第3章 ズリ下されたパンティー
お疲れちゃん。
まだまだ足が復活していない両足ハカイダーでございます。
さてさて。
こうして佳境に入っていく100キロ歩こうよ♪大会ですが、実は厳密に言うと100キロではなく、75キロなんだよね。
それにはちゃんとした理由があって。
これから向かう第6チェックポイントまでの道のりがあまりにも過酷なため。
10キロ以上の長く急勾配な心臓破りの上り坂が続くため。
只今の歩行距離数 48キロ/75キロ
あと、27キロ!!!!
果たして、ハカイダーは無事ゴールできるのか???
っていうより、ゴールするつもりはあるのか???
■第3章 ズリ下ろされたパンティー
第5チェックポイントでは、夜間対策の準備も必要になってくる。
この辺りは宮崎と一緒で、夜中はホントに真っ暗になるらしい。
ヘッドライトと、防寒具は必需品なのだ。
マッサージを受ける前に、涙と汗でビショビショになったシャツとパンティーを取り替えなければ。
予め預けておいた荷物をもらい、着替えるためにトイレにいく。
しかし、歩くのも大変な状況で着替えなんてできるのかいな。
でも、北海道の夜間はとても冷え込むらしいし、実際に今もう寒い。
濡れた下着を着替えておいた方がどう考えても賢明だよな。
右足をひきづりながら、トイレに入るとなんと「和式」タイプ。
いや、別にウンポコするわけじゃないけどさ、今のこの状況でたったまま着替えはかなりキツイっす!!!!
せめて洋式なら便座の上に座って着替えるってこともできるんだけどね。
シャツとパンティー(スケスケではない)を貯水タンクの上に置き、さっそく着替えを始める。シャツはまったく問題ないんだけど、パンティーはどうしよ???
立ったまま、脱いで・・・立ったまま、履く。
かなり骨が折れるで、しかし!!!!
でも、さすがにサポートさんに頼むわけにはいかないからね。
片足で立って、パンティーをズリおろす。
足の角度や、重心をなるべく変えないようにゆっくりとゆっくりと替えのパンティーを足首から、膝へ、そして太ももへと上げていく。
足に激痛が走る!!!!
「ぐあぁあぁぁぁぁあぁ!!!!」
「ぎぎぎぎ・・・!!!!」
「んぐぐぐぅぅうう!!!!!」
押し殺そうとしてもあまりの痛さに声が漏れる。男子トイレから聞こえる奇声。周囲はよっぽどでっかいウンポコと格闘していると思ってただろうなぁ。
着替えるだけでこんなにも足に負担がかかるなんて今まで気づきもしなかった。数分後、下着を替えたにもかかわらず汗びっしょりかいてトイレから出てくることになったよ。
それから、休憩所に戻っておにぎりとスープカレーを補充。
でも、疲れすぎてナカナカ喉を通らない。
それでもなんとか強引におにぎり2個をお茶と共に胃袋に流し込んだ。
それから、横になってマッサージをしてもらった。
でも気持ちいいどころか、あまりの激痛に悲鳴をあげることに。
すでに「マッサージ」ではダメになってたんだよ。
軽くさするだけですでにオレの身体は「痛み」の信号を送りやがる。
そんな状況を見かねてか、なんとサポートさんがもう一人やってきてマッサージに参加。二人がかりのマッサージはかなり効いた。
うめき声もかるく2倍だ!!!!
うつぶせになって、膝を曲げたり伸ばしたりするだけでついつい大声が出てしまう。Mr.ファルセットの実力発揮!!!
「ぎゃああぁぁぁあぁあ!!!!」
「ぐぐぐぐぐぐぅぅぅ!!!!」
「んぎぃぃいいいいいぃぃ!!!!」
ある意味、歩くよりもきついかも???
マッサージに励むサポートさんにそれとなく聞いてみる。
「さすがにもうこの足では100キロはムリですよねぇ???」
「大丈夫、大丈夫♪まだまだいけるよ!!!」
ウソつけぇぇぇぇぇ!!!!!!!
もうムリだと言えぇぇぇぇぇ!!!!!!
なだめられ、おだてられ、結局最後は「精神力の問題だね」と言われては、もう反論すらできない。
みんな同じような痛みと戦っている。そう思う一方で、オレ、ホントに大丈夫なのかなとも思う。
明らかに足の痛みが尋常ではないからね。
気合いを覚悟を持ってやらないと靴すら履くことができないんだから。
マッサージを受けている最中に、かわけんと、ミッキーと、栗ちゃんが数分おきに一人ずつチェックポイントに入ってきた。
おおおーーーっ!!!!!
後ろのパーティも頑張ってたか!!!
ちょっと勇気がわいてきた。でも、みんな一緒じゃなかったの???
