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第4章 オレはそこに辿り着いたのか?

愛する仲間たちとではなく、たった独りで北海道を歩いていると何だか「意味」が欲しくなるのです。

オレが何のためにわざわざ宮崎からこの北海道まで歩きにきたのか???
何度も止めようと思いながらもひたすら歩き続けているのか???なぜこの足は外を向いたままで満足に動こうとしてくれないのか???

ついつい考えてしまうんだよなぁ。

足の痛みのせいで眠気がふっとんでいるからか、ランナーズハイならぬ、ウォーカーズハイに陥っているのか。

只今の歩行距離は、53キロ/75キロ
残り22キロでございます。

時間はすでに22時をまわり、辺りは真っ暗、霧で真っ白。いずれにしても視界はかなり悪い。いずれにしても足もかなり動かない。

そんな状況でハカイダーは何を考え、何を妄想していたのか???

■第4章 オレはそこに辿り着いたのか?


正直、この区間が今回の100キロの全過程の中で一番きつかった。車がさっきから数台、オレの横を通り過ぎていくが、その車のエンジンも怒号を上げる。車でもキツイ10キロに及ぶ長い登り坂っていうか登山!!!

この長い登り坂のせいで「100キロ歩こうよ♪大会」は実質、「75キロ歩こうよ♪大会」」になったのだろうと思う。

この10キロの道のりにはそれくらいハードさがあったんだ。今振り返ってみても「そりゃもうアンタ!!!」ってな感じですわ。

やっとのことで5キロ歩くことができた。
残り5キロ。あと5キロ歩けば、ホンの少しだけ、ホンの少しだけオレはラクになれるはず。

たった独り!!!
たった独りで闇夜を歩く。

いや、歩くというよりは蠢(うごめ)くといった方がいいかも??
のそり・・・のそり・・・と少しずつ移動していく。

 つらい。
  きつい。
   苦しい。

休憩しようと立ち止まってみても、特に脈拍が激しいわけでも息を整えたいわけでもない。また、足の痛みが消えるわけでもない。結局、その場所に立ち尽くすことしか今のオレにはできないんだ。

しかし、その立ち尽くすことさえこの登り坂では決してラクではなかった。

だから歩く。何をするわけでもなく歩く。何もできないからこそ歩く。
またしても泣けてきた。まるで涙が汗のようにすーーーっと流れてきた。

情けないなぁ、オレの身体は。動くことも、動かないこともままならない。たったそれだけのことも自分の思うようにならない。

CHIKショー・・・ホントくやしいなぁ・・・

自分に対する情けなさと、身体が思うように動かないくやしさとが入り混じった感情。

オレは泣きながら歩いた。独りで良かったかもしれない。闇夜で、霧中で良かったかもしれない。独りで極限状態にいたからこそ、オレは感情を開放できたのだろう。

  もうリタイアするか?

どこからか、そんな声が聞こえてきたような気がした。

  もうリタイアしてもいいんじゃないか?
  おまえは精一杯やっただろう?

はて・・・・。オレは精一杯歩けたのだろうか。ホントにオレは限界なのだろうか。クライアントさんであり、この100キロイベントの主催者でもある加藤さん。

彼は知人の誘いで三河市で行なわれた100キロ歩け歩け大会に参加し深い感銘を受けたらしい。そして、この素晴らしいイベントを地元の北海道でも開催したいと強く願い、昨年ようやく第1回が開催された。

この100キロ歩くという行為に彼は何を見たのか??
オレは何を見てきたのか???
加藤さんが感じ取った「何か」をオレは感じているか???

否っ・・・・!!!!!!!!

オレはまだ「そこ」まで行っていない。まだ「悲しみ」と「痛み」と「苦しみ」しか味わっていない。

オレは加藤さんが感じた「何か」がとても知りたかった。
「オレもいつかは宮崎でこの100キロイベントをやりたいなぁ」

そう感じ取れるだけの「何か」を掴みたいと思った。でなければ、オレがここに来た意味がない。参加費払って、旅費払って家族を置き去りにしてわざわざ北海道まできた理由がない。

リタイアする前にせめてそれを体験したい。体験しなくちゃ!!!!
貧乏性の強がり男(ちょっぴりセクシー)のでかい独り言が霧の摩周湖に響く。

「負けるかあぁぁーーーっ!!!!」
「うがぁぁぁぁああ!!!!」
「まだオレは歩けるぞぉぉぉ!!!!」

足取りは重い。スピードも遅い。右足なんてずっと引きずったままだ。
まるで、道端に落ちていた100円玉を踏んづけて拾おうとする時みたいに、ずっとすり足のままだ!!!
角界入りした相撲取り見習いみたいにぎこちないすり足のままだ!!!

