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【読書感想文】レモンと殺人鬼/くわがきあゆ ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

このミス大賞も取った話題作。
タイトルに申し分ない展開が繰り広げられる、傑作ミステリーです。


次から次へと襲い来る、容赦ない悪の運命

主人公は小林美桜。派遣社員として働く彼女は、現在大学の事務所を職場としていました。
しかし、彼女の心境は穏やかではありません。幼い頃に父親は当時14歳の少年によって殺害されてしまったのですが、その犯人である佐神翔が出所したという情報が舞い込んできたのです。母親はその後失踪して行方不明となってしまい、残された家族は妹の妃奈だけ。ひっそりと暮らしていたかった美桜ですが、心がざわつくのも無理はありません。
悪いことは続くもので、働いている大学にかつて美桜をいじめていた海野真凛という女性が在籍しており、美桜を見かけては遠目から笑うということを繰り返していたのです。いじめといっても歯並びをからかう程度のことでしたが、中学生にとっては相当嫌な思い出ですよね。真凛に関しても、その頃から何ら変わっていないようです。
追い打ちをかけるように、唯一の肉親の妃奈が山で遺棄死体となって発見され、更には保険金詐欺に加担していたのではというニュースが報じられてしまう。そこからはマスコミの執拗な追跡に遭う羽目に。
序盤から、これでもかというほど美桜に災難が降りかかってきます。

現れた救世主は意外な人物

妃奈がやっていた(という噂の)保険金詐欺に遭いかけたとコメントしていた銅森という男性にコンタクトを取りに来た美桜でしたが、例の週刊誌記者に目撃されてしまいます。追い詰められる美桜に救いの手を差し伸べたのは、渚丈太郎という青年でした。
渚は、実は真凛の恋人。彼が何故?と当然疑問に思う美桜でしたが、ジャーナリスト志望である彼は「妃奈は絶対に詐欺はしていない」と確信を持っているようでした。彼の自信に圧倒されながらも、美桜は一縷の望みをかけて真相を突き止めることを決意したのです。
渚の行動力は素晴らしく、銅森やその右腕の金田の情報はもちろん、卒業アルバムや住所録まで手に入れています。また詐欺事件の被害者とされている男性の情報も手に入れたり、ジャーナリスト志望の名に恥じない力を発揮していきます。
ただ、そんな美桜たちをよく思わない銅森たちの妨害にも遭い、遂に相手は実力行使にも出てきます。やはり何か知っているのか?疑念は膨らむばかりでしたが、そこから予想外の真実を知ることになるのです。

幼い頃の回想、それはレモンの香りと共に

時系列は現在の話がメインですが、途中で幼い頃のお話が差し込まれます。
小林家は父親が【グリル那見】という洋食屋を経営していました。料理の味は文句なしなのですが、立地があまり良くなくお客さんも少ない様子。
何か店の看板メニューとなる料理をと考え出したのが、チキンのレモンソテー。これが見事に的中し、取材で取り上げられるなど一気に有名になりました。
料理は父親がほぼすべて賄っていましたが、時折手伝うこともあった様子。『お前が搾ったレモンは格別においしい』と父親に褒められ、誇らしい気持ちにもなっていました。褒められるため、いつもけなげにレモンを搾っていたのです
そしてある日、蓮という男の子と出会います。中学生だと言う彼と親しくなり、時間を過ごすうちにほのかな恋心までをも抱くように。放課後のちょっとした時間におしゃべりするだけでも、楽しいと感じるようになります。
――なんて、甘酸っぱい青春物語で済む訳もなく。
この回想録にも、最後に大きなひっくり返しが仕掛けられています。

何が真実で何が虚偽か、二転三転する真相を見抜け

美桜が銅森と接触してから、次々と事件が展開を見せていきます。
妃奈と銅森の関係、そこから繋がる妃奈の行動の真実…すべての点が線となっていきます。
ですが、そこから登場人物の素性や本性が次々と暴かれることになっていくのです。それは美桜もそうですし、真凛も例外ではありません。散々馬鹿にしていた真凛は、いつの日からか美桜を無視どころか拒絶するようになります。無視ではなく拒絶、それは何を意味するのか。
また今度は、行方不明になった美桜の母親が遺体となって発見されました。自分以外の家族が殺された今、次は自分なのでは。そしてその犯人は、父親を殺した佐神なのでは…美桜の不安は膨れ上がる一方です。
そんな中、事務所で仕事をなんとかこなしていたある日。
想像もしていなかった真実を、美桜は知ってしまうことになったのです。
すべてを覆すその真実から、話は一気にクライマックスへと突入します。

レモンの香りを吹き飛ばす、血なまぐさい怒涛の展開へ

作品のタイトルが、ここから一気に回収されていきます。『レモンと殺人鬼』、何とも言い得て妙なタイトルだと感心してしまいます。
しかし終結に向けての怒涛の展開は、レモンの爽やかさすら吹き飛ばしてしまうほど真っ赤に染まっていきます。殺人鬼の意味を知った時の驚きに、強烈なインパクトを残されます。
すべての伏線を回収し、物語は幕を下ろす。その瞬間まで、目を離せなくなります。

強烈などんでん返しがいくつも待ち受ける、予想外れを楽しむミステリー

盛り込まれているどんでん返しがあまりにも強烈すぎるので、例え予想が外れていても最早楽しくなってきます。
また登場人物のほぼ全員が闇や後ろ暗いところを抱えており、誰もが疑わしく見えてしまいます。それも予想を外す要因の一つであると言えます。
ただこういう話だと出てくる料理への食欲がなくなったりすることが多いですが、このお話に関してはチキンのレモンソテーやバターチキンカレーが食べたくなってきます。美桜には悪いですが。
何はともあれ、この強烈などんでん返しも是非味わってみてほしいです。
ではでは、また次の投稿まで。



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