第7章 薄れゆく記憶の中で
さてさて。長い長いこの物語もついに第7章に突入してしまいました。文字数もすでに3万字を超えています。ある意味、この記事には、100キロ以上の道のりがあります。
あれからもう一週間以上が経過していますが、いまだに足には痛みが残っている。この胸に何かが刻み込まれている。
只今の歩行距離は、70キロ/75キロ
残り5キロ。
ついに残り5キロです。
果たして今回の記事でハカイダーはゴールまで辿り着けるのか??
■第7章 薄れゆく記憶の中で
ゆっくり歩いた。ゆっくりしか歩けなかった。タイムリミットが近づいているのは充分わかっているのに足が動いてくれない。急がせてくれない。
竹杖を自分より後方に突き、腕にググッと力をいれて、自分を前方に押し出そうとしてみるがその力に足が反応してくれない。もうその力に対応する足ではなくなっていた。
武田っち&かわけんが追い抜いていく。
栗&かわいいお姉さまが追い抜いていく。
オレは元来スグに焦るタイプなのよ。何事も余裕を持っていきたいと思うタイプ。でも動かない、動けない。そのジレンマがオレを苦しめる。
オレよりも後ろを歩いているであろうさゆりはキッチリと時間内でゴールする段取りで、ペースで歩いているだろう。ってことはこの時点からゆっくり歩いて、さゆりに追い抜かれたら、きっとオレは時間内にゴールできない。
何とか、最後のテープをさゆりと切りたい。
そのためには今、少しだけでも歩いておかないと。
でも、ホントに悔しいなぁ。何でオレの身体はオレの思う通りに動いてくれないんだろう?
悔しい。悔しい。
いつの間にか、オレは泣きながら歩いていた。
オレはこの100キロの間に何度、涙したことだろう。
悔しくて悔しくて。情けなくて情けなくて。
悲しくて悲しくて・・・とてもやりきれない。
朝っぱらから北海道の広大な自然の中で、泣きながらズリズリと歩く男(ちょっぴりセクシー)。
あんまり絵にはならないなぁ。
そんなことは充分わかっていても、涙が止まることはなかった。
しばらく歩くと道路標識が出てきた。
川湯温泉 3キロ
硫黄山 1キロ
またしてもちょっと凹んだ。すでにオレは、この5キロの道中の
3キロ以上を歩いているつもりだったから。
どう少なく見積もっても3キロ以上歩いているはずなのにぃぃ。まだ、2キロも歩いていなかったなんてせつなすぎる!!!!
信号を左に曲がると白樺の林道がまっすぐに続いていた。
こ、こんなにも長い直線かぁ。またしてもちょっと凹んだ。
オレの予定では、最後のゴールが肉眼で目視できるハズだったから!!!!
こんなに真っ直ぐな道なのに、1キロ先の硫黄山すら見えないなんて!!!!
でもココには愚痴を聞いてくれる仲間もいない。
気持ちをしっかり持って歩いていくしかない。
さっき、オレを追い抜いていった栗&かわいいお姉さまコンビは、もうかなーーーり先の方を歩いていた。どんなに大きな声で愚痴っても聞こえそうにない。
っていうか、もしココに栗がいても、かわいいお姉さまとの語らい優先で、オレの愚痴を聞く気持ちすら無さそう。
しょーーーーがない。歩くしかない。動いていくしかない。
白樺の木に囲まれた一直線の林道。どんだけ歩いても歩いた気がしない。変わらない景色が疲労を蓄積する。動かない身体が焦りを生む。でも、どれだけ焦っても歩くスピードは変わらない。
何で動かないんだろうなぁ、この身体は。いろんなことを考えても、どれだけ身体を動かしても白樺の景色はまったく変わらない。栗&かわいいお姉さまも、もう米つぶ以下のサイズにまで小さくなっているのに、まだゴールじゃない。
限りなく遠い。果てしなく長い。
それでも両手を使い、竹杖のお世話になりながら丸太棒を2本ひきずって歩いた。
20分ほど歩いただろうか。やっと「硫黄山」の看板が見えてきた。
さっきの信号から1キロしか歩いていない。この1キロのなんと長いことか。車で走れば1分で着ける距離なのに。
白樺の林道を通り抜けると、今度は・・・
果てしなぁーーーく続く空と、果てしなぁーーーく続く道だけが見えた。
あわわわわわ・・・・!!!!
見なきゃ良かったと思うくらい、かなり精神的なダメージ!!!
肉眼で何となーーーく遠くの方で人が動いているのが見えた。でも、ゴールらしきものはまったく見えない。
時計を見ると、午前7時になろうとしていた。
タイムリミットまであと1時間。
あと1時間で2キロ!!!!
