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FF DINという書体(DIN Nextと違いも)

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています


映画とファッションと書体

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FF DINという書体

Source: www.instagram.com License: All Rights Reserved. via Fonts in Use

書体名:FF DIN(エフエフ ディン)
カテゴリー:サンセリフ体
分類:グロテスク
デザイナー: アルベルト=ヤン・プール(Albert-Jan Pool)
ファウンダリー:FontShop International
リリース年:1995年

FF DINは、工業的なスタイルの書体で、サンセリフ体のなかの「グロテスク(後述)」に分類されています。

ドイツの工業規格DIN(日本のJISのようなもの)の登録番号「1451」で定義されている書体、DIN-MittelschriftDIN-Engschrift(後述)をベースにして、アルベルト=ヤン・プールが1995年にデザインしました。

DINは、Deutsches Institut für Normung(ドイツ標準化研究所)の頭文字。ファウンダリーFontShopのFontFont書体ライブラリで公開されました。

FF DINは、高いエックスハイトと豊富なウェイトシリーズを備えた飾り気のない外観を持つのが特徴の書体で、非常に人気があり、書体販売サイト、MyFontsで最も売れている書体であり続けています。


アルベルト=ヤン・プール(Albert-Jan Pool)
By TypeParis/Albert-Jan Pool - https://www.youtube.com/watch?v=dVKAuDpVIYs, CC BY 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=110788666


サンセリフ体の分類のひとつ「グロテスク」

1890年代にH.ベルトルト社から発売されたアクツィデンツ・グロテスク(Akzdenz-Grotesk)。ドイツで人気のあるグロテスクで、'g'が一階建て。
By Devanatha - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=60804158

サンセリフ体のなかにいくつかある分類のうちのひとつ「グロテスク」は、19世紀から20世紀初頭の初期のサンセリフ書体のデザインのほとんどがこれに分類されるものです。

グロテスクは、見出しや広告に適した、非常に堅実で大胆なデザインであることが多い。初期のサンセリフ書体は、小文字やイタリックを備えていないことが多く、それはそうした用途には必要なかったからでした(本文用じゃなかった)。

グロテスク書体は、ストロークの幅のバリエーションが限られている(大文字では知覚できないことが多い)。

Stroke(ストローク)
Image source: typedecon.com

曲線の末端は通常水平で、多くの書体にはSpurのある「G」や脚がカールした「R」があります。

Spur
Image source: typedecon.com


大文字の幅は比較的均一。キャピタル(大文字)の高さとアセンダーの高さは一般的に同じで、大文字の多いタイトルのような文章でより規則的な見た目になります。ほとんどのものは本当のイタリック体を避け、より抑制された斜体や傾斜のあるデザイン(オブリーク)を持つ。

グロテスクな書体の例としては、Akzidenz-Grotesk、Venus、News Gothic、Franklin Gothic、Monotype Grotesqueなどがあります。Akzidenz Grotesk Old Face、Knockout、Grotesque No.9、Monotype Grotesqueは、初期のサンセリフ書体の一部の奇抜さを残したフォントです。

ドイツの書体メーカー、Monotypeによると、「グロテスク」という用語は、イタリア語の「洞窟に属する」という意味のgrottescoに由来ているとしています。この用語は、当時主流であったより華麗なモダンセリフ書体やローマン書体との比較から生まれた、幾分ネガティブなニュアンスを持っています。


DIN 1451

DIN 1451

DIN 1451は、FF DINのもとになっている書体でサンセリフ書体で、前述した通り、工業規格DINの1451に登録されている書体です。1931年にデザインされ、以来ドイツのみならず多くの国の道路標識や行政、技術用途などで、広く使われていました。

DIN 1451は、MittelschriftとEngschriftがあり、Mittelschriftが標準的な幅であり、Engschriftは狭い幅のバージョンです。

DIN 1451 Mittelschrift(左)とEngschrift(右)の両方の書体を使用したドイツの道路標識Engschriftとは詰めたという意味で、現在ならcondensedというバージョンです。
By Tage Olsin - Self-photographed, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=269254


FF DINの歴史

1994年にサンフランシスコで開催されたタイポグラフィ国際協会の会合で、プールは、ドイツのタイポグラファー、エリック・スピーカーマン(Erik Spiekermann)に出会い、スピカーマンが設立したばかりの活字鋳造所であるFontFontがリリースするDIN 1451の復活版をデザインするよう勧められました。

