《週末アート》 おっぱい丸出しの正体は、NYにもいて、パリ・オリンピックのロゴにもなっている「ドラクロワ」の絵
《週末アート》マガジン
いつもはデザインについて書いていますが、週末はアートの話。noteは毎日午前7時に更新しています。
『民衆を導く自由の女神』(1830)
教科書にも出てきたかもしれないこちらの絵は、ウジェーヌ・ドラクロワ氏が描いた『民衆を導く自由の女神』です。フランス革命の様子を描いたものと思われがちですが、これは1830年におきたフランス7月革命の様子を描いたものです。ちなみにフランス革命は1789年に起こっていますので、フランス7月革命は、それから41年も経って起こったものです。これが起こる前にナポレオン・ボナパルト氏は、セントヘレナ島に島流しにあって1821年に死んじゃっています。この絵画はとても有名で、革命といえば思い浮かぶのでしょう、ドラゴンアッシュというバンドの『Viva La Revolution』というアルバムのジャケットにもモチーフとして使われています。
ほかにもイギリスのコールドプレイというバンドのアルバム『Viva la Vida or Death and All His Friends』のジャケットにはデフォルトされずにこの絵が使われています。
なぜ、おっぱい丸出しなのか?
『解説!「マネ」と「モネ」の違い』でも触れましたが、西洋芸術のなかえは、頻繁に女性のヌードが描かれてきましたが、そこにはひとつの建前がありました。それは、その女性が「神様(またはそれ的な存在)であること」でした。神様だから服着てないじゃん!という建前があり、どうどうと好きなだけヌードが書きまくり、見まくっていたんです。だから「あれ?これは神様じゃなくて普通の人間じゃね?」と思えてしまうエドゥアール・マネの『草上の昼食』がめちゃくちゃ叩かれました。
そんなマネのこの絵は1862年ごろに世に出されたもの。冒頭のドラクロワが描いた『民衆を導く自由の女神』はそれより30年ほどまえ。まだまだ「裸の女性=女神」が常識だった時代です。前置きが長くなりましたが、ここに「なぜ、おっぱい丸出しなのか?」の答えがあります。答えは、女性が「女神」だから。「絵の中でおっぱいを丸出しにしているってことは、女神に違いない」と考えることができる時代だったんです。この丸出しの女性には名前があります。彼女の名前は「マリアンヌ」(Marianne)。ちなみにですが、ドラクロワ氏の『民衆を導く自由の女神』のマリアンヌの向かって左にいる男性はドラクロワ本人です。
「マリアンヌ」ってだれ?
おっぱい丸出しのマリアンヌって誰なのか?おっぱいを出してるので女神であるはず(ちなみにこの絵の原題は「La Liberté guidant le peuple」で「女神」ではなく「自由」なので、本来は「民衆を導く自由」という意味。)。マリアンヌは、フランス共和国を象徴する女性像、もしくはフランス共和国の擬人化されたイメージなんです。そして自由の女神とでもあります。
ニューヨークにある自由の女神像もマリアンヌです。この像は、アメリカ合衆国の独立100周年を記念して、独立運動を支援したフランス人の募金によって贈呈され、1886年に完成したものです。実はこの自由の女神像は、ドラクロワの絵画の女性をモデルにしてデザインされています。
パリ・オリンピック2024のロゴ
2024年夏季オリンピック・パラリンピックはパリで開催されます。そのオリンピック・パラリンピックのロゴがこちら。
マリアンヌを知らないでいると「なぜ女性?」という疑問が湧くかもしれません。それすらデザインされたものでしょう。なぜ?の疑問に答えるかたちで、フランス共和国を象徴するマリアンヌであること、また1900年にパリで女性が初めて競技に参加することが認められたことなどを意味しているなどを伝えられるから。ちなみにワードマーク(文字部分)のデザインは、アールデコを意識してデザインされたものです。
ドラクロワってどんな人?
この絵を描いたドラクロワ氏はどんな人だったのでしょう。
名前:ウジェーヌ・ドラクロワ(Eugène Delacroix)
生没:1798-1863
国:フランス
スタイル:ロマン主義
ウジェーヌ・ドラクロワ氏は、フランスのロマン主義を代表する画家です。新古典主義の画家ピエール=ナルシス・ゲラン(Pierre-Narcisse Guérin) に入門し、1822年、『ダンテの小舟』で、先輩画家アントワーヌ=ジャン・グロ(Antoine-Jean Gros)氏の強力な推薦もありサロンに入選。1824年(26歳)、サロンに『キオス島の虐殺』を出品。この作品は、実際に起きた事件を題材にしたもので、批判されます。当時、絵画のテーマは現在のことではなく過去や神話などを扱うことが通例だったため。こうして、古典に縛られず、今の自分たちを、その感情を表現しようとした運動を「ロマン主義」と呼びます。
ドラクロワの他の作品
ロマン主義って?
ロマン主義(Romanticism)は、18世紀末にヨーロッパで起こった芸術、文学、音楽の運動であり、多くの地域では1800年から1850年の時期に最盛期を迎えました。
ロマン主義の特徴は、感情や個人主義を重視し、自然を理想化し、科学や工業化を疑い、古典よりも中世を強く好み、過去を美化したことです。 産業革命、啓蒙時代の社会・政治規範、自然の科学的合理化という、近代のすべての要素への反発も含まれていました。
ロマン主義といえば、ドラクロワ氏の絵画がまず例としてよく挙げられます。文学ならヴィクトル・ユゴー氏の『レ・ミゼラブル』(1862)。
日本ではロマンを「浪漫」と漢字で当て字することもありますが、これを始めたのは夏目漱石氏。
理性や合理とは対象的に、個人、現在、感情、恋愛などを表現の中心にしたのがロマン主義でした。「ロマンティック」という表現はこのロマン主義に由来したものです。
まとめ
「なぜおっぱい丸出し?」を理解するだけで、西洋絵画のヌードは何を描いたものか、自由の女神像の正体、パリ・オリンピックのロゴがなぜ女性なのか、ロマン主義って何か、ドラクロワってどんな画家か、あたりまでざっくりしれて、なかなかお得な気がします。しかし『民衆を導く自由の女神』の下部で倒れている男性が、なぜ下半身だけ裸なのかは、わからないんです。なんとなくかわいそうです。
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参照
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