できるか???
この足は最後まで持ってくれるのか??
あと1時間。
あと1時間以内に、果てしなく続く道のさらに向こうにあるゴールに辿り着けることが本当にできるのか???
ここまで来てタイムオーバーなんてイヤだっ!!!!!
何としても時間内にゴールする!!!!
気持ちは高まってきているが、実際にはかなり遅いスピードなんだよな。
後発のパーティにどんどん追い抜かれていくし。
自分が歩く道が延々と照らされることがどんなにつらいことなのかがわかる。
でも、後ろにはさゆりがいる。さゆりがきっと来る!!!!
せめてそれまでは距離を稼いでおこう。たった1歩であっても進んでおこう。
ほどなく歩くと、遙か彼方の道が遙か彼方でない道になっていた。
向こうから誰かがやって来る。サポートさんかな???
ゴールが近いんで励ましにきてくれたのかな??
いや、違う。
あれは・・・もしかして・・・す~さん!!!!!????
マジ??? どうしたの、す~さん???
なんと彼は午前3時過ぎにはすでにゴールしており、オレたちを応援するために、わざわざ駆けつけて来てくれたのだ。
手には何本もペットボトルを抱えている。
「水飲む?? 大丈夫???」
す~さんは優しく気を使ってくれたが、今は立ち止まって水を飲めない。
その時間すら惜しい!!!!!
「この道を突き当りまで行って、左に曲がればもう500メートルでゴールだよ!!!」
えっ?????
この道が終わって、さらに500メートル先にゴールなの???
と、遠い!!!!
あの1キロの長さを体感しただけにその半分の長さでもかなりの距離に感じられた。
100キロって何て長いんだ!!!!
今頃になって実感したりして。
「ちょっと、さゆちゃんの様子を見てくるね♪」
す~さんはそう言って更に後ろに走っていった。元気なおっさんだなぁ。
「あぁ!!! す~さんだぁ!!!」
さゆりの声がすぐ後ろから聞こえた。
んんん??? なにっ!!!!!???
さゆりはもうすぐそこまで来ていたのか???
あああああぁぁぁ!!!!!
今、さゆりに追い抜かれたら、ゴールまで着いていけない。
さゆりに着いて行きたい。
何とか頑張らないと!!!!
頑張らないといけないけど、もう身体は頑張れない!!!!
0.1秒でも早く進みたい。
0.1センチでも遠くに歩きたい。
多分。オレは鬼のような形相をしていたんだろう。
第5チェックポイントではウマのような形相だったのに。
ひひぃぃぃぃーーーん!!!!!!
す~さんが再びオレのところに来て、荷物を持ってくれた。
ホントにありがたかった。それだけで随分と身体が軽くなった気がした。
チカラがほんの少し湧いてきた気がした。
ほどなくして、オレはさゆりに追いつかれてしまった。
嬉しいやら、悲しいやらでオレはさゆりを見れなかった。
頑張ったねぇ、さゆり。
よく頑張ってくれたねぇ、さゆり。
しばらく歩くと遙か彼方の道が終わり、左へと曲がって歩いた。
す~さん情報によれば、あと500メートル。
時間は7時30分になろうとしていた。
あと500mを30分で。
オレは何度も時計を見た。オレは何度も前を見た。
市街地に入り、歩道があったり無かったり。段差があったり無かったり。
これが意外にきつかった。歩道分の高さにすら足がついていかない。
足が痛くて、すり足で歩くから、上下の運動ができないんだよ。
アスファルトの白線分のほんの数ミリの凸凹さえつらい。
段差に気をつけながら、バランスを崩さないようにしながら、時間を気にしながら、す~さんに励まされながら歩いた。
正直なことを言えばここからの記憶は断片的にしかない。
さゆりが先に歩いていったのかもわからない。どこをどうやって歩いたのかもわからない。
ただ、言われるがまま進んだ。ただ、促されるままに進んだ。
市街地に入ると景色が変わる分だけ気分転換ができる。しかし、オレは顔を見上げて先を見る気力がない。足元の凸凹に注意してゆっくりゆっくりと歩いていた。
すべてが終わる。
長い物語が終わる。
果てしない道のりが終わる。
何も感じることも、考えることもできない状態だったけれど、とにかく何かが終わることだけはわかった。
最後の曲がり角を過ぎると、ゴールが見えてきた。
24時間前にスタートした場所が見えてきた。
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第1章 (35キロ地点まで)
第2章 (48キロ地点まで)
第3章 (53キロ地点まで)
第4章 (58キロ地点まで)
第5章 (63キロ地点まで)
第6章 (70キロ地点まで)
第7章 (75キロ地点まで)
最終章 (ゴール地点)
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