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2024年2月の記事一覧

詩「生きる」

詩「生きる」

言葉も足も失って
心ばかりが異常なくらい
重い水を掻いています
私の指の間には金剛石の粒がまとわりついて
背中のこわばった筋肉は
床から剥がれそうにもありません

頭蓋骨と肩は疲れ切って
ゆくゆくは魔女の悪戯で
私の体もオシマイですか
私みつけました
涼風に玉簾が透けるような
あなたの背中を

私の冷え切った肩に
常夏のあたたかな雲を一切れ
あなたの手によって掛けてください
まもなく虹色のお掻取に

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詩「無題」

詩「無題」

土の湿りは曙色
草の輪郭は朧げ
月吹く風は甘口
花下は恋の触り

人間の祭

いよいよあの季節です
あなたが好いと肯定した季節
私が「断然道明寺が好きだ」と判別した季節
あなたは長命寺がお好みですか

何もかも忘れた私
くだらなさに涙して切なさにはにかむような
ちぐはぐを脳のしわに吸いこませ
白い歯をころりとこぼし
花の影絵をそばかすに落とす

私の好きなあなたは
私のことが嫌い
あの日の目眩とこ

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詩「閨」

詩「閨」

いつでもわたしは羽化できるのに
いつ迄も朝靄と宵闇を重ね着している
春光眩しく未だ蛹の中の温もりを愛す

その衣擦れが何者かの生きた証
メジロがワルツを踊る花間よ
また閨中にて朝の終わりを迎える

むめの香の重なりがわたしの羽化を誘う
見上げると春の風が巡り
翡翠色の心に「命なりけり」を知らせる

詩「或る春」

詩「或る春」

いつか僕らは遠くで見つけ合って
小さく手を振ったりしたね
君の「おはよう」って
やっぱりちちんぷいぷいだったんだ
そのときのささやかな喜びは
檸檬のしぶきが空間に満つるようだった

君が薦めてくれた本
おまぬけな大人たちに没収されない程度に
授業も聴かずに読み耽ったよ
大切なことを選べる僕は何にも屈しない
非情な物語を君はユーモアだと笑ったね
君の笑顔は青葉の風のそよめきだ

夕焼け染めた電車に乗

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詩「春一番」

詩「春一番」

いつかあなたの背中を撫でた
春一番が今日も吹く
スタインウェイの音の粒立ちは
水面の煌めきの真似事をしていた
蝋梅の香りと蝶道の交わるところに
わたくしたちはいるのです

風ってとてもおそろしい
トタン屋根を剥がして
銀河の目玉へ巻き上げるのだから
髭を蓄えたおじさんが
ずっとわたくしを見ているから
わたくしも見返してやるの

いつかあなたの背中を撫でた
春一番が今宵も吹く
夜よ更けよもっと更けよ

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