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Godivaのロゴにある「王道感」は、ローマ帝国由来の書体“Trajan”

ビジネスに使えるデザインの話

デザイナーではない方に向けた、ビジネスに役立つデザインの話マガジン。グラフィックデザイン、書体から建築まで扱います。毎週火曜日7時に更新。


ベルギーのチョコレートブランド「Godiva(ゴディバ)」

By http://www.godiva.com/assets/pdfs/CorporateSpringCatalog2010.pdf, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=25961866

Godiva(ゴディバ)は、ベルギーのチョコレートブランド。創業は1926年で現在本社はアメリカ合衆国ニューヨークで、トルコの財閥Yıldız Holdingと韓国のMBK Partnersが共同経営しています。

日本語での表記は「ゴディバ」。ラーメンズというお笑いコンビが、ネタの中で「問題。甘くてかわいいくせに、悪の組織みたいな名前なのは?」という問題の答えにも使っていました。答えは「ゴディバ!」「怖い!」と。

ゴダイヴァ夫人と覗き屋トム

Lady Godiva, 1898 painting by John Collier

ゴディバのロゴに関しては、シンボルマークに使われている「ゴダイヴァ夫人(Lady Godiva)」についても触れたいところ。簡単に済ますと11世紀のイングランドの伝説です(実話とは異なる)。夫のレオフリック伯爵がコヴェントリーという街に厳しい政治を行って街の人々を苦しめていました。それをやめてくれとレオフリック伯爵の夫人ゴダイヴァが嘆願すると「裸で馬にまたがって街の端から端まで駆け抜けろ。そうしたら言うことを聞いてやる」と応えます。それに従ってゴダイヴァ夫人は裸で馬に乗って街を駆け抜けるも、街の人々は目を伏せ、彼女の裸を一人を除いて見ようとしませんでした。一人だけゴダイヴァ夫人の裸を覗いたのがトムであり、この伝説から覗き見する者を「ピーピング・トム(Peeping  Tom)」という呼ぶようになりました。日本でいうところの「出歯亀」。

Godiva(ゴディバ)のロゴ

Godivaのロゴはおそらく2,3回ほど変更されています。この辺ちょっと曖昧なのでそっとしておき現在のロゴとその一つ前のロゴについて触れていきます。

ひとつまえのGodiva(ゴディバ)のロゴ

https://worldvectorlogo.com/ja/logo/godiva


現在のGodiva(ゴディバ)のロゴ

By http://www.godiva.com/assets/pdfs/CorporateSpringCatalog2010.pdf, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=25961866

この2つ、実はベースは同じ書体です。その書体とは、Trajan Pro(トレイジャン、プロ)。

By GearedBull at English Wikipedia - Transferred from en.wikipedia to Commons., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3863955

Trajan Proは、デザインされたのは1989年で、デザインしたのはアメリカ合衆国のデザイナーCarol Twomblyさん。アドビのために制作した書体です。

Carol Twombly https://alchetron.com/Carol-Twombly

このTrajan(トレイジャン)という書体は、トラヤヌス帝記念柱に刻まれた碑文を忠実にフォントにしたものです。トラヤヌスの記念柱とは、イタリアのローマにあるモニュメントで、ローマ皇帝トラヤヌスのダキア戦争での勝利を記念したもの。建設されたのは113年。

CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=175358

ローマ帝国での建造物に刻まれたローマ字は美しく2000年経った現在でも、その美しさはそのまま機能しており、この碑文のプロポーションを使った書体Futuraはルイヴィトンを始め、多くのブランドやメーカーで使われています。

TrajanやFuturaにある王道感の秘密

Trajan(トレイジャン)とFutura(フツラ)は、共通してトラヤヌス帝の記念柱の碑文をベースにしています。この碑文の特徴は(1)SとEの幅が狭く、(2)NやMは幅が広く、(3)Oが正円に近い。

加えて、碑文は文字間が広い。このプロポーションと書体を文字間を広くして組むと堂々とした「王道感」が現れてきます。これに王道感を感じるのは、ローマ字を使う文化圏の人たちでしょう。2000年近い年月を経てなんとなく感じる文化的なニュアンスですから。

Godiva(ゴディバ)は、この王道感を保ちつつ、現代的に進化していることを伝えるためロゴを変えた

Godiva(ゴディバ)は、2005年頃にTrajan Pro(トレイジャンプロ)ほぼそのままだったロゴから、そのロゴのセリフ(文字の先っぽにある鱗のようなもの)を取りはらったロゴへ変更しました。

から

これへ。これは何を意図してか?前回、Aesop(イソップ)のロゴの話のときにも少し触れましたが、セリフと取ると「現代的」、「洗練された」というニュアンスが生まれます。しかし引き換えに「オーセンシティ(本物感)」や歴史がありそうな気配は減ります。このような駆け引きをして、Godiva(ゴディバ)は、単に歴史あるチョコレートブランドではなく、アップデートも現代でも魅力あるブランドであろうとしている姿勢を内外に伝えています

世界的に展開しているブランドであれば、ロゴの変更にはかなりのコストが掛かります。にもかかわらず変更するのは、生き残り、さらに反映するための掛けに挑んでいるからです。漫画『インベスターZ』のなかで亀山敬司会長が、「リスクと取らないリスク」について触れるシーンがあります。

なので、あるブランドやメーカーがロゴを変えるというのは、一つの大きな挑戦をした証とも言えます。かるがゆえに、ロゴを変えたブランドがあれば、「なぜ、どう変えたのか?」というのを見ていくのも物語が見えて面白いかもしれません。これからもそんなブランドとロゴを紹介していこうと思います。

まとめ

現在のGodiva(ゴディバ)のロゴにある王道感は、トラヤヌス帝の記念柱の碑文をもとにしたTrajan Pro(トレイジャンプロ)という書体をベースにして、碑文らしく文字間を離していることから生まれ、現代的な洗練さは、セリフを取り払うというデザインが施されているためです。ちなみにショコラティエ(Chocolatier)の部分の書体は、Cochinという書体がベースになっています(「h」の跳ねが加工されていますが)。

Cochin By Blythwood - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=34893501


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