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生配信が広げる落語の可能性

殆どの落語会が中止され、寄席までが休席となってからひと月が立つ。

落語家、みんな困っている。
2月までガンガン働いていた人なのに、3月以降の仕事がない。
収入が絶たれる。とてつもなく辛い、
落語がしゃべれないのは、もっと辛かったりするかもしれない。

そんななかで注目を集めているのが「ネットによる落語生配信」だ。
この間、数多くの落語生配信番組がネットで展開されているが、特に規模の面で代表的なものを紹介したい。

■春風亭一之輔チャンネル 10日間無料生配信

本来であれば上野鈴本演芸場で一之輔が主任(トリ)をとるはずだった4/21~4/30の十日間に、トリが上がる頃合いの20:10に配信を開始、21時頃まで高座を務めるという趣向。

初日、黒紋付に袴姿で登場した一之輔の高座には、生配信らしくその日の出来事を織り込んだマクラから『初天神』を改作した『団子屋政談』。
いつものふてぶてしさとクールさの裏に、久しぶりに高座に上がれる喜びに溢れる素晴らしい高座に、なんと1.3万人が同時視聴。できてまだ5日しか経ってないチャンネルだというのに。

10日のうち4日間は「払いたいという人がいるので」投げ銭システム「スーパーチャット(スパチャ)」を採用、けっこうな人数の客がチャット画面に金額を入れていた。撮影は9日目まで神保町らくごカフェで行われ、この日の投げ銭収益の一部はらくごカフェに寄贈されたという。

千秋楽・10日目の高座は上野鈴本演芸場から放送。高座の佇まいとお囃子の音が嬉しい。噺は上野にちなんだ『花見の仇討ち』でめでたくお開きとなった。

10日の間毎日1万人が生配信落語を楽しんだあとで、アーカイブで後から楽しむ人も続出。チャンネル開設17日にして、登録数4万人、再生数累計100万を超えた

なんと読売新聞の社説にまで取り上げられている。

■ABEMA寄席


5/2(土)ABEMA TVで放送された、落語協会所属・総勢10人の芸人による5時間の落語生中継・無料配信。まあとにかくメンバーが豪華。ちょっと書き出しとこう。

春風亭三朝『牛ほめ』
三遊亭歌奴『佐野山』
柳家はん治『妻の旅行』
桃月庵白酒『笠碁』
三増紋之助 曲独楽
入船亭扇遊『人形買い』
古今亭志ん陽『猫と金魚』
林家彦いち『神々の唄』
柳家喬太郎『路地裏の伝説』
隅田川馬石『王子の狐』
柳家小菊 粋曲
柳家さん喬『幾代餅』

これを自宅で、しかも無料で楽しめるとは、時代が変わったなあと思った。

白バックの映像はやや目にきつかったが、曲独楽と粋曲も入ってさらに寄席らしい雰囲気。お囃子の三味線と太鼓の音も実に鮮やか。どの芸人も無観客にやや戸惑いつつも、しっかり熱の乗った高座で、期待以上に楽しませてもらった。

特筆すべきはやはりアクセス数で、トリの柳家さん喬『幾代餅』では同時アクセス21万件。いかに無料とはいえ、これは快挙といって差し支えないだろう。

■文春落語 柳家喬太郎

こちらも当代きっての売れっ子柳家喬太郎の独演会。

木戸銭たったの1,000円とはいえ、有料生配信で2日間でのべ2,000人を集めたことはやはり特筆に値する。配信にはZOOMを利用。僕が視聴した初日は音声にノイズが乗り、映像が微妙に遅延したのが残念だった。キョンキョンは絶好調だったのに。2日目には大幅に改善されたとのこと。

■生配信の規模が急拡大

以上3つの会は、それぞれの集客数で画期的な成果を上げている。
特にABEMA寄席は、コメントなどを見た限り「落語初体験」の視聴者を多く巻き込んでいると思われ、興行が再開されたときに新しい客になってくれる可能性も出てきた。

他の芸能同様に、いま、落語会は、大ピンチだ。
いつまでこの状況が続くのか全く見えないし、仮に緊急事態宣言が解除され、落語界が再開できるようになったとしても、果たして客足が戻るのか、落語で食っていけるのか。

そんな状況の中で、落語が人々に忘れられないように、そして少しでも初心者を巻き込むために、いま、生配信が行われる意味はとても大きい。

また「生配信」という新しいプラットフォームを得た落語家たちが、新しい落語表現・新しい技を編みだすことにも期待したい。その昔、上方では寺社の境内など屋外で行われていた落語が、江戸に移植されるときにお座敷の芸になり、さらに寄席が生まれ、大ホールでも演じられるようになり……。落語は時代と場所・メディアの変容に応じて進化してきた。いや進化ではない、継承すべき伝統を引き継ぎつつ、その概念を拡張してきたのだ。

だから生き残った。大衆芸能なのに、時代の荒波を乗り越えてきた。
時代はいま急展開している。もっともっと、いろんな落語が生まれてこなければいけない。
引き継ぎながら発展させる。それが落語家の仕事だ。

最後に春風亭一之輔の言葉を引用しておく。

「絶対生で聞いたほうがはるかに面白い。実際、寄席に足を運んでもらうのが一番ですが、(配信も)両輪になるかもしれません。(コロナが)収束しても生配信で聞いてもらう手立ては残した方がいいのかなと思います」。

なお、今後の落語配信についてはこちらのページを参照していただきたい。


ほんとはもう一つ紹介したい会があるんだけど、長くなったのでとりあえずこのへんで。

追記 続編こちらです


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