何でも、ここらでそれぞれ一人ずつ歩こうということになったらしい。
スゴイ。
オレはさゆりの力を借りてやっとこさゴールできたっていうのに、彼らはたった1人の力でここまで歩いてきたのだ!!!
マジですげえなぁ。
ミッキーなんて、ホントにぴんぴんしていやがる!!!!
マッサージを受けるつもりもさらさら無いらしい!!!
オレはあんなに依存しているのに!!!!
「ミッキー、頼みがあるんだけどさ。さゆりをゴールまで連れて行ってくれないかなぁ?」
「あぁ、いいっすよ!!!」
よっしゃ!!!
とりあえずこれで安心してリタイアできるぞ!!!
良かったな、さゆり!!!
っていうより、オレ!!!
んん!!! そういえば武田っちは??
武田っちは足が痛くなって少し遅れてきているようだ。
今、武田っちが歩いているコースは昨年、彼の全エネルギーを吸い取った。
心配になって電話してみると、声は意外に明るかった。
「足は痛いけど、大丈夫だよ!!!」
武田っちも独りで頑張っている。
去年、リタイアしたところを頑張って独りで歩いている。
オレもせめて彼に追い抜かれるまではあきらめずに歩いていかないと!!!!
午後8時。ついに出発の時が来た。
ヘッドライトつけて、さゆりと共に再びチェックポイントを出る。
次は10キロ先だ!!!!
二人でチェックポイントを出ると後ろから細身の人が着いてきた。
あ、そうか、ミッキーか。いや、それにしても普通の足取りだねぇ、さすが。膝が上がらなくなってすり足になってるオレとは違う。
「そんなことないですよ。かなり疲れていますよ。」
正直に告白します。オレはこの後、数分間、彼をずっと
ミッキーだと信じて話していました!!!
ミッキーはまだ出発すらしていなかったというのに!!!!
どうりで話が噛み合わないと思った。
北海道出身の彼の名は「食パンマン」さんとでもしようか。
物静かで、スラッとした好青年。年齢は36~38歳くらいかな??見るからに正義感も強そうでまさに食パンマンそのもの!!!
ココからの第6チェックポイントへのコースは摩周湖の周辺になるんだけど、なんと10キロ以上も上り坂が続くんだよね。
実は、ココから単独での行動を慎むように言われているんだよ。深夜で周りが暗くなること、そして、霧の摩周湖って言われるくらい霧が出て視界が悪くなるから。
食パンマンさんもそういう理由でオレとさゆりのパーティに参加したのだ。3人になったオレたちは歌いながら歩いた。
あ、実際に歌っているのはオレだけなんだけど。
でも、その元気も最初だけ。徐々にその悪魔のような坂はオレの一歩を拒むようになる。
数分後、軽い足取りでかわけん&ミッキーがオレたちを追い抜いていく。
ミッキー。さっきの約束はもう忘れてしまったのか???
長い長い上り坂はオレのプライドさえも打ち崩していく。
オレはいつの間にか再び「のび太くん」になっていたようだ。
静香ちゃーーーん・・・
もうボクはダメだよーーーっ・・・
先に行ってくれよぉぉーーーっ・・・
しかし!!!!
のび太くんとの付き合いも慣れてきた静香ちゃんは、無視。
ことごとく無視!!!!
トコトン聞こえないフリを決め込み、前に前に向かって歩いている。
泣き落とし作戦失敗!!!!
次なる手を考えないと。
隊長ーーーっ!!!!
休憩したいです、隊長ーーーーっ!!!!
何とか休憩ならお許しが出るだろう。
どちらにしても今のオレにはこのペースでの「登山」はかなりキツイ。
「それじゃ、あの街灯のところまでいったら休憩しよう」
おおお、やった!!!
ついにお許しが出たっ!!!!
あの街灯のところまで行けば・・・
あの街灯の・・・あの「遙か彼方に見える街灯」の・・・???
ひいいいいぃぃぃーーーーっ!!!!!
あそこまで行くのに軽く30分はかかってしまうじゃーーん!!!!
隊長ーーーっ!!!隊長、スミマセン!!!!
今すぐ休憩をさせてくださぁぁぁい!!!!
な・・・なんとか、休憩させてもらった。
ガードレールにもたれて束の間の休息を必死でとる。
ふと携帯をのぞくと武田っちから、着信が入っていた。
も、もしかして、ついに・・・???
悪い予感したんだよねぇ。
さっき電話で話したときにお互いに励ましあって、リタイアするときは教えてくれって武田っちに言っておいたんだ。やっぱり無理だったのかなぁ。
ちょっと電話してみよう。
武田「はい、お疲れーーーっ」
アレ??
意外に普通のテンションなのね。
武田「ハカイダー、オレさぁ、リタイアしたよぉ~」
マジで????