それでも歩いた。ガードレールを手すり代わりに必死に掴んで歩いていった。

「まだまだぁぁぁああぁ!!!!」
「いけるぞぉぉおおぉぉおお!!!!」
「絶対リタイアするもんかぁぁあ!!!!」

数分後にサポートさんが車で通りかかって声を掛けてくれる。あまりの奇声にびびったか??もしかして通報されたのか???

「もうしばらくすると霧も晴れますよ。すると夜景もキレイなんで」

夜景なんて、見れん!!!!見る余裕はねぇ!!!!!
おまえに食わせるタンメンもねぇ!!!!

自分自身の痛みを感じないようにするのでオレは精一杯です!!!!
古いギャグでかろうじて自分のキャラを保っています。

しかし、ほどなく歩くと確かに少し霧がおさまってきた。
左手の奥に、ずっと遠くの方に、街の明かりが見える。

あの明かりの下には家族の団欒があるのだろう。恋人たちの愛があるのだろう。喜びも悲しみも怒りも苦しみもたくさん満ち溢れているのだろう。

オレもそうだな。今ここにたった独りでいるけれど、いろんな感情を持っている。場所や、環境や、相手は関係ない。オレは今、精神の世界に生きているのかもしれない。

そんなことを考えるでもなく、考えないでもなく歩いた。

実はこの間、ずっと応援メールをくれたヤツがいる。オレが昼間に「もうダメかも」と愚痴メールを返した瞬間から

「気合いじゃーーーっ、気合い!!!」
と、鬼軍曹に徹してオレを励まし続けてくれたヤツがいる。

埼玉ハカイダーレディ『くま』!!!!!
土曜の夜にヒマを持て余している寂しい女『くま』!!!!

くまは、オレがかなり凹んでいた21時から24時の間だけでも10通以上もメールを送ってくれたんだよ。まぁ、その分「返信」もさせられているんだけどな。

昼間にさぁ、さゆりと泣いてたときにさすがに1回返信を無視したらさぁ、ずーーーっと前を歩いているしのにメールしてオレの状態を聞いたらしくてさ。

しのからの返信で「自分のコトで精一杯!!!!」と怒られたらしい。

数分後、その愚痴メールまでもオレに送ってきやがった!!!!
オレが悪かったよ!!!!!!

っていうわけで。長い登り坂を歩きながら、返信すればするほど返ってくるくまからのメールに泣きながらメールを返信していました。

何がキツイってさ。
ヤツのテンションが普通なのがキツイ!!!
そのテンションに合わせて返信するのがキツイ!!!!

気分転換になったような、ならなかったような。


・・・・と。
こうやってかなりたくさんのエピソードがてんこ盛りにもかかわらず、いまだにチェックポイントは見えない。

道も右へ左へと曲がりくねっている。
「あそこまでいけば明かりが見えるかも」
「このカーブを抜けたらきっと」
そういった期待をことどとくこの登り坂は裏切ってくれた。

期待を裏切らないのはくまからの返信メールの早さだけだ!!!

先が見えない。霧も晴れてきたのに、道の先にはチェックポイントの明かりすら目視できやしない。

まだまだ、歩き足りないのか。まだまだ、苦しみ足りないのか。

くまに「電池が切れるから」とウソのメールを送り、何とかメール地獄から逃れることができた。今のうちに距離を稼ごう!!!!

そして、スタートから4時間経過した深夜12時。
ついに先の方で明かりが見えてきた。

チェックポイントだ!!!

だけど、身体も顔もすでに硬直していて動かない。心すら硬直してしまったように嬉しさを感じることができない。

「おおーーーーい!!!お帰りーーーっ!!!!」

50メートルくらい先からサポートさんが駆け寄ってきたくれた。あぁ、車で何度も通ってくれた人だ。
「大丈夫???疲れたねぇ、疲れたねぇ・・・」

サポートさんがオレの脇をがっしりと支えてくれた。少しだけ歩くのがラクになった気がする。必死にオレに声を掛け続けるサポートさんのその顔は涙でグシャグシャになっている。

オレはぼんやりしていた。この地点に着いたのがちょっと夢のようだったのかもしれない。体力が極限を超えて記憶が定かではないのかもしれない。

でも事実がひとつ。オレは確かにチェックポイントに着いた。とりあえずあの苦痛から一瞬は解放されたんだ。

サポートさんに促され、抱えられながら、オレは毛布の上に横たわった。

第5章へ続く。

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第1章 (35キロ地点まで)
第2章 (48キロ地点まで)
第3章 (53キロ地点まで)
第4章 (58キロ地点まで)
第5章 (63キロ地点まで)
第6章 (70キロ地点まで)
第7章 (75キロ地点まで)
最終章 (ゴール地点)


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