ドイツのタイポグラファー、エリック・スピーカーマン(Erik Spiekermann)(2020)
By Norman Posselt - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=102360213

DIN 1451の標準レタリングをベースとしながらも、FF DINにはウェイトが追加され、文字セットもはるかに豊富なものになりました。

スピーカーマンは2009年にFF DINについてこのように記述しています(※7)。
アルベルト(プール)によるこの企画の説明は、“レギュラーウェイトをさりげなく良い書体にすること”だった。彼はそれを見事にやり遂げ、オリジナルとまったく同じに見えるが、特に小さいサイズでははるかに良くなった。アルベルトはウェイトも追加した......FF DINはまるでDINが最初からウェイトを持っていたかのように見えるが、それはアルベルトが自分のエゴに邪魔されなかった結果だ」。


DINはさまざまなファウンダリーからリリースされている

じつはDINは人気があり、いくつかのファウンダリー(書体メーカー)からリリースされています。DIN Next(2009)、EF DIN 1451、PF DINなど。

そのなかでもFF DINがDIN 1451のウェイトバリエーションを展開したものであり、かつオリジナルに近いものです。

対して、Linotypeの小林章氏が、7ウェイト25書体で大幅に拡充し、Rounded(丸ゴシックのようなもの)を最初に展開したのが、DIN Nextです。


ファウンダリー、FontShop International

The logo of FontShop International – type foundry
By ™/®FontShop International - Vectorised by Vulphere based on https://web.archive.org/web/20140703231305if_/http://www.fontshop.com/education/pdf/fsfinalbook_single.pdf, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=102577164

ファウンダリー(foundry)とは「鋳造所」というい意味で、活版印刷の時代、文字を作るの方法が鋳造だったことに由来した呼び方です。

フォントショップ・インターナショナル(FontShop International)はベルリンに本拠を置く国際的なデジタル書体メーカー。最大のデジタル活字鋳造所のひとつです。

FontFontのフォントライブラリーには160人のタイプデザイナーによるデザインが収録されており、その中にはPeter Biľak、Evert Bloemsma、Erik van Blokland、Neville Brody、Martin Majoor、Albert-Jan Pool、Hans Reichel、Just van Rossum、Fred Smeijers、Erik Spiekermannといった有名デザイナーも含まれています。FontFontの目的はデザイナーによるデザイナーのための書体を提供すること

FontShop Internationalは2014年7月14日にMonotype Imagingに買収されました。この買収は、MonotypeがLinotype、Monotype、ITC、Bitstreamなど他の多くの大規模なデジタル活字小売業者を買収する一環として行われたものでした


FF DINはDIN Nextとどこが違う?

ベースは同じDIN 1451なのに、FF DINはDIN Nextとどこが違うのか。では見比べてみましょう。順にオリジナルのDIN 1451、FF DIN、最後にDIN Nextです。

DIN 1451

Image source: Myfonts.com


FF DIN

Image source: Myfonts.com


DIN Next

Image source: Myfonts.com

わかりやすい違いは、大文字と小文字の「C」「c」。

DIN 1451は、大文字の「C」のターミナル(文字の線の最後の部分)が水平になっているけれど、小文字の「c」はパックマンの口のように開いています。

DIN 1451
Image source: Myfonts.com
DIN 1451
Image source: Myfonts.com

これは視認性のためで、小さくなる小文字の「c」は閉じて「o」に見えないように開いています。この特徴はそのままFF DINにも引き継がれています。

一方でDIN Nextでは、Cが大文字でも小文字でも開いています。

DIN Next
Image source: Myfonts.com
DIN Next
Image source: Myfonts.com


FF DINの使用例

Source: www.impawards.com License: All Rights Reserved. via Fonts in Use


Gottstein Architects visual identity
Source: www.instagram.com License: All Rights Reserved.

まとめ

DINはもうとにかく人気です。この記事を書いている2023年6月の段階では、Myfontsというフォント販売サイトのランキングで、FF DINが13位、DIN Nextが14位に位置しています。

その理由は、「無機質だが幾何学的ではない」デザインにあるとわたしは考えています。ブランドはある書体をベースにして使用したいが、場面やプロダクトで印象が変わることがある、どの場面でもしっくりさせたい。または歴史と革新性を同時に見せたかったりします。こういった場面にしっくり対応できる書体のひとつとしてDINは人気なのではないかと推測しています。


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参照

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※7


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