ホントにマジで言ってるの????
武田「今から、ホテルに戻って温泉に入るわ♪」
う・・・うらやましい!!!!
オレも温泉で温まりたいっ!!!!!
そうかぁ、武田っちもリタイアしてしまったかぁ。
オレもそろそろ潮時なのかなぁ・・・。
武田「・・・・ウソ!!!!」
て、てめぇ!!!(プルプル)人間じゃねえな????
でも、良かったなぁ。何だかホッとしちゃったよ。
ホッとはしたんだけどね、正直、緊張の糸が切れちゃった。
歩ける気力が無くなっちった。
「さゆり。 オレを置いて、先に行ってくれるか?」
意を決したオレの言葉に、さすがにさゆりも何かを感じたらしい。
「私が先に行った方がいい?」
うん。ごめん、さゆり。今度ばかりは無理かもしれない。
オレはもうこれ以上、遅いペースでさゆりの調子を狂わせたくはない。
泣くわけでもなく、嘆くわけでもなく、オレは素直に独りで歩いていく決意をした。
「食パンマンさん、お願いします。さゆりをゴールまで何とか・・・
何とかフォローしてください!!!!」
「わかりました、任せておいてください。」
頑張れよ、さゆり!!!
さゆりならきっとゴールに辿り着けるから!!!
オレはそれからしばらくさゆりと食パンマンさんをボーーーッと見つめていた。少しずつ二人のヘッドライトが闇夜と霧の中に遠ざかっていった。
こうしてオレは独りぼっちになった。そして、独りで戦う決意をした。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
よし。とりあえず、独りでいけるところまで行こう。
せめて武田っちに追い抜かれるまでは必死で痛みをこらえて進んでいこう。
元気が出てきたわけではなかったが、いつでもリタイアできるという状況がオレを気楽に歩かせた。
途中、サポートさんの車が通りがかる。夜間の単独行動はダメだってことで、リタイアさせられるのかな???ワクワク!!!
「あのーーーっ・・・温かいお茶いりませんか??」
あ、ありがとう。すごく身体が温まります。テンションは冷え気味ですけど。でも、独りで歩いていると人恋しくなるもんだね。飲みたくも無いお茶をおかわりしてみたよ。
そして、再び独り歩き。
30分以上かけて遙か遠くに見えていた街灯のところまでやってきた。
さゆりと食パンマンはここでも休憩をとったのだろうか??
頑張って二人に追いつきたいとは思ったものの、それが無理だということもオレは充分理解していた。
その街灯のあったところからしばらく進むと警備員さんが道案内として立っていた。どうやら、ここから先は歩道が無くなるらしく、その案内のために随分と前からココにいたそうだ。
「男女ペアのパーティがさっきココを通ったと思うんですけど」
「あぁ、来たよ。5分くらい前だったかなぁ??」
そうか、5分前か。もう30分くらい差をつけられてると思ってたけど意外に離れていないんだなぁ。でも、視界の先にはライトの明かりはまったく見えない。
今の5分の差ってとてつもなくでかいと思った。
「警備員さんは100キロ歩いたことってありますか??」
「えぇ、70キロだったらありますよ。」
えっ???? アレ、この人???
この警備員さんとは、今日の昼にさゆりと歩いているときにおしゃべりしたことあるわ。もう顔すらも忘れていたよ。でも、一度話したことがあるというだけで、オレはすごく彼に親近感を持った。
彼はほんの短い距離を共に歩いてくれた。そして、ガードレールにもたれかかっていると、彼がアドバイスしてくれた。
「ココに足をこうやって乗せて伸ばすと結構疲れがとれますよ。」
彼の好意はとても有難かったが、オレの足はもうそこまで上がらない。歩道のたった5センチ程度の段差すら満足に乗り越えれなくなっていた。
彼にそのことを告げると、オレの後ろに回ってマッサージをしてくれた。
「もう少しです、頑張ってください。上り坂がこの後もずーーーっと続きますが、あと5~6キロでチェックポイントですから!!!」
いつの間にかオレはこのコースの半分を歩いていたんだなぁ。
残り5キロか。
とりあえず、足を動かしてみます。
頑張りはしないけど、できるだけ歩いてみます。
オレは何のために歩こうとしているのか。
オレは何故ここにいるのか???
答えは誰も知らない。
そして、答えはどこにもない。
だから、歩こうと思った。
とりあえず歩けなくなるまで進もうと思った。
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第1章 (35キロ地点まで)
第2章 (48キロ地点まで)
第3章 (53キロ地点まで)
第4章 (58キロ地点まで)
第5章 (63キロ地点まで)
第6章 (70キロ地点まで)
第7章 (75キロ地点まで)
最終章 (ゴール地点)
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