃんは
知る人ぞ知る世界で
そこそこ人気のある
ブロガーさんだったんだけど、

彼女の書く文章は
なんというか
僕の心に響いて響いて響きまくった。

何度も読み返したくて
好きな記事は
プリントアウトしていたほどだ。


その頃の僕にとって
ブログの中のはるちゃんは
遠くにいる憧れの存在、という感じだった。


僕が読んでいたブログというのは
彼女の日記のようなもので
日々の出来事が綴られていたのだけど、

ある日、そこに
「失恋した」と書かれていた。

どうやら長年お付き合いをしていた人と
お別れしたのだそうだ。

苦しそうでつらそうな文章を綴っている
はるちゃんには申し訳ないのだけど、
僕は、「チャンスだ」と思った。

そしてそれからすぐ
彼女が主催するイベントに参加したのだった。



神様っているんだな。と思った。

場違いなイベントに気後れして
はるちゃんに声をかけることもなく
そそくさと帰ってきてしまったにも関わらず、
そのあと、お礼のメールをしたら
直接やりとりができるようになったからだ。


これはチャンスとばかりに
コブクロに、映画に、話題のカフェに、
とにかく手当たり次第に誘った。



仲良くなってみると
はるちゃんはだいぶ変な人だった。


まず
出会った当時のはるちゃんは
プチトマトしか食べなかった。

外ではカフェラテをガブガブ飲んで
家ではひたすらプチトマトを食べているという。

すごく偏食なのかと思ったら
そうではなかった。

まず料理が苦手で自炊をしないことと
失恋して全てがめんどくさくなり
何を食べるか考えるのもわずらわしかったらしい。

それにしたって
なぜにプチトマト、、、??


あともうひとつ変だったのは
とにかく芝生に寝転がるところだ。

洋服が汚れるとか
そういうことは気にならないようで、

芝生を見つけるやいなや
地面に座り込み
すぐさま寝転ぶ。


ええっと。
ここ、東京のど真ん中なんですけど、、、??



初めて出会うタイプの人だった。



まあ、そんな感じで
はるちゃんには
理解できない部分がたくさんあったから
視覚障害のことも
そのひとつくらいに思っていた。


なんだか名前の難しい目の病気で
一度に見える範囲が極端に狭い。
ということは、
ブログに書いてあったから
仲良くなる前から知っていた。


んー、と言っても
正直想像がつかないなあ。

実際、どんなふうに見えているんだろう?


最初はそんなふうに
思っていたけれど、
そのうち、だんだんわかってきた。

いや、相変わらず、
どう見えているかは想像もつかないけど、

はるちゃんが
どういう生き物であるかについては
一緒にいるだけで
否応なく理解させられた。




要するに、ゴジラだ。



足元にあるものや
背の低いものは
全てなぎ倒して歩く。

はるちゃんの進む道に
僕がしゃがんでいたら
僕のこともふんずける。

そして、
「なんでそんなところに
しゃがんでいるの?」と怒られる。

ゴジラにはゴジラの常識があるらしい。


ゴジラは
僕の肘を掴んで歩く。
さっそうと歩く。

たまに僕ひとり分の幅しかない通路に突っ込んで
柱や壁に激突する。

驚きもせず
慣れた様子で
真剣に痛がっている。


ブログで読んでいたときとは
全く印象が違う。

プチトマトが主食の
おもしろくて小さなゴジラが
僕の隣にいる。

僕は迷うことなく
交際を申し込んだ。


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