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頭上に檸檬、ぼくのレモン

夏が近づくとふと読み返したくなる小説がある。1つは「風の歌を聴け」、夏の熱気を含んだ部屋で網戸風に当たりながらこれを読みつつ飲む缶ビールは至高である。もう1つは「城のある町にて」、梶井基次郎短編集、表題「檸檬」の2編目に当たる短編である。主人公である峻(たかし)が

一つは可愛い盛りで死なせた妹のことを落ち着いて考えて見たいという若者めいた感慨から(略)五七日を出ない頃の家を出てこの地の姉の家までやって来た。

城のある町にて(檸檬p23)

そうして過ごした夏のひとときのことが描かれているのだが題にもある城跡で夕涼みをしながら眺める景色や人々の表現などが、恰も自分もそこにいて城跡の高台から夏のノスタルジックな城下の町を眺めた気になって何とも言えない気持ちになる。読みながらそこにいるような気がして、黄昏近くの町のあちこちを眺めては夏を感じることができる。チュクチュクチュク」「オーシ、チュクチュク」とツクツクボウシのなく情景が描かれているのだから、晩夏なのだろう(ところで今ツクツクボウシと何度も書くには些か長い名前なので、漢字の表現はないだろうかと調べてみたら、なんと、つくつくぼうしの当て字は”寒蝉”と書くのだそう。あまりにも直球すぎるその名称に僕は初めて、この夏の知識だけはいらないと思った。そしてすぐあとに法師蝉という名称がはっきり書かれていた。そのくらい知っていたのだ。つくづく…)、しかし子どもたちは元気に晩夏など関係なく米つきばったを捕まえたり、蝉を取ったりしている。蝉を取るのは蝉取竿と書かれているが、一般の虫取り網となにか違いはあるのだろうか?あるのならさぞセミ取りに特化したものになっているのだろうと思うが、あえて調べることはしない。何事にも多少の余韻は必要なのだ。

そして城の向こうには海が見えるのだという。僕だって、出不精の僕だって、もしもそんな町を見渡せるような素敵な城跡があり、またその向こうに大海原が見えるのなら、毎日だって暑気を払いに足繁く通ったに違いない。残念ながら鹿田の住むところは四方八方山に囲まれた四面楚歌である。なので籠城するしかなく出不精をやむを得ず保持しているのである。
その後の章も夏を感じさせる話が多々あり、もしも檸檬しか読んでいない方はぜひ、「城のある町」にてを読んでみてほしい。

そんな風にため息を吐きつつ読んでいるが、読んでいるのは実は「檸檬」ではなく「梶井基次郎全集」である。僕は檸檬と城のある町だけを読んでは興味をなくしてどこかにやるということを繰り返し、無駄に「檸檬」を数冊把握しているのだが、梶井基次郎の小説が少ないということもあり(長編もない)、これまでの「檸檬」(実質檸檬と城ある※みんな”城ある”と略してみよう、人はなんでも略すだけで好意を持てる短絡な生き物なのである)の供養の意も込めて今読書欲が吹き迸るこの時期に制覇してしまおうと企んでいるのである。「僕は一人の作者の本をすべて読破したことがあるよ」このセリフは読書家のだれもが憧れる常套句に違いない。言いたいならばみな、「梶井基次郎全集」を読め!

とま、本を読んだところでまったくもって精神的成長の欠片も見せないバカだが、そもそもバカを公言しているので鹿田は屁でもないのだ。参ったか私。そうでなくても多分読書家のひとなら贔屓の作家のひとりやふたりはいるだろうし、現時点で出版されてたすべての本を読んでいるというひとなどザラに居るだろう。僕とて完読ではないが、中村文則さんの本は6割程度呼んでいるし、ありがちだが村上春樹であれば全集の上半期下半期アンダーグラウンドを抜けばすべて完読しているのでその時点ではほぼ完読であった。

ま、動機はともかく梶井基次郎の素敵な文章をぜひ読んでほしいと思うのだ。その道のプロの評を読むと梶井基次郎の作品など取るに足らんと言っている人もいる。しかしその人はその人である、鹿田は広範囲を網羅し本を読んでいるわけではない、素敵だなと思ったあらすじや、表紙や、だれかの言葉がその選択方法の全てである。それを偏りととるか、妥当と取るかの違いでしか無い。だから僕は胸を張ってすすめる。特にそこの鹿田に感化されつつある憐れな夏バカ、読むがよろしい。飛ぶぞ!

あ、それから小説的に前に戻るが檸檬。僕は最初はやはり真っ当に檸檬のユーモアに惹かれて本を買った。檸檬には多種多様な檸檬の活用法(?)が描かれているが、実際梶井基次郎は檸檬が好きだったらしい(参考:wikipedia)。そう思って読むとなお、うかれて檸檬を乗せた様子が目に浮かび可笑しくなってしまう。また、知った場所にいるのに、その地を他の行きたい地域に見立てて、行った気持ちになって過ごすなど片鱗になにか似たものを感じるのである。そういうことからも梶井基次郎の正体を知るために、全集をじっくりと読んでみたいと思うのだ。そして僕にとっての檸檬とはなにか、または僕にとっての丸善の積み重なった絵画集の上に乗せる檸檬の意味とはなにか。


とま、今日も話したいことを話したいだけ述べたので、ここで終わる。

またね。

【追記】いつもスキありがとうございます🐜



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