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とある別れの言葉

まずは、俺の連絡を快く受け入れてくれてありがとう。

返事はいらないと言ったのに、優しい君は返事をくれた。
勝手な事を言えば、
返事をしてくれるんじゃないか、なんて淡い期待があったのも事実。
君はそんな人だと、俺は充分わかっているつもりだから。

連絡を取らなくても、連絡を取ればいつでも話せたもんな。

君が優しいから、いつまでだって俺は話をしようとしてしまった。


正直なところ、もう、決して会わない方がいいと思っている。
だから、あんな連絡をした。

いつかまた、もしもどこかで会えたら、と君は言ってくれた。

俺も、本当はいつかまたもしもどこかで会えたら、君に会ってみたいと思っている、……… 思ってた。

けれど、もしも会ったところで、
俺はもう、あの頃の俺じゃない。

君の好きなケーキを一緒に食べて、
おいしいね、って心から言ってやれる俺じゃない。

君が大好きなあのケーキ、俺も一時期大好きになった。
嘘じゃない、本当だよ。

本当は、ずっと前から似たようなケーキは好きだったのかもしれない。
でも、それは君が好きなケーキとは少し違うものだと俺はわかっていた。

俺の好きなケーキを、おいしいねって君が言ってくれた。
……これは嘘だな、その味を君に教えたことはないから。
その違いは、洋酒が入っているかどうか、みたいなもんかな。
俺が好きなケーキに似たものを、
君は勘違いしておいしいねって言ってくれたんだ。
だから、俺もついつい、そんな君に少し合わせてしまった。


今の俺は、これ以上自分を曲げない方がいいと思っている。
今、俺がやるべき事とかやらなきゃいけない事のために、
そして、これからの自分のために、
少し荒治療が必要なんだよ。


勝手に曲げておいて、勝手な言い草だとわかってはいるけれど。


もしもいつかどこかで君に会って、
一緒にあのケーキを久しぶりに食べませんか?ともしも言われたら、
君にどんな返事をしたらいいのかわからない。

だから、君が教えてくれた新しい連絡先に、俺は連絡をしない方がいいと思う。


それに、君には、君が大好きなケーキを本当においしいねって一緒に食べてくれる人がいるのを知っている。
君と同じくらい優しい人だ。
少しだけその人を知っているから、わかるよ。

そう、君らのことを知っているから、
君には俺なんて徹底的に必要ないって思って別れの連絡をした。
嫉妬なんかじゃない。
気が合う者同士で一緒にいるのが一番だ、本当にそう思う。

君は優しいから否定するだろうけど、
君に、今の俺は必要ない。

必要ないのに、繋がっている必要なんかもっとない。

そうだよな?



……なんて、きっと数日したら、
君のことを探してしまうかもしれない。
俺の居場所をあっさりと知らせてしまうかもしれない。

正直、今の俺には、どっちがいいのかわからない。
最後の返事をこうして迷っている。

けれど、こうして君に向かって届かない手紙を書いていると、少し先が見えた気がする。


本当に縁があるなら、いつかどこかで知り合う機会があるだろうか。

そうしたら、四の五の言わず俺から声をかけると思う。


今まで本当に、ありがとう。

君と、その優しい相手と俺の同窓会なんて、必要ないよな。
あの時は楽しかった、本当に楽しかったよ。

でも、俺とその人は、それこそ繋がっちゃいけない。
似ているようで、実は水と油みたいなものだと思うから。



じゃあ、これで。

……こんなふうな手紙、実は、かなり昔に書いたことがある。
その頃はまだ会っていなかった君に向けて。

変わらないもんは、やっぱり変わんない。


願わくば、
俺のことは忘れて構わないから、
あの月夜だけ微かに覚えていてくれたなら。

あの月は、実は俺が昔の敵討ちをするためのものだったけれど、
澄んだ夜空の空気のような君なら
「綺麗だね」って言ってくれるんじゃないかと信じて、
俺がわりと本気になって精いっぱい用意したものだから。


………頑張るよ。
君がいてくれたことを決して忘れないで。

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