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なあ、月

気を抜くと四方八方から秋の気配が生じ、一時も緊張を解くことなく一日を生きたハードモードの鹿田だ。年中鼻炎の嗅粘膜を物ともせず、金木犀の香りが届く。こんなことなら稲花粉のアレルギーも欲しかった!などもはや本末転倒である。

鹿田です、よろしくね。せめて過敏に働く感覚を麻痺させようと今日も発泡酒を煽り飲む。うめぇうめぇとよだれを垂らしてはnoteを書き込んでいくこのひと時を除けば、鹿田の日常に幸せはもうない。セミはまだ鳴いているが虫眼鏡でその表情をよく見れば、諦めと惰性がはっきりと表れている。

(ミーンミンミン…ミ…ンミン、だりぃ)

前足で鼻をほじくっては諦観の境地にあとは野となれ山となれと思っているようだ。しかしバカな蝉君、夏の次は秋で、その後は冬なのだよ。空を向けた腹に積もるのは枯れ葉でもなく雪だ、深々降る雪だよ。まあその前に君たちは食物連鎖に例外なく埋もれ、蟻か何かに食われては存在がこの世から抹消してしまうのだが。それも含めての諦観ならば土下座して「御見それしました」と申し上げてやってもいいが。

「虚しい」と言いかけてビールを煽る。いや、この行では言ってしまっているが、この虚しいは文としていわば説明の為に表記せざるを得ない「虚しい」だ。そこのところよろしく。いやあ、良かった、思わず口から吐き出していしまう所だった。

僕の活舌の悪い口からもしも、もしもだよ?「虚しい」が吐き出されていたとしたらどうだったろうね。そっとパソコンを閉じて惚けてしまうかもしれない。活舌の悪さを含め忠実に再現するなら「むなthイぇ」だ。(なかなか鹿田語の発音は難しい。)ビールさえこれ以上飲めないかもしれない。手さえ伸ばせないぼーっと視点を空中に浮遊させたまま冷汗の滴る缶ビールを見つめてぼくは、とうとう声を出す。

「あっ」

「むなthイえ…」

はぁ

大きな、それはそれは大きなため息をつくことだろう。さて、ここまで10秒。問題はその後なのだ。3、2,1 アクション

「まいっか、ビールのも♪」

果てしの無いこのループである。自分自身の事でありながら己の異常なプラス思考が末恐ろしい。そんなものだから日々反省など上の空で夏のことや読んだ本のことなどを思春期の少年少女よろしく考えているのだ。上の空は他人が見たらただの青と白の世界かもしれないが、僕がふと見上げればそこには薫風香る壮大な夏の草原が広がっている。目を閉じてごらん。ずっとザ―――って強い風が吹いているから。その中にずっと立っていたくなる。一歩もここを動きたくない。強い風の心地よさは素晴らしいけれど、その反動も大きい、一種の薬物だ。風を無くした後の疲労感はそれこそ「虚しい」

ならば、その心地よい夏風の、永遠に吹き交う場所はどこなのだろう。そこは、目を閉じた世界にしかない夢なのだろうか?自らのこの足をそこに運ぶことはできないのだろうか。

ザザ――――――――――――――――――――――――――

疲れないんだ。心地よくて、目を瞑り、ずっとその青々とした背の高い葉たちと一緒に草原になって、風に吹かれていたい。ああ、この気持ちはなんていうのだっけ?

ザザ――――――

遠くの木も揺れていて、それはまるでスローモーションだ。時間がゆっくりゆっくりと刻む。こんな心地いつぶりだろう?

って。

一本の発泡酒で、ここまでトリップできたなら安いもんだ。こんどは、酒を飲まずに行ってみたいんだよ。なあ。(ほら、また知らない誰かに僕は同調を求めてる。いつでも求めてる。それはなんでだろう、そしてそれはぼくだけだろうか?)

なあ。の心地よさ。

草原の中にいるといつも、少しふざけた風が行き交う。まだ草たちが僕の背より高かったころの話だ。いつも最後は、出口に連れて行ってくれたっけ、なあ風。なあ空、なあ夏、なあ月。

ははっ、空で笑ってらあ月のやつ。え、ぼくはちっともこっぱずかしくなんてないよ。お前こそ、揺れた感情隠したくて、僕のせいにしてんだろ?早くおりて来いって。

てなことで、あとは月と2次会になるみたいだからさ、この辺で閉じるよ。

またね。

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